*聖夜*


 大地と初めて過ごすクリスマス。

 今年は、大地が受験生だし、まだふたりとも高校生だからロマンティックなデートなんて出来ないが、オケ部のメンバーで楽しいクリスマスパーティに参加する予定だ。

 その帰りに、ほんの少し二人だけでクリスマス気分を味わうつもりでいる。

 折角、洋館が沢山ありクリスマスのロマンティックが豊富な横浜にいるのだから、その気分を味わってみたかった。

 

 オケ部のクリスマスパーティは、毎年、引退をした3年生も参加する。

 当然、大地も参加している。

 かなでは得意ということもあってか、食事の準備班に入った。

 ケーキも、寮の古いガスオーブンで嫉いたものをデコレーションするのだ。

 後は鶏のモモ揚げや、簡単スープに、サラダ、パンなども作って、みんなでわいわいと食べて、楽しむのだ。

 かなではみんなとわいわいとすることも、後のふたりきりの時間も楽しみでしょうがなかった。

 パーティの後は二人きりになるから、大地へのプレゼントも用意もした。

 まだまだ高校生だから、そんなには高価なものをプレゼントは出来ないが、それでも大地に喜んで貰いたいと頑張った。

 プレゼントは簡単なマフラー。

 編み機を使って作ったので、目も揃って綺麗に出来た。

 オリーブグリーンの色は大地をイメージして選んだのだ。

 きちんとラッピングをして、かなではクリスマスパーティに備えた。

 クリスマスパーティはオケ部のメンバーであるから、皆で演奏をするのも楽しみだった。

 

 クリスマスパーティの当日は、料理部隊が一番忙しい。

 かなでもバタバタと料理におわれている。

 特にかなでは、料理部隊の責任者だったから、忙しかった。

 料理を作った後、セッティングは会場担当がしてくれる。

 ひとりひとりが、こうして分担すると、素晴らしいパーティが出来上がった。

 ジンジャーブレッドマンクッキーのお土産までつくのだ。

 温かで手作りクリスマスパーティへの出席率はかなり高くて、オケ部が大集合だった。

 パーティ準備がひといき吐くと、今度は楽しむ番だ。

「ひなちゃん、ご苦労様」

「大地先輩!」

 大地の姿を見るなり、かなでは笑顔で近付いていった。

「流石はひなちゃんだね。料理が楽しみだ」

「有り難うございます」

 大地は嬉しそうに言うと、席についた。かなではその横にちょこんと座った。

 パーティは温かな食事をしながら、かなり賑やかだ。

「ひなちゃんが作ってくれた料理はどれも美味しいね。特に鶏のモモ揚げが」

「有り難うございます」

 大地に料理が美味しいと言って貰えるのが、かなでにとっては何よりも嬉しい。

 プレゼントのような甘い言葉だ。

「有り難うございます。作りがいがありますよ」

「有り難う。これからもずっとこうして、ひなちゃんの料理がずっと食べられたら良いね」

「有り難う」

 ふたりは甘い雰囲気にひたりながら、パーティを楽しんでいた。

 

 本当に楽しいパーティだった。

 皆で美味しい食事をしたり、久しぶりに音を合わせてみたりと、本当に楽しかった。

 お土産のジンジャーブレッドマンクッキーを渡して、お開きだ。

 パーティが終わると、かなでは軽く手伝いをした後に、大地とかなではふたりきりで細やかなクリスマスパーティを開きに行く。

「ひなちゃんや皆のお陰でとても楽しい時間を過ごせたよ。有り難う」

「こちらこそ、楽しかったです。有り難うございます」

 手を繋いで、ふたりは先ずはカフェへと向かう。

 ふたりともこのカフェが気に入っているのだ。

 ここで温かなコーヒーを買ってから、ふたりは港の見える丘公園へと向かった。

「寒くはない?」

「平気です。だって、大地先輩とこうして手を繋いでいるから温かいよ」

「だったら良かった」

 ふたりでこうして並んで歩いていると、それだけで温かい。

 かなではほっこりとするのを感じながら、大地を見上げた。

「来年のクリスマスはひなちゃんが受験生だけれど、ひなちゃんなら内部推薦が決まっているような気がするから、ちょっと良いクリスマスにしよう」

「プレッシャー…ですね。だけど、そうなるように頑張りますね」

 かなでがしっかりと頷くと、大地は「ひなちゃんなら大丈夫だ」と笑顔で請け合ってくれた。

 風邪を引かない程度に、今年のクリスマスは早く切り上げる。

 ふたりだけのプレゼント交換をするだけだからだ。

 かなでは大地と一緒だと寒さは全く感じなかった。

 それどころか温かいとすら感じずにはいられなかった。

 ほっこりとした温もりの中で、公園に着いた。

 ふたりでベンチに腰を掛けて、温かなコーヒーを飲む。

「クリスマス限定のブレンドはやっぱり美味しいですね」

「そうだね。良い味だよね」

 ふたりで同じようにコーヒーを飲んで、息を吐く。

 すると白くて思わず笑ってしまった。

「大地先輩、これ夜食に食べて下さい。コーヒーに合うビターチョコレートを練り込んだお菓子です。味見用も持ってきています」

 かなでは大地にきちんと化粧箱に入れたお菓子と、味見用のお菓子を手渡した。味見用は自分の分もちゃんと用意をしている。

「有り難う。ひなちゃん。俺だけにこうして用意をしてくれて嬉しいよ」

「いつも大地先輩にはお世話になっているから…」

「俺はお世話をしている気はないよ。ひなちゃんにはいつも笑顔でいて貰いたいだけだから」

「有り難う」

 かなではくすぐったい幸せに素直な笑みを覗かせた。

「大地先輩、メリークリスマスです」

 まだまだ高校生だから、高価なプレゼントを恋人に渡すことは出来ない。

 だが気持ちだけでもゴージャスにいきたいと、かなでは一生懸命マフラーを編んだのだ。

 手作りのマフラーだなんて、何処か古臭いのは解ってはいる。精一杯の気持ちを込めた。

「有り難う。開けて良いかな?」

「どうぞ」

 気に入って貰えるのか、ちょっとドキドキしてしまう。

 かなでは、ついじっと大地を見つめてしまう。

「そんなに見つめられると、つい、緊張してしまうな」

 大地は苦笑いを浮かべながら、かなでのプレゼントのパッケージを丁寧にはがすと、そこから見えたマフラーを見つめる。

「あの…気に入らなかった…ですか…?」

「いいや…。凄く嬉しいよ。有り難う。俺にかけて貰えるかな?」

 大地は優しい笑みを浮かべて、かなでがマフラーを掛けやすいように屈んでくれる。

 それが嬉しかった。

 少しだけ震えながら、かなではマフラーを首に掛けた。

「…有り難う…。こんなに嬉しいことはないよ」

 大地の深みのある甘い言葉に、かなでは幸せでしょうがなかった。

「では俺からもメリークリスマス」

 大地がそっと差し出してくれたのは、小さな箱だった。

「開けて良いですか?」

「どうぞ」

「有り難う」

 大地がくれたものだから、丁寧にパッケージを開ける。

 そこには指環が入っていて、かなでは嬉しくて思わず息を止めた。

「有り難う…」

 かなでがうっとりとした笑顔で呟けば、大地は甘さと優しさを滲ませた笑みを浮かべる。

「俺が指にはめて良いかな?」

「はい。お願いします」

「有り難う」

 大地は頷くと、かなでの左手を手に取る。

 まるで神聖な儀式のように、大地は薬指に指環をはめてくれた。

「メリークリスマス」

「メリークリスマス」

 約束の指に指環がはめられた後、大地は唇を重ねて来る。

 クリスマスケーキよりも甘いキスに、かなでは酔い痴れていた。



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