Jolly Birthday


 あのひとが好き。
 大好きでたまらない。
 だから、ひねくれたような照れ臭い笑顔が見たくて、今年もこの日を迎えます。

 お酒がいいかしら。
 それともミネラルたっぷりの美味しい水?
 手づくりのラムシチューと、リキュールがたっぷり入った手づくりのビターなチョコレートケーキを添えて。
 あなたの産まれた日を、シャンパンで乾杯をしましょう!
 大好きな大好きなあなたが、照れて目を細める姿がみたいの。

 大切な日だとレイチェルも解ってくれているのか、この日は休みをくれた。
 アリオスも休日な筈なのに、こうして待っていても、一向に帰っては来ない。
 ラムシチューも、リキュールたっぷりのチョコレートケーキも揃っているのに、アリオスがいない…。
 肝心なひとがいなければ、あんなに想いの丈を込めたケーキも意味をなさない。あんなに頑張って作ったラムシチューであっても、なくても当然のこと。
 …アリオスさえいれば…。
 アリオスさえいれば、どんなに寒々しい部屋でも、暖炉が赤々と灯った素敵な空間になる。
 アリオスさえいれば、暗い部屋も太陽のように明るくなる。
 アリオスさえいれば…。
「…帰ってきて…」
 ひとりごちると、何だか泣きたくなった。
 せっかく、ふたりきりでディナーを愉しもうと思っていたのに、ここには意地悪な魔天使はいない。
 アンジェリークの心を掻き乱しまくる、あの憎らしい魔天使はいないのだ。
「アンジェ、ちょっといい?」
 暗い気分になっているアンジェリークを悟ったのか、レイチェルがそっと部屋を訪ねてきてくれた。
「なあに?」
「あのさ、アリオスのやつのことだけれど、調査にちょっとしたトラブるがあって、エンジュのサポートしてもらってるんだ」
 言い難そうにレイチェルは話し、眉間にシワを寄せている。
 使命なら仕方がない。
 だが女王でない自分が、どこかで悲鳴を上げていた。
 切なくて胸が軋みそうだ。
「あ、だけどね、任務完了の連絡を貰ったから、直ぐに帰ってくるよ。今回だけは出欠大サービスで、直ぐに帰れるように手配したから」
 ちょんと眉間のシワを指で弾かれて、アンジェリークは笑みを零した。
 レイチェルの優しい気遣いが、心に深く染み込んでくる。
 どうも有り難うと、心を込めて言えば、レイチェルは笑って頷いてくれた。
 どうってことはないと。
「シチュー冷めちゃったから、温め直しておきなよ。ホントに直ぐに帰って来るから!」
「うん! レイチェル、ホントに有り難う」
 アンジェリークは心からの感謝と温かな光の想いを込めて、レイチェルに微笑む。
 気さくな一番の友人は、笑って頷いてくれた。
「いいって! お互い様じゃない! じゃあ良い日を過ごしてね!」
「うん!」
 アンジェリークはレイチェルを見送った後、早速、シチューを温め直した。
 するとタイミング通りに、部屋がノックされる音が響き渡った。
「はいっ!」
 返事をする声もいつもにも増して、華やいで高いものになる。ひっくりかえってしまう始末だ。
 まるで仔犬みたいにころころと駆けて行くと、ドアの前にアリオスが立っていた。
「よう、元気だったか?」
 少し憎らしいアリオスの挨拶。それがまた彼らしくて、アンジェリークは笑みを浮かべる。
「お帰りなさい!」
 抱き着くと、逞しい腕がしっかりと受け止めてくれる。
 軽くて甘い、おかえりのキスは、どんなスウィーツだって太刀打ちが出来ない。
「お帰りなさい! 誕生日おめでとう! 御飯もプレゼントもあるから!」
 興奮するようにアンジェリークが言うと、アリオスはフッと大人の笑みを浮かべる。
「サンキュな。だが、今すぐ欲しいプレゼントがあるんだが…かまわねぇか?」
 アリオスは栗色の髪を撫でながら、アンジェリークにしか見せない優しく包み込むような笑みを浮かべる。そこには甘えも滲んでいたが、違和感は少しもなかった。
「プレゼント?」
「ああ。ソファの一番端にに座ってくれ」
「こう?」
「ああ」
 アンジェリークがソファに座るなり、アリオスがその膝を枕にして、ごろりと横になった。
「えっ…!?」
 真っ赤になってうろたえていると、アリオスは瞳を閉じながら口角を上げる。
「お前のひざ枕じゃねぇと、熟睡出来ねぇんだよ」
 アリオスはまるで子供みたいに、駄々をこねる。それがとても可愛いと感じてしまう。
「しょうがないなあ…」
 アンジェリークはくすくすと笑うと、アリオスの綺麗な髪をゆっくりと撫でる。
 やがてアリオスからかすかな寝息が聞こえ、アンジェリークは微笑みながら、瞳にキスをした。
「誕生日、おめでとう」




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