大地と結婚をしたからといって、かなでの生活が劇的に変化したかと言われたら、そうでもない。 婚約期間中もかなり密度の濃い時間を過ごしていたからだ。 とはいえ、やはり結婚すると同じ家で暮らすのだから、かなり一緒の時間は取れるようになった。 といってもふたりともかなり忙しい身であるということは、全く変わらないから、そのあたりの変化はないといえばないのではあるが。 かなでは隙間時間であったとしても、やはり大好きな大地と一緒にいられるというのは、嬉しくてしょうがなかった。 大地がいれば、それだけで嬉しいし幸せなのだ。 特に何をするというわけでもないのだが、それでも幸せでいられるのはとても嬉しいことだった。 大地と久しぶりに夜をのんびりと過ごすことが出来る。 団欒のような時間を持つと、本当に結婚したのだということを、心から実感する。 食事の後で、ふたりでのんびりとする時間帯が、何よりも幸せな時間だ。 食事をした後、ふたりはデザートを食べながら、のんびりとした時間を過ごしていた。 「こうして大地さんと一緒にいるのは久しぶりだから、とても幸せです」 「俺も夜勤が多かったから、こうしてふたりで過ごす時間も少なかったからね。幸せな気分だよ」 「はい」 大地とふたりでこうして共に過ごすことが、今のかなでには掛け替えのない幸せ時間だ。 大地は最新の医療雑誌を読み、かなでは楽譜を確認する。 ふたりで同じ空間にいるということが、今や最も大切なことになっている。 大地が夢中になって、海外の医学雑誌を読んでいる。 誰よりも患者のことを考えている素晴らしい外科医だと、かなでは思っている。 ただ親の敷いたレールに乗っただけだと、大地は笑っていたが、本当はそうでないことぐらいは、かなでが一番よく解っている。 最初はそうだったかもしれない。 だが、高校を卒業する頃には、怪我によって希望や夢が絶たれるひとを、少しでも少なくしたいという想いが強くなっていったことを、そばにいたかなでは一番よく解っていた。 明日はふたりともオフだけれども、かなでは大地の好きなように過ごさせてあげようと思っている。 それが一番良いことのように思えたから。 かなでにとって、大地は束縛をしたくないほどに愛している相手だ。 だからこそ、穏やかで楽しい時間を過ごして欲しいと、思わずにはいられなかった。 楽譜を見ているよりも、大地を見ているほうが楽しくなってしまい、かなではついくすりと笑った。 雑誌を読み耽る大地は、うっとりとするぐらいに綺麗だ。 高校生の頃からずっと一緒にいるのだけれども、それでも何度見つめても厭きないぐらいに精悍で素敵だと思う。 かなでの熱い憧れのまなざしに気が付いたのか、大地はふと視線を向けて来た。 「どうした…?」 「何でもありませんよ。幸せな気分だなって思ったんです。大地さんの横顔は、やっぱり素敵だと思いますから」 かなでは素直に自分の想いを伝える。 すると、大地はフッと微笑んで、かなでを抱き寄せてきた。 「お前は可愛いことばかりを言うね…」 「…あっ…」 そのままフローリングに押し倒されて、組み敷かれる格好になる。 大地の甘くて美しい顔を間近に見えて、かなでは呼吸をおかしくなるのではないかと、思った。 「…大地さん…」 何時まで経っても、この急接近には慣れない。 ドキドキし過ぎてどうしようもなくなる。 緊張の度合いをコントロール出来なくなってしまうのだ。 かなでが甘い緊張に震えていると、大地は楽しそうに笑う。 「君は何時まで経っても変わらないね。大好きだよ」 「…大地さん…」 大地は目を閉じて、少しずつ顔を近付けて来る。 かなではうっとりとした夢見心地の気分で目を閉じた。 結婚をしてもいつまで経ってもかうしてときめいていられる。 そんなロマンティックで最高の相手に出会えたことを、かなではとても幸せに思った。 大地はかなでをしっかりと抱き寄せると、そのまま唇を重ねてくる。 甘いキスに、かなでは自分自身が蜂蜜にでもなった気分だ。 とろとろとした甘さに、かなではたゆたゆと漂いたくなる。 最初は甘味たっぷりのキスが下りてくる。 こうして軽く唇を何度も音を立てて重ね合うのが、かなでの楽しみでもある。 甘くてとろとろとしたキスから、まるで太陽の陽射しのような情熱が感じられるキスに移ってゆく。 甘いキスから激しいキスへ。 互いに舌を絡ませ合いながら、ふたりは恋情を交換し合う。 唾液が絡んでも、息が激しくなっても、キスを止めたくはなかった。 お互いの心の奥底までもを知り尽すような激しいキスを重ね合いながら、ふたりは離れないようにとしっかりと抱き合った。 お互いの熱で、衣服が溶けてしまうのではないかと思うほどに熱くなる。 キスをしていると、ふたりを隔てる総てのものが邪魔で仕方がなくなる。 もどかしい。 キスをして甘い吐息を吐きながら、ふたりは更なる密着を望む。 大地は、かなでと自分自身の衣服を総てはぎ取ってしまうと、このまま甘い時間へと突き進む。 激しくも濃密な愛の時間へと。 お互いにがっつくように求め合った後、心地好い疲労を手にして、フローリングに横たわる。 「…かなで…」 大地は優しく声を掛けると、かなでの華奢な躰をそっと抱き寄せた。 「…おまえは本当に可愛いね…」 「…大地さん…」 大地は、かなでの鼻のてっぺんにキスをすると、更に強く抱き締めてきた。 「明日の休みは何をしたい? 何処か行きたいところはないかな?」 「したいことは、大地さんと一緒にいることです。これ、本当なんですよ。大地さんと一緒にいてのんびり出来たら、私はそれで良いかなあって思っています。あ、ふたりで手を繋いで、近所のスーパーでお買い物をするのも良いですよね」 かなでは手を繋いで買い物をすると考えるだけで、つい笑顔になった。 「本当にそれで良い? 余り遠出が出来ないからね…。君がそれで良いというのなら、少しだけ甘えさせて貰っても構わないかな? 連休が取れたら、ふたりで温泉でも行こうか。それを約束しておこう」 「はい!」 大地とのんびりと温泉に行くと考えただけで、嬉しくて小躍りしたくなった。 「明日をゆっくりと過ごせるとなると、今夜はゆっくり出来るね。久し振りに君を沢山独占することが出来ると思うだけで、俺は嬉しいよ。有り難う」 「私も、大地さんとはゆっくりと過ごしたかったんです。幸せで贅沢な時間の使い方ですね」 かなではふたりだけでのんびりと出来るのが何よりも幸せで、満面の笑顔を浮かべる。 「…かなで…」 大地はくぐもった声で名前を呼ぶと、堪らないとばかりに抱き締めて来る。 「本当に可愛い過ぎ…。欲しくなった」 「え…?」 愛し合ったばかりだというのに、大地は官能的な笑みを浮かべて、かなでを軽々と抱き上げる。 そのまま寝室に連れてゆくと、幸せで情熱的な時間が紡がれたのは、言うまでもなかった。 こうしてふたりだけの時間が持てるというのは、なんて贅沢なことなのだろうかと、思わずにはいられない。 大地は、疲れて眠るかなでを抱き寄せて、額にキスをする。 「愛しているよ。いつも有り難う」 大地は、これからもずっとかなでを守って、ふたりきりの時間を大切にして行こうと、強く、思った。 |