ヴァイオリニストと外科医。 どちらも多忙を極める職業で、なかなか時間をコントロールすることが出来ない仕事だ。 だが、大地もかなでも時間を一生懸命にやりくりをして隙間時間を作り、愛を育んできた。 そしてようやく、一緒になれた。 タイミングはベストでギリギリといったところだった。 お互いにこれ以上は待つことが出来なかったからだ。 かなでと大地は、横浜に新居を構えた。 大地はいずれ病院を継がなければならないが、それまではふたりでマンション生活だ。 二人でこうして同じ人生を歩む。 ずっと夢見てきたことだったから、かなでは嬉しかった。 ふたりで夜を過ごせることも多くなったが、大地は職業柄、夜に仕事をしなければならないこともある。 しかも今は博士号の論文を抱えていて、仕事と両立をしなければならない立場に立たされている。 だからこそ、かなでは大地を見守るように支えようと考えていた。 今夜もふたりで甘くて熱い時間を過ごせるわ かなではうとうとしながら、柔らかなまどろみを楽しんでいた。 本当に心地好いまどろみだ。 このまま目を閉じていたいと思う。 大地に抱き締められて、お互いの温もりをシェアする。 なんてロマンティックで幸せなのだろうか。 夢見ていた新婚生活を送ることが出来て、かなでは嬉しくてしょうがなかった。 今夜も幸せなまどろみを貰いながら、かなでは大地に華奢な躰をすり寄せた。 大地はくすりと笑って、かなでを抱き締めてくれた後で、ベッドから出た。 「…大地さん…?」 余りに寂しかったから、つい子供のような不安げな声を出してしまう。 「…ごめん。論文の締切りがもうすぐだから、一時間ほどかかるよ…」 大地は後ろ髪を引かれるような切ない表情をすると、かなでの頬に軽くキスをしてくれた。 優しくて甘いキスだ。 「…大地さん、余り無理をしないでね」 かなでは大地を心配な気分で見つめる。 大地はフッ柔らかく微笑むと、かなでの髪を優しく撫でてくれた。 「かなで、あまり可愛い顔をしないで欲しいな。君をまた抱きたくなってしまう…。論文をやってから君を抱けば良かったんだけれど…、そこまで我慢することが出来なかった」 大地は苦笑いを浮かべた後で、もう一度かなでをしっかりと抱き締めてくれた。 スルリとベッドから下りて、大地は手早く衣服を身に着ける。 「直ぐに戻ってくるから…。君は眠っていても大丈夫だよ…」 「大地さん…、余り無理はされないで下さいね…」 「ああ、大丈夫だから。無理はしないよ」 「はい」 かなでは大地をベッドの中で見送る。 大地がいってしまうと、まどろみは薄れる。 折角、大地は仕事を頑張るのだから、大好きなコーヒーをきちんと淹れてあげたいと思う。 ヴァイオリニストという仕事柄、夫の大地からはかなり甘やかせて貰っている。 それはかなり有難いことだ。 だからこそせめて返したい。 小さなことで構わないから。 かなでは強くそう思うと、ベッドから出て身仕度を始めた。 本当はかなでを強く抱き締めていたかったけれども、そういうわけにはいかない。 博士号も早く取得して、かなでを安心させてやりたい。 バックアップしてやりたいと、大地は思う。 かなでがいるからこそ、ここまで頑張ってこられたのだと思った。 今夜は、久し振りに二人きりの時間を過ごすことが出来た。 論文のノルマをこなしてから、かなでと眠っても良かったのだが、どうしても我慢出来なかったのが本音だった。 今夜もかなでが可愛すぎて、大地は欲望にあっさりと屈してしまったのだ。 だから今は、こうして論文に真剣にかかる。 かなでのためにも早く博士号を取りたい。 ただそれだけだ。 今日のノルマが終われば、またかなでを抱き締めて眠ることが出来るのだから。 大地にはそれが嬉しかった。 大地の書斎をそっと覗くと、真剣に論文と格闘している様子が見えた。 コーヒーを淹れて、リラックスタイムを持って貰いたい。 かなではキッチンに向かうと、コーヒーメーカーで、大地の好きなとっておきのコーヒーを淹れた。 大地がリラックスして仕事に真剣に取組むことが出来るように。 大地には沢山支えて貰っているから、かなでも沢山支えたかった。 いつも大地がいるからこそ、ヴァイオリニストとしても頑張ることが出来るのだから。 妻として、出来る限りのことをして支えてあげたかった。 美味しくなるように。 大地が最高にリラックス出来るように。 かなではコーヒーにとっておきの魔法をかけるように願いを込めた。 勿論、ダークチョコレートも忘れてはいない。 大地の仕事が捗るようにと、かなではチョコレートを傍らに置いた。 自分の分はホットミルクにしておく。 温かなミルクが飲みたくなったと言い訳をすれば、大地も気にはしないだろう。 かなでは大地の書斎にノックする。 「…大地さん…」 邪魔をしない程度にノックをして、かなではドアを開けた。 すると大地は振り向く。困ったように笑いながら。 「かなで、寝ていれば良かったのに…」 「お邪魔じゃなかったらコーヒーです。カフェインフリーですから大丈夫ですよ。私も温かなミルクを飲んでのんびりとしたかったので、ちょうど良かったんです」 「有り難う」 「横に置いておきますね。お邪魔になるから、私はミルクを飲んだら寝ますね」 「かなで、ミルクを飲むまではそばにいてくれても構わないかな?」 「はい、もちろん! そばにいさせて下さいね」 「有り難う」 かなでは大地の邪魔にはならない程度に、少し後ろに座ってホットミルクを飲む。 落ち着いた安らぎが得られる瞬間だ。 大地の仕事をしている様子を見るのが、かなでは何よりも好きだ。 優しく幸せな気持ちになれるからだ。 大地を見ているだけで、とっておきの時間を過ごすことが出来るのだから。 大地はかなり集中して論文を進めることが出来た。 予定よりも短い時間で、予定以上に進められた。 これだけやっていれば、恐らくは大丈夫だ。 「かなで、今日の仕事はおしまいだ。ベッドに戻ろうか?」 大地が声を掛けると、かなでは幸せそうに微笑んだ。 「じゃあコーヒーを片付けますね」 「ああ、じゃあ俺は仕事の片付けをする」 「はい」 かなではキッチンに向かい、マグカップを片付けてくれる。 大地は一足先に仕事の後片付けを済ませると、キッチンへと向かった。 ちょうどかなでも片付け終わったところだだった。 「さあベッドに戻ろうか? ふたりでゆっくりと眠ろう…」 「はい」 かなでが笑顔で言うと、大地はその華奢な躰を抱き上げる。 幸せなまどろみを共有するためにベッドへと向かった。 「また快適な夢を見るために、君には協力して貰わなければならないね…」 大地はフッと甘くて艶のある笑みを浮かべる。 背中が震えるほどの大地の色香に、かなでは震えながらも甘い笑みを浮かべる。 大地とふたりだけの甘い甘い甘い時間。 熱くて幸せな瞬間を共有するために、ふたりはしっかりと抱き合った。 愛し合った後、今度こそふたりは幸せな気分でまどろみながら抱き合うわ 今日は仕事をしたから、明日はご褒美に少しぐらいは寝坊しても良いかもしれない。 大地はかなでの瞼にキスをすると、更に深く抱き締める。 温もりが幸せにしてくれるのを感じながら、そっと目を閉じた。
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