*梅雨の恋空*


 梅雨時の天気は読めない。

 つい先程まで晴れていたと思えば、直ぐに曇って雨が降ってくる。

 大地とかなでも、つい先程までは晴天と思って、公園でじっくりと植物を見ていた。

 ヴァイオリンを奏でるには、自然の芸術もとても参考になるのだ。

 折角、植物を楽しんでいたというのに、ほんの僅かな時間で雲行きが怪しくなり、雨が激しく降り出した。

 晴天だと思っていたから傘なんて持っていなかった。

 晴天だと思っていたから、思い切り白いワンピースに日傘でやってきたのに、これでは台無しだ。

 天気予報も雨が降るなんてひとつも言っていなかったというのに。

 現実は土砂降りだ。

「ひなちゃん、とりあえずは俺のマンションに行こう」

「はい」

 大地はかなでの手をしっかりと握り締めてくれると、そのまま走り出す。

 大地に手を取られて雨の中を駆け出すなんて、ロマンティックだと思う。

 しかも雨の横浜なのだ。

 ロマンティックにならないはずはない。

 まるで映画のワンシーンのようだと、かなではおもわずにはいられなかった。

 公園から少し走ると、大地の住むマンションがある。

 最近、大地は一人暮らしを始めたのだ。

 かなでもたまに遊びにいっている。

 かなでも大学生になり、寮を出て一人暮らしを始めた。

 大地も一人暮らしということで、これからは徐々に行来が増えることだろうと思っている。

 大地のマンションに着くと、直ぐに部屋に上がらせて貰った。

「ひなちゃん、直ぐにバスタオルを持ってくるから」

「有り難うございます」

 大地のテリトリーに入るだけで、かなでは甘い緊張にくらくらしそうだった。

 ここにいるだけでときめき過ぎて死んでしまうのではないかと、思ってしまうほどだ。 

 それぐらいにときめいてしまう。

「ひなちゃん、突っ立っていないで、座ったらどうかな?」

「あ、有り難うございます」

 大地に勧められて腰を下ろすものの、落ち着かなくてそわそわしてしまう。

 本当にどうして良いのかが分からないのが、本音だった。

「大地先輩、ご実家が近いのにどうして一人暮らしを始められたんですか?」

 かなでが率直な質問をぶつけると、バスタオル片手に、大地が戻ってきた。

「…それはひなちゃんを部屋に連れ込むためかな」

 本気とも冗談ともつかない声で言われて、かなではどう返事をして良いのかを戸惑ってしまった。

「あ、あの…」

 ほんのりとうろたえると、大地は優しく喉を鳴らして笑う。

「冗談だよ。はい、ひなちゃん、バスタオル」

 大地にバスタオルを渡されて、かなではドキドキしながら受け取った。

「流石に雨に濡れたからね。ひなちゃん、温かいミルクでも飲む?」

「あ、有り難うございます。お願いします」

「解った」

 大地は直ぐにマグカップにミルクを入れて、電子レンジで温めてくれる。

 かなではホットミルクを待つ間も、少しも落ち着かなかった。

 大地の部屋で濡れた躰をバスタオルで拭くシチュエーションが、甘い緊張を生んでいるのかもしれない。

 濡れた髪を拭くのが上手くいかずに、何処かやる気がないように拭いてしまう。

 どういうことか、髪ばかりが気になって、そこばかりを拭いてしまっていた。

「ひなちゃん、ホットミルクを飲んで、少しは温まると良い」

 大地はそう言いながら、かなでの前にマグカップを置いてくれた。

 自分のマグカップを置いた後で、大地はかなでを見つめる。

 スッと目を細めてから見つめられて、一瞬、かなでは怒られるかと思った。

「…ひなちゃん…、そんな無防備な姿で男を試すなよ…」

 大地の声が低くなり、とても艶やかになる。

 声を聴くだけでも艶やかで官能的で、かなではつい息を乱してしまう。

「…俺に襲って欲しいって言っているようなものだよ…」

「…え…?」

 大地は、かなでの胸元をじっと見つめて来る。

 胸元を見ると、雨で濡れて透けていた。

「…あ…」

 かなでは恥ずかしくてしょうがなくて、目線を下げた。

「そんな格好をして、そんなまなざしをされたら、俺が堪らなくなるだろう…?」

 大地の艶やかな声に、かなでは蕩けずにはいられなくなる。

 大地はかなでの唇に軽くキスをした後、濡れた白のワンピースのボタンを器用に外してきた。

「…やっ…!」

 甘い声を上げると、大地はその隙間から手を入れてくる。

 大地の器用な指先が、かなでの胸元をくすぐってくる。

 もうホットミルクなんて飲むことは出来ない。

「…ひなちゃん…」

 くぐもった声で名前を呼びながら、大地はかなでを柔らかく押し倒してきた。

「…さっきの言葉は本当だったんですね?」

「…さっきの? ああ。うん、半分本当…」

 大地は甘く微笑みながら、かなでのワンピースを脱がしてゆく。

「だったら、私も…嬉しいかもしれないです…」

 かなでは、大地が自分に溺れてくれるのはとても嬉しいから。

「…そのうち一緒に住みたくなるかもしれないね…」

 大地の嬉しい言葉に、かなではうっとりとしながら、逞しい背中に抱き着く。

 かなでは幸せで艶やかな時間に、溺れていった。

 

 愛し合った後、気怠い幸せに包まれる。

 大地はかなでを引き寄せて、しっかりと抱き寄せた。

「…ごめん…。君が綺麗だから…」

 大地は花を抱き寄せたまま、髪を柔らかく撫でてくれた。

 こうしていると、とても幸せな時間を漂っているような気がする。

「寒かったから、ちょうど良かったかもしれませんね…」

 かなでがふんわりと微笑むと、大地は更に胸に抱き締めてくる。

「…君が可愛いから…」

「…大地先輩…」

「本当に可愛いよ…」

 大地はかなでの唇に羽根のようなキスをくれる。

「…君とこうしていると本当に幸せだよ」

 大地に抱き締められながら、かなではにっこりと笑った。

「…ひなちゃん…」

 大地はそのまま深く唇を重ねてくる。

 かなでは再び熱くて甘い時間に翻弄されにいった。

 

 心地よくまどろんでいたようだ。

 いつの間にか、大地がベッドに運んでくれていて、かなでは心地よく目覚めた。

 大地はシャワーを浴びていたようで、髪を拭きながらそばにやってきた。

「ひなちゃん、ワンピースが乾きそうにないから、これを使って」

 大地は自分の白いシャツを手渡してくれる。

「有り難う」

 しっかりと受け取った後、かなでは素肌に羽織った。

「シャワー浴びてくる?」

「…はい…」

「余り可愛くて色っぽい格好は見せないで…。また襲いたくなるから」

 大地はかなでを甘い苦笑いを浮かべながら、見つめて来る。

 それがひどく艶やかだ。

 かなでは恥ずかしくて、掛けられていた上掛けで、一生懸命、躰を隠した。

「シャワーを浴びておいで」

「はい」

 かなでは返事をした後、大地を見る。

「…大地先輩…あの…、シャツを着たいんですけれど…、少しだけあちらを向いていて貰えませんか…?」

 かなでが言うと、大地は反対側を向いてくれた。

 かなでは素早くシャツを着ると、ベッドから下りる。

 大地のシャツはかなでにとってはワンピースぐらいの丈があった。

「シャワーをお借りしますね」

「どうぞ」

 かなでは慌ててシャワーを浴びて、大地のシャツをワンピース代わりにする。

 洗面所から出ると、大地が簡単な食事を用意してくれた。

「…今夜は泊まっていくと良いよ。君の服はまだ乾いていないから」

「はい」

か なでは、恥ずかしいながらも幸せな気分で頷く。

 梅雨時デート。

 甘いハプニングも良いかもしれないと、かなでは思った。



Top