*十年愛*

頼久×あかね


 十年。

 言葉にしても、振り返っても本当にあっという間だ。

 15の時に異世界の平安時代の動乱に巻き込まれ、生まれた場所に帰ってきてから15からやり直した。

 あの経験がなかったら、頼久とは出会うことはなかった。あれがなければー果たしてここまで頼久との絆が深かったのかと言われたら、否だろう。

 命を懸けて貫いた愛だからこそ、これからも離れないと確信することが出来るのだ。

 あかねは、戻って来てからの10年間の写真をのんびりと見つめる。

 最初はかなり硬い融通の利かない男と思っていたが、その陰にある大きくて誠実優しさに、あかねはずっと支えられてきたのだ。

 大人の男なのに、何処か子供のようなところがあるところが可愛いのに、頼りになるひと。

 そんな複雑で素敵なひとと出会わせてくれた平安の異世界。

 遠い昔にすら思えてしまう、世界。

 あかねにとっても、頼久にとっても、忘れることが出来ない時間の流れだったのだから。

 

 ふたりでこの時空に戻ってきてから十年。

 龍神のご加護のお陰で、頼久は生まれた時からこの世界にいることになっていた。

 これには龍神に感謝した。

 本当の意味での愛の言葉を貰うまでは、少し時間が掛かってしまったけれど、その後はスムーズに進んだ。

 今、ふたりは無事に結婚し、小さな息子がいる。

 頼久は相変わらず勤勉で、この京都にある有名な大企業に就職をして、頑張っている。

 ある意味、あの時空でも、名門と呼ばれる家に武士として仕えて来たのだから、同じようなことが言えるのかもしれないが。

 あかねはそんな頼久に感謝をしている。

 あかねも息子も、しっかりと守ってくれているのだから。

 

 あかねが家から出ると、風情ある通りを、頼久と息子が手を繋いで歩いてくるのが見えた。

 こうして見つめているだけで、癒される気分だ。

 息子は頼久によく似ていて、何処から見ても、小さな武士なのだ。

 それが可愛い。

「母様!」

 あかねの姿を見つけるなり、小さな息子が走ってやってくる。

 あかねは手を広げて待ち構えた。

 少し言葉遣いが武士のようなところが、また父親に似て可愛かったりするのだ。

 息子を捕まえて、あかねが抱き締めると、頼久がゆっくりとこちらにやってきて、落ち着いた笑みを浮かべる。

「あかね、ぶぶ受けを買って来ましたよ」

「あ! カレー味の豆だねー。私、これが物凄く好きなんだよ」

「ええ。ですから買って来たんですよ」

「有り難う」

 あかねが笑顔で礼を言うと、頼久は光り輝く笑みをくれた。

「お昼ご飯が出来ているよ。一緒に食べよう」

「それはかたじけないです、あかね」

「かたじけないっ」

 親子揃ってまるっきりの武士だから、あかねは思わず笑ってしまった。

 本当に素敵な親子だ。

 親子三人で家の中に入ると、直ぐに和室ダイニングで昼食を取る。

 やはり頼久は和食が好きなので、あかねはなるべくそれを叶えてあげられるようにしている。

 今日は魚を焼いてお味噌汁、揚げと野菜を炊いたもの、つけもの、ご飯と完全に和だ。

「やはりこのような食事が一番落ち着きます」

「そうだね」

 親子でこうして静かに、そして、何処か優しい時間を過ごすというのは、やはりとっても幸せだ。

 頼久がこの世界に来てからというもの、この幸せをたっぷりと味わっている。

 

 昼食の後は、頼久は息子に剣道の稽古をつける。休みの日の日課になっているのだ。

 そしてあかねも、二人の稽古を見るのが楽しみになっていた。

「父様! 僕はもう少し頑張ります! 生まれてくる妹のため」

 息子は、あかねのお腹の中にいる新しい命を、すっかり妹だと思い込んで、守るためだとしっかりと稽古をしている。

 それもまた可愛いと、あかねは思った。

 子供は、男でも女でもどちらでも構わない。

 ただ、健康であれば良いとは思った。

 だが、折角の息子の優しい想いを無駄にしたくはないと、あかねは思っていた。

「誰かを守るためには強くなることが必要だ。しっかりと頑張りなさい」

「はいっ」

 息子が何度も父親に果敢に挑み続けた。

 

 今日はしっかりと剣道の稽古をしたからか、息子は夕食の時間から疲れてウトウトしてしまい、そのまま眠ってしまった。

 そのお陰か、ふたりきりの時間が、いつもよりも多く取ることが出来るのが、嬉しかった。

 ふたりでのんびりと和室で寛ぐ。

 ふたりでいる時は、こうしてのんびりとした時間を重ねることが必要だ。

「あの子、随分と、剣道が上手くなりましたね」

「…そうですね…。そのうち、私を剣術で追い越してしまうかもしれないですね…」

 頼久は苦笑いを浮かべながらも、何処か嬉しそうだ。

「それはないような気がします。あの子は素晴らしい剣士ではありますけれど、父様には及ばないです。頼久さんに私たちはいつも守られているのですからね。感謝しています」

 あかねは落ち着いた癒された気分に笑みを滲ませながら、頼久を見る。

「あの子は素晴らしいですよ。親バカかもしれませんが」

「ええ。ですが私にとっては、頼久さん以上の武士はいません。あちらの時空にいた時も、こちらに来てからの十年も常に守って貰っていましたから」

 あかねは頼久に寄り添いながら、柔らかい笑みを浮かべた。

「…私こそ…あかねに沢山守って貰っていますよ…。こちらの世界に来てからの十年も、これからもずっと…」

 頼久は思慮深くも落ち着いた声で呟くと、突如、立ち上がる。

「どうしたの?」

「あかね、少しお待ちください」

 頼久は柔らかく言うと、奥の部屋に向かった。

 暫くして戻ってきた頼久の手には、長方形のジュエリーボックスがあった。

「…こちらに来てからーずっとあなたには支えて貰っていましたから…。その御礼ですよ」

「…有り難う、頼久さん…」

 まさかプレゼントを貰えるなんて思ってもみなくて、あかねは半ば泣きそうになりながら、頼久を見た。

 嬉しさと感動が心を満たして、あかねは泣き笑いの表情を浮かべる。

 本当に泣きそうになる。

「…頼久さん、開けてみても良いかな」

「どうぞ」

 あかねは大切なプレゼントを、丁寧に開ける。

 そこには、頼久の誕生石であるオパールにダイヤモンドを囲んだペンダントトップが入っていた。

 こんなに素敵なものをプレゼントされるとは思ってもみなかった。

「…有り難う…。物凄く嬉しいよ。頼久さん…」

「あなたには感謝をしてもしきれませんから、こんなことでお返しが出来るなどては思ってはいませんが…」

「…私こそ頼久さんには何も返してはいないです…」

 あかねが涙目で頼久を見つめると、いきなり力強く抱き締められた。

「…あなたは充分、私を幸せにして下さっています。私こそ、あなたにどうやってその想いを返して良いのかが分かりませんから…」

 そう言って、頼久は思い切りあかねを抱き締めて来た。

 息が出来ないぐらいに苦しい。

 なのに幸せだ。

 あかねもまたしっかりと頼久を抱き締める。

「…有り難う…。愛しています、頼久さん」

「私もあなただけを愛していますよ」

 ふたりはしっかりと抱き合った後、深い角度で唇を重ね合う。

 そろそろお腹が邪魔になってしまう時期だけれども、それでもお腹の子供ごと愛されているのをじっかんして、あかねは更に頼久に擦り寄る。

 ふたりで何度も唇を重ねながら、その幸せを感じずにはいられなかった。

 十年有り難う。

 これからも一緒。





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