*おさんぽ*


 今日は大地と犬の散歩デートに出掛ける。

 大地の愛犬であるモモが大好きなので、かなでには癒されるデートだ。

 待ち合わせ場所は、菩提樹寮。

 大地が迎えに来てくれるのだ。

 本格的な受験体勢に入っているから、大地とは余り一緒にはいられない。

 気分転換にしている犬の散歩が、ふたりにとっては最高のコミュニケーションなのだ。

「ひなちゃん、お待たせしたね。行こうか」

「はい」

 夕方と朝の散歩は出来る限り一緒にしようと思っている。

 こうしてふたりでいると、とても華やいだ幸せな気分でいられるのだ。

「モモの散歩は楽しいです。本当に豆柴って可愛いです」

「うちでも一目ぼれだったからね、モモには。こういう純粋な可愛さが堪らないんだよね」

「はい。素朴な可愛さって良いですね」

 かなではモモを夢中になって撫でる。尻尾を振ってくれるのが、とても嬉しかった。

「素朴な可愛さってやっぱり良いよね。だからかな、ひなちゃんを好きになったのは」

 大地はかなでを甘いまなざしで見つめてくる。

 こんなにも甘いまなざしで見つめられたら、かなでは蕩けてしまいそうになる。

 大地を見ているだけで、ドキドキして、耳まで真っ赤になる。

 それぐらいに大地は魅力的だった。

「ひなちゃん、耳が真っ赤だ。可愛いね」

「…あ、あの…、恥ずかしいです…。この場合は、有り難う…でしょうか」

 しどろもどろに言うと、大地は頭を撫でてくる。

「ホント、ひなちゃんは可愛いなあ」

 大地は明るく満足げに言う。

 甘いスキンシップには、まだまだ馴れないけれども、それでも素敵な気分でいられるのは確かだ。

 ふたりで手を繋いで山手界隈を散歩する。

 こうして清々しい秋の風を浴びながら歩くのはなんてロマンティックなのだろうか。

 大地の恋人として嬉しく、そして誇らしくなる瞬間だ。

「ひなちゃん、ヴァイオリンがかなりのスピードで上達している聞いているよ。俺にも聴かせてくれないかな」

「はい、もちろんです! まだまだですが、コンクールに出たことで、随分とステップアップ出来ています。だから最初からずっとアンサンブルを組んで下さった大地先輩に感謝です」

「君はいつも前向きだね。ひなちゃんが一生懸命に努力をしている姿を見たら、俺も頑張らなければならないって思うよ」

 大地は眩しい笑顔を向けてくれる。

「…私、目標に向けて頑張る大切さや、しっかりと自分を持って前に進んでいくことの素晴らしさを、夏のコンクールを通じて教わったんです。だから、今、こうして前向きに努力をすることが出来るのは、大地先輩やアンサンブルメンバーのお陰です」

「有り難う。ひなちゃんが前向きで頑張る姿を見ていると、結局は俺たちも刺激されて頑張れるんだよ」

「私も大地先輩には、かなり刺激をされています。大地先輩は、さり気なく高いハードルの目標を飛び越えてしまうところを尊敬しているんですよ。ホントに…」

「ひなちゃん」

 大地は眩しそうに目をスッと細めている。

 その瞳にはとても優しい色が宿っていた。

 ふたりはつい笑みを浮べてしまう。

 ふたりだけの甘いコミュニケーションがそこには存在している。

「ワンっ!」

 不意に足下からはモモの鳴き声が聞こえた。

 恐らくは放っておかれたのが気に食わないのだろう。

「ごめんね、モモ」

「モモ」

 かなでと大地が交互に頭を撫でてやると、とても幸せそうに目を細めていた。

「モモちゃん、楽しそう」

「そうだね。きっと自分のことに構って貰って嬉しかっただろうからね」

「そうですね」

 モモはすっかり機嫌を取り戻して、何度も尻尾を振っていた。

 モモを挟んでの三人で散歩。

 この楽しい瞬間が嬉しかった。

「大地先輩のお勉強はどうですか?」

「ああ。ひなちゃんのお陰でかなり順調かな。本当は関西の大学も視野に入れていたんだけれど、やっぱり首都圏の大学が良いと思ってね。ひなちゃんとずっと一緒にいられるほうが俺には幸せなだからね」

「有り難うございます。私も…、大地先輩とは一緒にいるだけで幸せですから」

「有り難う。ひなちゃんは本当に可愛いね。ひなちゃんにそう言って貰えるから、勉強も頑張れるんだよ」

「私こそ大地先輩にいつも励まして貰っているからこそ、ヴァイオリンを頑張れます」

「有り難う」

 お互いに支えあっている。

 ふたりにとってはそれが最も大切なことなのだ。

 大地は、かなでの手をギュッと握り締めると、幸せな温もりを分けてくれた。

「ひなちゃんと一緒に散歩をした後は、いつも勉強が捗るよ」

「大地先輩、私こそ、いつもヴァイオリンの練習の糧になっていますから。大地先輩のお陰で、ヴァイオリンの技術に磨きがかかっているんですよ」

 かなでは笑顔で言うと、大地を見つめた。

「だけど大丈夫ですか? あの、受験勉強に差し障りはないでしょうか」

「大丈夫。ひなちゃんは何も心配しなくても大丈夫だよ。俺はひなちゃんと逢っている間は、とても幸せな気分でいられるから、かえってふたりで逢うほうが、勉強の効率が上がるんだよ」

「有り難う」

「…それに…」

 大地はそこまで言うと、軽く深呼吸をした。

「君との時間は大切で独り占めをしたいと思ってしまうからね。誰にも渡せないからね」

 大地はさらりと爽やかに言うと、かなでの指先を離さないようにと握り締めた。

「私の幸せな時間も同じです」

 かなでは幸せな気分で、大地の手を握り返してくれる。

「ひなちゃんと毎日こうして散歩をするのが、俺にとっては今のところ最高のデートかな。ひなちゃん、受験が終わったら、ふたりで色々と出かけよう。あ、その頃はひなちゃんが受験生か」

 大地は苦笑いを浮かべる。

「ですが、春は色々なところに行きたいです。大地先輩と一緒に。夏はコンクールがありますから、その後は受験体勢に入りますけれど」

 かなでは爽やかな笑顔で大地を見る、

 まるで楽しいとばかりに。

「やっぱり目標があると楽しいとですよね。だから、私、これからも楽しく頑張っていけそうです!」

 目標を決めたらぶれることなく、真直ぐ努力をするかなでを、大地は好きになった。

 こうしてキラキラと輝きながら話しているかなでを見ていると、大地はそれだけで幸せな気分になる。

 本当に良い刺激になる。

 お互いに高めるために刺激をしあいながら、共に歩いていくというのは、なんて素敵なのだろうかと、大地は思う。

 本当にかなでは理想的な女性だ。

 きっとかなで以外では、大地をこんなにも高めて楽しませてくれる女性はいないだろう。

 こんなに早く理想的な女性で巡り逢うことが出来て、大地は嬉しさと幸せでいっぱいになった。

 

「ひなちゃん、それぞれの目標は違っているけれど、お互いにそれを目指して頑張っていこう」

「はい」

 大地がそばにいたら、今までよりも力が漲ってきて、もっと頑張れる。

 更に先のステップにたどり着くことが出来る。

 かなでは大地がいるからこそ前向きでいられるのだと思った。

「わんっ!」

 大地とかなでがふたりの世界を作っていたからか、モモは機嫌が悪くなり、大きな声で鳴いた。

「モモ、ゴメン、ゴメン」

 大地は直ぐに愛犬に視線を合わせると、その頭を撫で付ける。

「モモ、おまえのお陰でひなちゃんといつもこうして時間を持てるんだよ。有り難う」

「モモちゃん、有り難う」

 大好きなふたりからお礼を言われて、モモはご満悦にも尻尾を振っていた。



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