*White Day*


 決戦のバレンタインディの後は、乙女にとってはドキドキのホワイトディがやってくる。

 大好きなひとがどのような愛を見せてくれるのかが、楽しみであり不安になる。

 

 かなでは待望のホワイトディに心を弾ませる。

 だが、その日は、大地の二次試験がある。

 そのために余り派手なことは出来ない。

 最初はデートなんてとんでもないかもしれないと思ってはいたが、なんとか夜に時間を取ってくれた。

 そんな大地の優しさが有り難くて、かなではつい笑みを零す。

 いつものいきつけのカフェで、大地の入試お疲れ様も兼ねて、逢いにゆく予定なのだ。

 かなではそれだけで嬉しかった。

 大地の為に、ビターチョコレートを使った、コーヒーによく合うお菓子も作っておいた。

 喜んでくれたら嬉しい。

 いや、きっと喜んでくれるはずだと思いながら、かなではお菓子を作った。

 逢うのは夕方だから、少しだけ厚着をしてゆく。

 春とはいえ、まだまだ寒い季節だからだ。

 ひんやりとした空気がとても清々しい季節でもある。

 かなでは心を込めてお菓子を作る。

 本当は、貰う日かもしれないが、かなでは大好きな大地に美味しいお菓子を作ってあげたかった。

 ただそれだけだったのだ。

 大地が嬉しそうな顔をするのが、かなでにとっては何よりも嬉しいことだったからだ。

 焼き菓子を綺麗にラッピングをして、準備を整えてから、かなでは待ち合わせをしているカフェへと向かった。

 坂を下りながら、ワクワクしてしまう。

 約束場所のカフェに行くと、大地が既に待ってくれていた。

「大地先輩!」

「ひなちゃん!」

 試験の後だとは思えないぐらいに、大地は爽やかな顔をしていた。

 大地ならストレートで合格出来るというのは、噂で聞いていたが、やはり疲れているのではないかと、かなでは気になっていた。

「大地先輩、お疲れ様でした。有り難うございます。大切な試験日に、こうして誘ってくれて」

「試験も大事かもしれないけれど、俺にとっては、ひなちゃんと過ごす、ホワイトディもかなり大事だからね」

 大地はストレートに言うと、蜂蜜よりも甘い笑みを滲ませた。

 その笑顔を向けられるだけで、かなではドキドキしてしまい、耳たぶまで真っ赤にさせてしまう。

 それぐらいに大地の微笑みは威力があった。

「大地先輩、嬉しいです。こうして、ホワイトディをご一緒出来て」

「うん、俺もだよ。それに試験前は、ずっとひなちゃんに逢えなかったから、俺は結構、辛かったんだよ。やっぱり、俺はひなちゃんに逢いたいから。ひなちゃんの笑顔が俺にとっては最高のエネルギーになるからね。ひなちゃんの笑顔を見て、疲れも吹き飛んだよ」

 大地の言葉が嬉しくて、かなでは飛び上がりたくなる。

 かなでも同じことを思っていたから。

 大地が試験勉強に集中している間はあまり逢えなくて、太陽の光がなくてしょんぼりとしている向日葵のような気分になっていたからだ。

 大地と逢うだけで、一気に元気になって、気持ちがシャキッとするのだ。

 ただ、他の大学受験が絡んだ恋人同士よりは、会っていたとは思う。

 それでも足りないと思うなんて、どんなに大地に依存した想いを持っているのだろうかと、かなでは苦笑いをせずにはいられなかった。

「私も大地先輩に逢って、元気を沢山チャージ出来ていますよ。有り難うございます」

「こちらこそ、ひなちゃん」

 大地は甘い笑みを唇に浮かべて、かなでの手をそっと握り締めてくれた。

 その手が本当に温かくて、かなではとても嬉しかった。

「大地先輩、試験お疲れ様でした」

 かなではそう言って、作ってきたビターチョコレートのお菓子を、大地に差し出す。

「有り難う。これ、ひなちゃんの手作りだよね。有り難う。美味しく食べるよ」

 大地が本当に嬉しそうな顔をしてくれたから、かなでは嬉しくてしょうがない。

 やっぱり、大好きなひとの笑顔は、何よりもの素敵なプレゼントになるのだということを、かなでは強く感じずにはいられなかった。

 眩しいぐらいの大地の笑顔が、かなでにとっては最高の贈り物だった。

「ひなちゃん、本当に有り難う。味わって食べるよ」

「ビターチョコレートを使ったお菓子なので、大地先輩が大好きなコーヒーに合うと思います」

「それは益々嬉しいよ」

 大地は声を弾ませると、大切な物だからとばかりに、丁寧にお菓子をバッグの中に入れる。

「試験勉強の疲れをそれで癒して下さいね」

「有り難う。だけど試験が終わって合格をしても、これからは今まで以上にしっかりと勉強をしなければならないからね。その糧にこれは丁度良いね。本当に有り難う、ひなちゃん」

 大地の言葉が、かなでは本当に嬉しくて、頬を緩ませた。

「ひなちゃん、バレンタインディのチョコレートはご馳走さま。流石は、ひなちゃんだと思ったよ」

「有り難うございます」

 大地に褒められるだけで、くすぐったいぐらいに嬉しくて、つい顔を真っ赤にさせてしまった。

「本当に君は可愛いね」

 くすりと大地に笑われながら囁かれると、益々恥ずかしくなる。

 大地の愛情が沢山詰まっている甘い言葉だったから。

 かなではつい上目遣いで大地を見つめてしまう。すると大地に思い切りギュッと手を握り締められてしまった。

「そんな可愛い顔をされると俺も困ってしまうんだけれどな」

 大地は苦笑いをしながらも、かなでを優しく見守るように見つめてくれていた。

「さてと。これは俺からのホワイトディだよ。バレンタインディのチョコレートは本当に美味しかったし、嬉しかったから、これは俺からのお礼とご褒美だから」

 そう言って、大地は小さな白い箱をかなでに差し出した。

「これは……?」

「開けてみて。ひなちゃんに似合うと思うから」

「有り難う……」

 初めての本格的なホワイトディのプレゼント。

 かなではドキドキしながら、ときめきで指先をほんの少しだけ震わせて、箱を開けた。

 すると音符をモチーフにした、シンプルだが、とても可愛いネックレスが入っていた。

 かなでは嬉しくて、瞳を喜びで輝かせながら、大地を見つめる。

 すると大地はフッと甘い笑みを、嬉しそうにかなでに向けてくれた。

「ひなちゃんが気に入ってくれたら、俺はそれだけで嬉しいから」

「嬉しいです……。とても可愛くて」

 かなでは、アクセサリーを見つめたまま夢中になってしまう。

 こんなにも恋人らしいアクセサリーを貰ったことは初めてだったから、かなではそのまま飛び回りそうになってしまった。

「ひなちゃん、俺が着けようか? ちょっと首を俺の方に出して」

「はい」

 かなでが言われたようにすると、大地が丁寧にネックレスを着けてくれた。

 ひんやりとした金属の感触に、かなではドキリとしてしまう。

 本当にドキドキしてしまって、どうして良いのかが解らない。

「はい。おしまい。ひなちゃん、コーヒーを飲んだら、ちょっと公園でも行こうか」

「はい」

 ふたりは手早くコーヒーを飲むと、公園へと向かった。

 手を繋いで坂を上がる。

 なんて温かくて幸せなのだろうか。

 かなでは頬を赤らめながら、にっこりと笑って大好きな大地を見上げた。

 公園まで来ると、ロマンティックな夜景が見える。

 ふたりはどちらからともなく寄り添うと、唇を重ねた。

 甘いキスは、ホワイトディには相応しい。

 かなでは大地を見つめた後、その胸に頬を寄せる。

「有り難う……」

 感謝の言葉を甘く呟きながら。



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