*Happy Birthday*


 愛するひとが生まれた日というのは、どんな記念日よりも最強だ。

 かなではそう思わずにはいられない。

 今日は年末で、気忙しい日ではあるのだけれど、それよりも大切なひとが生まれたかけがえのない日なのだ。

 かなでは精一杯お祝いが出来る日だからと、ずっと楽しみにしていた。

 こんなに楽しみにしている日は他にないと言っても良かった。

 自分の誕生日よりも何よりも大切な日だからだ。

 だからといって、大地がかなでの誕生日を祝ってくれるように楽しくてサプライズなことは出来ないけれども、それでも気持ちだけは更に楽しくてサプライズでいたかった。

 かなではそれだけを思いながら、大地の為に細やかなバースデーのお祝いを企画した。

 家族とお祝いをするだろうから、かなでは気遣って色々と控え目に企画する。

 ディナーではなくランチを作って、お祝いをするのだ。

 夜は家族と一緒に過ごすのが良いて思ったし、まだ高校生には夜を一緒に過ごすというのは、とてつもないぐらいにハードルが高いもののように思えたからだ。

 これを乗り越えるには、まだ準備が出来ていない。

 かなでは大地に喜んで貰えるようにと、特製ランチを寮で用意をした。

 大地の大好きな牡蠣フライをメインに、温かなクリームスープや、サラダ、そしてビターチョコレートを使った大人な焼菓子を作って、コーヒーはスペシャルブレンドを用意した。

 これも総ては愛しているひとに喜んで貰いたい。

 それに尽きるのだ。

 愛するひとと一緒にお祝いが出来る初めてのバースデー。

 かなではそれが嬉しかった。

 去年まではお互いに全く知らない状態だった。

 ひょっとすると、律を通じて大地は知っていたのかもしれないが、少なくともかなでは知らなかった。

 それが不思議なものだ。

 こうして恋人同士として一緒に過ごしているのだから。

 本当にひとの繋がりと言うのは、摩訶不思議だと、かなでは思わずにはいられなかった。

 

 牡蠣フライだけは揚げる準備までして、後は総て準備完了だった。

 もう寮には流石にかなでしかいなくて、かなでも夕刻には実家に向かうのだ。

 だからふたりだけで、ランチを楽しめるのだ。

 午前中は、元町界隈をふたりでぶらつくことにしている。

 本当は何処だって良いのだ。

 大地とふたりきりでいられたら、かなでにとっては場所はどうでも良かった。

 バースデーデートだから、髪を少しだけ巻いて、ほんのりと色付くリップを着けた。

 かなでが出来る精一杯のお化粧だ。

 ワンピースもお気に入りのキャメル色のものを着て、出来る限り可愛くなるように努力をした。

 大地の前ではスペシャルな女の子でいたい。

 それが望みだった。

 いつもは大地に迎えに来て貰っているが、今日は待ち合わせをすることにした。

 迎えに来て貰うと、どちらが主役かが分からなくなってしまうからだ。

 今日の主役は、大地なのだから。

 元町中華街駅で待ち合わせをしている。

 何だか新鮮な気分になる。

 本当はランチタイムデートでも良かったのだが、どうしてもずっとそばにいたくて、かなでと大地は午前中からデートをすることにしたのだ。

 かなではウキウキしながら、半ばステップを踏んで大地を待つ。

「ひなちゃん!」

 大地が爽やかな笑顔を向けて、かなでに向かって走ってきてくれる。

 その笑顔を見ているだけで、かなでは頬を薔薇色に染めて、胸の鼓動を高まらせた。

「大地先輩!」

 かなでが声を掛けると、大地は直ぐにそばに来て、さり気なく手を握ってくれた。

 近くにくるだけでドキドキしてしまう。

「ひなちゃん、行こうか」

「はい」

 ふたりで手を繋いで、ただ歩くだけでも楽しい。

 かなでは今日から田舎に帰って、お正月が明けるまでは帰ってはこないから、暫くは一緒にいられない。

 だからこそ、出来る限り長く一緒にいたかった。

 年末の元町商店街は、お正月にどうしても必要なものが売っていないせいか、比較的静かだった。

 かなでは、大地とふたりで故郷の土産を色々と探す。

 かなでは、大地オススメの元町スウィーツを幾つも買う。

「横浜煉瓦と紅茶の組み合わせが良いですね。食べているだけで、横浜にいる気分になりますよね。美味しいですし」

「そうだね。ひなちゃん、横浜瓦も買った?」

「勿論ですよ。これは、うちのおじいちゃんが大好きなんですよ。律くんが買ってきてくれるのを毎年楽しみにしていましたから」

「そうなんだ」

「はい」

「だけど地元の銘菓を、ひなちゃんのご家族が気に入ってくれているのは、とても嬉しいよ」

 大地が甘い微笑みを浮かべながら、かなでを見つめてくれている。

 こうして、大地の地元のお菓子で、家族皆と大地が繋がっているような気がして、とても嬉しかった。

 買い物の後、ランチタイムには良い頃合になったので、ふたりで手を繋いで菩提樹寮へと向かった。

 お土産は大地が持ってくれている。

 女の子に重いものは持たせられないと、大地が申し出てくれたのだ。

 それが嬉しくてしょうがなかった。

 大地の誕生日だというのに、かなでのほうが、優しさのプレゼントを貰ったようだった。

 菩提樹寮に入ると、かなではダイニングルームに大地を誘う。

「大地先輩、どうぞ」

「ああ、有り難う」

 セッティングがされた席まで案内すると、大地は嬉しそうに微笑んでくれた。

「有り難う。何だか本格的で嬉しいよ」

「ランチでもうしわけないですけれど、お料理をお持ちしますね。最後の仕上げもしてきますから」

「うん。有り難う」

 かなではキッチンに向かうと、牡蠣フライを揚げる。

 揚げ終わったら、仕上げに手作りタルタルソースを上から掛けて完成だ。

「お待たせしました」

 かなではスープとサラダを先ずは給仕し、その後にメインディッシュである牡蠣フライと、パン、飲み物を持っていった。

 かなでが給仕を終えると、大地は本当に満足で嬉しいとばかりに、笑顔になった。

「ひなちゃん、有り難う。今日のランチは最高に嬉しいよ」

「私も、大地先輩に喜んで貰えて」

 かなでは幸せな気分に満たされて、笑顔を零した。

 大地に感謝されるだけで、本当に嬉しかった。

 大地は何度も「美味しい」と言いながら、ささやかな料理を食べてくれる。

「今度は是非、フルコースでも作ってみたいです」

「うん、楽しみにしているよ」

 大地の笑顔に、かなでは満面の笑顔を浮かべた。

 いよいよデザート。

 お喋りをしながら美味しい物を食べていると、時間はあっという間に過ぎた。

 デザートの準備が終わると、かなでは大地にバースデープレゼントを差し出した。

「ハッピーバースデー、大地先輩」

 大地は蕩けるように甘い笑みを浮かべると、プレゼントを受け取ってくれた。

「有り難う。開けても良いかな?」

「はい」

 大地がプレゼントを開けている間、かなではドキドキが止まらなかった。

 大地には、革を使った手帳を思い切って奮発してプレゼントをしたのだ。

 プレゼントを開けるなり、大地は本当に嬉しい顔をしてくれた。

 かなでは嬉しさの余りに、つい笑顔を浮かべてくれた。

「有り難う、ひなちゃん。とても嬉しいよ」

 大地はしみじみと言うと席から離れて、かなでを背後から抱き締めると、触れるだけの甘いキスをしてきた。

「有り難う」

 大地からの甘いキスは最高のお返しだった。

 キスの余韻に頬を赤らめながら、かなでは上目遣いで大地を見つめる。

「これからもずっと甘いキスのお返しを下さい」

 大地が頷いたのは、言うまでもなかった。



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