ふたりで一緒に生きてゆくことが、当たり前になりつつある。 ふたりでずっと同じ道を歩いていけたらと思わずにはいられない。 出来たら手を繋いだままで。 なんて考えてしまう。 ようやくヴァイオリンコンサートの全国ツアーが終わり、かなでもホッとした。 全国ツアーとは言っても、日野香穂子がメインのヴァイオリン女子だけのコンサートツアーに参加したのだ。 いつか憧れの日野香穂子のように、コンサートのメインソリストになれたらと思わずにはいられない。 かなではまた目標が出来たことを嬉しく思いながら、日野香穂子とまたいつか共演が出来れば良いのにと思わずにはいられなかった。 日野香穂子には既に生涯のパートナーがいて、そのひとと一緒だからだろうか。 とても愛が溢れた演奏をしている。 どうしてそんなにも温かくて綺麗な音色を奏でられるのか、今回のコンサートツアーで訊いたのだ。 すると案の定、かなでが考えるのと同じ答えが返ってきたのだ。 「人生を供にしようと思うパートナーが出来たからかしら? そのひとのところに必ず戻って来られると思っているから、どこまでも高く飛べるのよ」 日野香穂子は幸せそうに言うと、かなでを見る。 「あなたもそんなひとがいたら、きっと頑張れるわよ。いそうだけれどね」 香穂子の鋭い指摘に、かなでは真っ赤になってしまった。 確かに大地とは、ずっとそのような関係を保ち続けているのだから。 大地がいるからこそ、今まで成長をし続けることが出来たのだ。 「そろそろあなたも年頃だものね。私があなたの年齢の頃は、もう結婚していたから」 香穂子が幸せそうにほんのりと頬をさくら色にしていたのが、印象的だった。 かなでは日野香穂子との会話を思い出しながら、何だかくすぐったい気分になった。 支え、支えられる関係が一番理想的な関係だからだ。 かなでも大地とそのような関係でいられたらと、思わずにはいられない。 大地の姿が見えて、かなでは一生懸命に手を振った。 すると大地は笑顔でこちらに向かって走ってきてくれる。 「お待たせ、ひなちゃん」 「大地先輩、こんにちは。これ、お土産です」 「有り難う」 大地は大切そうにお土産を受け取ってくれる。それがかなでには嬉しかった。 「久し振りだからね、ひなちゃんの好きなところに行こうか」 「はい。大地先輩と一緒にいられたら楽しいですし、嬉しいですから、手を繋いでぶらぶらしたいなあって思って」 「じゃあ、そうしようか」 「はい」 かなでは満面の笑顔を浮かべると、しっかりと頷いた。 ふたりは手を繋いで山下公園周辺をのんびりと歩く。 するとそこには、沢山の親子連れがいた。 賑やかそうに、幸せそうにしている。 それを見ているだけで、こちらまでが幸せな気分になった。 「ひなちゃん、久し振りにマリンタワーに昇ろうか」 「はいっ!」 まるで小さな子供たちのように、ふたりでマリンタワーに走って向かう。 子供の頃のドキドキやワクワクが戻ってきたようで、かなでは嬉しかった。 横浜の街を一望するのは、ランドマークタワーの展望台に上がるのが一番かもしれないが、かなではマリンタワーから見る風景が大好きだった。 「私、マリンタワーから見る横浜が好きなんです。何だか素敵ですよね」 「そうだね。俺もマリンタワーからの風景のほうが好きだ。古き良き横浜の雰囲気を踏襲しているからね」 「はい」 ふたりはマリンタワーの展望台に上がると、まるで小さな子供のように燥いで、双眼鏡をのぞき込んだ。 こうして見ているだけで、何だか楽しい。 ふと、小さな子供が、双眼鏡を見たそうな顔をしているのが見えた。 まだ空いている双眼鏡はあるのだが、かなでと大地が楽しそうにして見ているのが羨ましかったのだろう。 かなではその子に双眼鏡を譲ってあげることにした。 「どうぞ、見てみるかな?」 かなでが幼い子供の目線に立って声を掛けると、とても嬉しそうに無邪気に笑った。 「ありがとう!」 小さな子供は無邪気に礼を言ってくれると、台に上がって双眼鏡を覗き込もうとする。 だが小さ過ぎて、届かない。 「ほら」 大地が見える位置まで抱っこをして、子供の躰を支えた。 「わあ! ありがとう!」 子供は本当に嬉しいですようで、感嘆の声を上げる。 その様子を見ているだけで、かなでは幸せな気分になれた。 「ありがとう!」 子供は双眼鏡を見て満足した後、両親のところに走ってゆく。 両親はふたりに礼を言って、展望台から出ていった。 「喜んでくれたみたいで良かったですね」 「そうだね」 大地とかなでは、お互いに笑顔になると、幸せな気分で笑い合った。 「大地先輩は良いお父さんになりますよ」 本当に何気なく言ったつもりで、かなでには他意はなかった。 だが、大地は甘く微笑んで、かなでの手をしっかりと握り締める。 「ひなちゃん、君も良いお母さんになると思うよ」 大地の甘さが含まれた言葉が嬉しくて、かなでは恥ずかしさと嬉しさで白い頬を染め上げる。 「ありがとう」 かなでがごく自然に上目遣いで大地を見つめると、手をギュッと握り締めてくれた。 こうして手をしっかりと握り締めるだけで、大地と本当に近い場所でいられるのだということが実感出来て、とても嬉しい。 かなでは、大地と手を繋いでいるだけで本当に幸せだと思った。 ずっとこうして手を繋いでいられたらと思わずにはいられない。 「ひなちゃん、ずっとこうしていられたら良いね」 大地自ら言ってくれるのが、とても嬉しい。 「…私も、今、そう思っていたところなんです。大地先輩と、ずっとこうして手を繋いでいられる関係だったらと思います。人生でも」 かなでがにっこりと笑うと、大地は頷いた。 「俺もそう思うよ。ずっとひなちゃんと人生でも手を繋いでいられたらって」 大地はそこまで言うと、かなでを見た。 「ひなちゃん、今から学院に行かないか? 俺は行きたくなった」 「私も行きたいです。行きましょう」 「うん」 ふたりは手を離さないまま、マリンタワーを出て、懐かしき出会いの場所である星奏学院へと向かった。 「やっぱり今でもここから入れるんだな。全く不用心だ」 「本当に!」 ふたりはくすりと笑いながら、高校生に戻ったように燥いで、オーケストラ部の部室に忍び込んだ。 「ひなちゃん」 大地は高校生の頃と同じように、かなでに手を貸してくれる。 懐かしくて温かな想いが流れてきた。 「ここがベストかな」 「何がですか?」 何がベストなのだろうかと、かなでは不思議に思いながら、大地を真直ぐ見つめる。 すると大地は甘く微笑んで、見つめてくれた。 大地の瞳は何処か真摯だ。 「ひなちゃん、これまで一緒に過ごしてくれて有り難う。これからも一緒に過ごして欲しい。これからと言っても、短いこれからじゃない。生涯を終えるまでずっと…」 大地の誠実な言葉が、かなでの心にしっかりと響いてくる。 それが嬉しくて、かなでは涙ぐんでしまう。 こんなにも感動したことはないと思う。 かなでは潤んだまなざしで大地を見た。 「ひなちゃん、結婚して欲しい。君はいつでも俺を幸せにしてくれる。今度は俺が幸せにする」 大地からの真直ぐで心の籠ったプロポーズに、かなでは涙ぐむ。 「はい。有り難うございます。あなたと結婚します」 かなでは泣き笑いを浮かべながら、大地を見上げる。すると大地はかなでの頬に触れて、そっと顔を近付ける。 誓いのキスはとても甘くてロマンティックだった。 かなでは背伸びをしながら、キスに酔い痴れる。 最高のプロポーズ。 かなでは一生、忘れないと思った。 |