大みそかと言えば、毎年、実家に帰ってのんびりとしていた。 田舎から出て来ているかなでにとっては、大みそかから正月三が日は、帰省して過ごすのが常だった。 だが、今年は大地と一緒に過ごすスペシャルな大みそかになっている。 横浜港で行なわれるカウントダウンに参加するのだ。 カウントダウンなんて経験は、かなでには初めてだから、かなり緊張してしまう。 だがずっと憧れていたものだったから嬉しかった。 かなでの実家はいなか過ぎて、ジルベスターコンサートの中継もなかった。 だから毎年、紅白歌合戦を見て終わっていた。 かなでにとっては、ジルベスターコンサートだとか、カウントダウンだとかは、かなり遠いところで行なわれているものだったのだ。 今年は自分がそれに参加をするのだ。 興奮しないはずがなかった。 本当に嬉しくて、興奮してしまう。 大みそかは綿密に計画を立てて、カウントダウンに臨んだ。 夕食はかなでの家で年越しそばを食べて、暫くはテレビを見て過ごす。 カウントダウンの後は、かなでのマンションに大地が送ってくれる予定になっている。 高校生の間は、流石に、田舎に戻っていた。 だが、大学生の今は、二日に帰って、八日に戻ってくる予定にしている。 家族もかけがえがなくて大切ではあるが、やはり大地とふたりで幸せに時間を過ごしたかった。 恋人でいる時間を大切にしたかったのだ。 ふたりで小さな部屋でコタツに入って年越しそばを食べる。 かなでは小さなお節も作ったので、それが余った分も食卓に並べていた。 テレビを見ながら、コタツに入って年越しそばだなんて、少しも甘さは感じられないかもしれないが、温かい気分にはさせて貰えた。 「ひなちゃん。この年越しそば、美味しいね。この煮物も」 「有り難うございます。少しだけですが、お正月はこちらで過ごすので、お節料理を作ったんですよ。余りものです。良かったら、明日、お節を食べていって下さいね」 「有り難う。明日はハルの神社に行くからね。その時に頂くよ」 「はい」 大みそかから正月は、大地を独占することが出来るのが嬉しい。 大地の誕生日も独占することが出来たし、それはとても幸せなことだった。 年越しそばとコタツで躰を充分に温めた後は、港方面へ向かう。 今年の冬は寒いと聞いてはいたが、横浜よりも寒い地域で育ったかなでには全く気にならなかった。 ほわほわと温かいとすら感じる。 「やっぱり今年は例年よりも寒いね。ひなちゃん、しっかりと防寒して行こう」 「はい。だけど、大地先輩と手を繋いでいるから平気です」 大地と手を繋いでいるだけで、本当に温かい。 心もほかほかとしていて、とても心地好い。 ふたりで温もりをシェアしながら、のんびりと港まで向かった。 カウントダウンの熱気で、港はかなり賑やかだ。 港の年越しというのは、やはりロマンティックだとかなでは思う。 「寒くない?」 「大丈夫です」 「俺は寒いかな」 大地は甘く囁くと、かなでを背後からふんわりと抱き締めてきた。 「…あ…」 強く抱き締められて息が弾む。 「こうしているだけでとても温かいよ。ひなちゃんはどうかな?」 大地にギュッと抱き締められるだけで、かなではドキドキしてしまう。 温かくて安心するのに、何処かドキドキしている。 かなでは息を弾ませながら、甘い気分で前に回された大地の手をギュッと握り締めた。 「…温かいです…」 「そっか、良かった」 大地もまた息を弾ませながら呟くと、更にギュッと抱き締めてきた。 「ミノムシみたいだね、俺たち」 「…そ、ですね…」 恥ずかしくて、かなでは上手く答えることが出来なくて、オタオタとしてしまう。 「カウントダウンまでずっとこうしていよう」 「はい…」 かなでは小さく頷いて、夜空を見上げた。 大みそかの夜空は、空気が澄んでいて、とても心地好い。 いつもはスモッグが掛かっていて見えない星も、今夜なら見える。 ある意味、クリスマスよりも神聖な夜なのかもしれない。 「…星が綺麗ですね」 「うん。星が綺麗に見える貴重な時期だよね」 「はい…」 「本当は横浜の空はもっと星が見えるんだろうね。人工の星がかき消してしまっている」 大地は何処かノスタルジックに呟く。 「そうですね。うちの田舎はもっと綺麗に夜空が見えますよ」 「だろうね」 ふたりでこうして夜空を一緒に見るのも、とてもロマンティックだと思う。 かなではときめきながらただじっと夜空を見上げていた。 やがて除夜の鐘の代わりに、船が汽笛を流し始める。 「これぞ横浜の年越しだね。汽笛の除夜の鐘」 「本当に素敵です」 汽笛の除夜の鐘を聴きながら、かなでは今年が終わってしまうのだということを、つくづく思った。 こうして大地と共に過ごすことが出来たこの一年は、ロマンティックに充実した時間だった。 かなではそれを感謝しながら汽笛に耳を傾ける。 何だか感動してジンと来てしまい、今にも泣きそうになってしまった。 「…ひなちゃん、どうしたの?」 「何だか…感動してしまって…」 鼻を啜りながら、なるべく笑おうとしたが、それは上手くいかなかった。 「俺もこうしてひなちゃんと一緒にこうしていられるのが嬉しい」 「はい」 ふたりは心を合わせて、除夜の鐘を聴く。 そして、カウントダウンが始まる。 しみじみとした雰囲気から、祭りの騒ぎへと雰囲気が変わってゆく。 それもまた楽しい。 「ひなちゃん、今年は有り難う。来年もずっと宜しく」 「こちらこそ、大地先輩、今年はお世話になり有り難うございます。来年はもっとお世話になると思いますが、宜しくお願いします」 カウントダウンが最後の時を刻む。 すると恋人たちはお約束通りに、新年を祝うキスをする。 誰が見ていても、この瞬間だけは構わない。 ふたりでお祝いをすることが重要なのだから。 キスを交わす瞬間、恋の曲でも表現出来ないのではないかと思うぐらいにロマンティックで、かなではついうっとりとしてしまう。 素晴らしく素敵な新年の瞬間だった。 唇がゆっくりと離れてゆく。 唇が触れるだけの軽いキスなのに、心と躰の芯が蕩けてしまうぐらいに甘いキス。情熱的ですらある。 ふわふわとした気持ちになり、かなでは唇を離して欲しくないと思う。 名残惜しくて、つい追いかけてしまいたくなった。 「あけましておめでとう、ひなちゃん」 「…あけましておめでとうございます…、大地先輩…」 かなでがぼんやりと挨拶をすると、大地はギュッと抱き締めてきた。 「…宜しくね。これからもずっと」 「はい」 「花火だよ、ひなちゃん」 大地に言われて空を見上げると、美しい花火が夜空を彩っている。 人工的に作った星花火と、自然が作り出した最高の芸術である星がコラボレーションされていて、なんて美しいのだろうかと思った。 「ひなちゃん」 大地は愛が溢れた艶やかな声で呟くと、かなでの顎を持ち上げる。 もう一度キスをして、もっと感謝とどうぞよろしくを閉じ込めたい。 そんな想いを閉じ込めながら、かなではキスを受け入れる。 しっとりとした温もりが感じられるキスは、泣きたくなるぐらいにロマンスが溢れている。 新年にはぴったりのキス。 唇が離すと、ふたりは再び見つめあった。 「ずっとよろしく」 「ずっと…」 ふたりはしっかりと抱き合うと、甘い幸せを感じていた。 |