成人式までは家にいて、地元でお祝いをしなさいと家族に言われて、かなでは地元での成人式となった。 かなでがウィーンのコンクールで優勝してからというもの、かなりの忙しさでヴァイオリニストと、大学生を両立してきた。 それゆえに、なかなか地元には帰れなかったのだ。 クリスマスも横浜にて過ごした。 だが、帰れなかった理由はもうひとつある。 それは愛するひとと一緒にいたかったからだ。 愛するひとが横浜にいるから、つい横浜にいたいと思ってしまった。 しかし、流石に成人式は横浜では出ることは出来ずに、結局は地元に戻ってきたのだ。 大好きなひとと一緒に成人式の日を過ごすのが夢だったけれども、しかたがない。 これだと親不孝になってしまう。 かなでは、地元で成人式を迎えた。 朝から、家族みんながかなでの成人を祝うために、色々と準備をしてくれている。 かなではショートカットだから、髪を緩やかに巻いて少しばかりの華やぎを出した後、かんざしをさした。 振り袖は祖母にして貰い、そしてメイクは自分でする。 随分とステージをこなすようになったから、メイクをするのはとても上手くなった。 だが可愛くなりたくて、目立たない程度につけまつげを着けた。 これで少しは華やいだ雰囲気になる。 支度が出来ると、古びた地元の写真館に行き、響也と家族と一緒にかなでは写真を撮った。 家族と一緒に。 そして家族同様の響也と。 記念になるのには間違ないだろう。 かなでは自分一人の写真も撮る。 二度とない時であるから、かなではかけがえのない一瞬を、写真の中に閉じ込めていようと思った。 とても幸せだ。 だが、切ない気持ちにもなる。 大好きなひとが隣にいてくれたら良いのにと、思わずにはいられなかった。 写真館から出ると、響也がじっと見つめてくる。 「何?」 「貸せよ。携帯。写メしたいんだろう? アイツに」 響也の申し出が嬉しくて、かなではつい笑顔になった。 「有り難う」 響也に携帯電話を渡すと、しょうがないとばかりの表情になる。 「ほら、とっておきの写真を撮ってやるからな。アイツのことだから、かなり喜ぶんじゃないか?」 響也は何処かからかうように言う。 かなでは、幼馴染みが最高の写真を撮ってくれるのは解っているから。 かなでは携帯電話の向こうにいる大好きなひとに向かって最高の笑顔を向けた。 「ほら、撮れたぞ」 「有り難う」 かなでは響也が撮ってくれた写真を覗き込む。 すると華やかな笑顔が映っていて嬉しかった。 「これを送信して…と」 かなでは、成人式です、晴れて良かったです。と、短いコメントを付けて、大地に送った。 大地は喜んでくれるのだろうか。 そうなったら嬉しいと思わずにはいられなかった。 だが、本当は、この晴れ姿を、大地に直接見せたかったけれども。 写真館から自宅に戻ると、響也とふたりで祖父から工房に呼ばれた。 携帯電話を見ても、大地からの返信がないから気が気ではなかったが、大好きな祖父に呼ばれた以上は、花は携帯電話を切って工房に入った。 「わしからの成人の贈り物だ。受け取って欲しい」 祖父から差し出されたのは、ヴァイオリンケースだった。 ドキドキして気分が昂揚する。 祖父が作るヴァイオリンは常々世界一の物だとかなでは思っている。 様々なヴァイオリニストからも引く手数多なのだ。 「お前たちもこれで成人だからな。より深みのある演奏を聴かせて欲しい。是非、聴かせてくれ」 「…おじいちゃん。うん。弾いてみるよ」 「ああ、聴かせてくれ」 祖父が心を込めて作ってくれたヴァイオリンだから、一生懸命、弾いて、聴かせたい。 「…じゃあ、弾くね」 かなでは慎重に緊張しながらヴァイオリンを取り出すと、ゆっくりと奏でる。 奏でる曲は、今の時期に相応しい、“カノン”だ。 かなでは目を閉じてヴァイオリンを構えると、深呼吸をした。 大好きで堪らない祖父が作ってくれたヴァイオリンだから、かなでは祖父に恥じないようにと奏でる。 感謝と尊敬の念を込めて。 かなでがヴァイオリンを奏で終わると、拍手が聞こえた。 だが拍手の数が多いように思って、そっと目を開ける。 するとそこには大好きな大地が拍手をしながら笑顔で立っていた。 「ひなちゃん、ヴァイオリン、とても素晴らしい演奏だったよ。成人式おめでとう、ひなちゃん」 大地の笑顔が、涙で煙ってしまう。 それぐらい感動してしまう。 サプライズプレゼントだ。 胸がいっぱいで、どうして良いのかが解らない。 「…有り難う…」 ただそれしか言えない。 「ひなちゃん、折角、綺麗にして貰ったんだから、泣くなよ」 大地は困ったように呟くと、かなでの涙を拭ってくれた。 「有り難う…」 かなでが何度も笑おうとすると、大地がこの上なく甘い笑みを向けてくれる。 ふと回りにいる祖父や響也を見ると、柔らかな笑みを向けてくれている。 「ふたりとも俺が来るのを解ってくれていたんだ」 「…そうだったんだ…」 かなではふたりに泣き笑いの笑みを浮かべながら見つめる。 「有り難う」 ふたりもまたかなでに返事をするかのような笑みをくれた。 「さあ、ふたりとものんびりとしておいで。ふたりにとってはとても久し振りなんだろう」 祖父に言われて、ふたりは工房から出されてしまう。 「カメラマンの俺がデジカメで何枚か写真を撮ってやるよ」 響也が一眼レフのデジタルカメラを構えてみせてくれる。 大地ともこの一生に一度の成人式の想い出を残したいから。 「…有り難う」 「響也、有り難うな」 大地とかなでに、響也は笑顔で親指を立てた。 響也にふたりで何度も写真を撮って貰った後、ふたりだけでのんびりと出かけることにした。 かなでが寒いからと、大地はしっかりと手を握り締めて温めてくれる。 それが嬉しかった。 ふたりきりで成人式の日にこうして散歩が出来るなんて、嬉しくてしょうがない。 かなでは寒さなんて気にならなくて、ずっと大地の顔を見て、笑顔でいられた。 「ひなちゃん、成人式おめでとう。君も本格的な大人の仲間入りだね」 「有り難うございます。これで少しは大地先輩に近付けたでしょうか」 はにかんで言うと、大地にいきなり抱き締められる。 「俺も君に置いていかれないように、良い男になるよ」 「…大地先輩…」 大地は男らしい笑みを浮かべると、かなでの左手を手に取る。 「ひなちゃん、成人式おめでとう。指環のクラスは将来ちゃんとステップアップさせるから」 そう言いながら、大地は小指にピンキーリングを填めてくれた。 「ピンキーリングは願いが叶うからね。君の願いは必ず叶うよ」 「有り難う…」 左手小指には、希望の指環がしっかりと填められる。 それを見つめているだけで、かなでは願い事が叶うのではないかと、思わずにはいられなかった。 きっと大地とふたりで、様々な願い事が叶うに違いない。 「俺たちは新しいスタートラインに立ったばかりだからね。ふたりで力を合わせて、沢山の願い事を叶えてゆこう」 「はい…」 大地に引き寄せられて、文字通り大人になって初めての甘いキスを受ける。 ふたりでキスをしながら、ずっと一緒にいられるように、願いを込める。 かなではこんなにも甘くて素敵な成人式は他に経験出来ないと思う。 最高の想い出として、刻まれたのはいうまでもなかった。 |