今日はこどもの日。 吉羅家は朝から大騒ぎになっている。 こどもの日をお祝いするのは、毎年、とても幸せだ。 香穂子は、朝食の恒例である茶粥と健康的なサイドメニューを作った後、少しだけ時間があったので庭を散策した。 庭に飾っている鯉のぼりも随分と増えたものだ。 最初は三匹だったのに、今や七匹になっている。 来年には八匹になるのだ。 香穂子は幸せな気分になる。 「本当にトラップ一家のように随分と増えたわね」 香穂子は幸せな笑みを浮かべる。 子供たちはそれぞれ好きな楽器を嗜んでいる。 アンサンブルが簡単に組むことが出来る数なのだ。 それはくすぐったい幸せ。 香穂子が庭に出ていると、吉羅がやってきた。 「どうしたのかね?」 吉羅はさり気なく優しく香穂子に寄り添ってくれる。 それはとても幸せなことだ。 「随分とうちの鯉のぼりも立派になったね。そのうちに、吹き流しを取らなければならなくなるかもしれないね」 吉羅は苦笑いを浮かべながら呟いている。 「確かにそうですね」 これには香穂子も同意する。 「今日は賑やかなこどもの日だね。子供たちに孝行をしなければならないね。いつも楽しく、賑やかにしてくれているからね」 「はい。あの子たちは最高の癒しです」 「そうだね」 吉羅もそれには納得とばかりに頷いた。 今朝も賑やかに朝食を取る。 子供たちは茶粥が大好きで、これがないと朝が始まらないとさえ言っている。 朝からバランスの良い食事を取った後、子供たちは庭に出て散策をする。今日はこどもの日で、家族でお祝いする日だと認識をしているせいか、誰もが明るく庭の散策を楽しんでいる。 やがてこうして子供たち全員がそろってこどもの日を祝うことはなくなるだろう。 それは寂しいことではあるが、同時にとても誇らしいことでもあった。 吉羅は恒例の、子供たちの身長を記録する。 特に暁慈の成長が目まぐるしい。 既に170センチはある。 香穂子が身長を抜かされてしまったと、嬉しそうに笑っていたのを思い出す。 これからどんどん身長は伸びて、吉羅を抜かしてしまうのも時間の問題だろうと思った。 吉羅は、子供たちの身長を丁寧に壁に記録していった。 子供たちは沢山伸びたと言っては喜んでいる。 「お兄ちゃんは背が高くなったわよね。きっと女の子たちが放っておかないよね」 あさひがわざと大人びた風に言うものだから、暁慈は苦笑いをしている。 「暁愛のほうが伸びるんじゃないかな。俺の小さな時よりも大きいからね。まあアイツの将来はイケメンヴァイオリニストで決定だろ?」 「確かにね」 上のふたりはにんまりと笑っている。 「大人になったら父さんのようになりたい。そのためにもしっかりと勉強しなくちゃ」 暁慈は、吉羅には聞こえないように、あさひにだけそっと呟いた。 こんなことを言っても、吉羅は何も変わらない。ただその背中で、様々なことを教えてくれる。 どれひとつとして漏らすことは出来ない教えだ。 だからこそ暁慈は気が抜けなかった。 母親の後は弟が走ってくれている。 だからこそ安心して父親の後を走っていけるのだと思った。 父親に早く追いつきたい。 追い越せるとは流石に思ってはいないが、せめて肩を並べられたらと思っている。 そのためには今から頑張らなければならない。 暁慈は、父親の横顔を見ながら、しっかりと目標を立てていた。 毎年こどもの日には、ご馳走が並ぶ。 外食ではなくて、香穂子が心を込めて作ってくれるのだ。 いつも子供たちが好きなものを並べてくれる。 昼食はちらし寿司と吸い物、そして皆が大好きなシーフードサラダだった。 誰もが大騒ぎで食事をするのも吉羅家ならではだ。 家族みんなでこどもの日をお祝いすることが出来るなんて、なんて幸せなことなのだろうかと、みんなで思っていた。 幸せな気分で食事を楽しんだ後は、家族で記念写真を撮る。 毎年、こどもの日にはプロのカメラマンを呼んで撮影をして貰うのだ。 アルバムの変遷を見ると、少しずつ子供たちが増えていくのが分かり、とても面白かった。 写真の後は、香穂子特製のフルーツたっぷりの鯉のぼりパイを食べる。 こどもの日は食べてばかりだが、幸せな気分になれた。 食事の後は、男子軍団で父親と一緒にしょうぶ湯に浸かるのだ。 これが暁慈には毎年の楽しみだった。 父親はいつも一番小さな弟にかかりきりになってしまうが、珍しく一緒にお風呂に入ることが出来るのが嬉しかった。 父親の広い背中を見ながら、暁慈はタオルを持つ。 「父さん、背中を流すよ」 「有り難う」 「だったら、俺もお兄ちゃんの背中を流すよ」 「あきちゃんもっ!」 全員が背中を洗い流す。 こどもの日ならではの幸せなスキンシップだ。 暁慈は、こうして家族の絆を確認することが出来るのが、何よりも嬉しいと思っていた。 「こうちてると楽ちい。お兄しゃん、とーしゃん、またやろう」 一番下の暁美が楽しそうに言っている。 いつもはやって貰ってばかりいるから、たまには新鮮なのだろう。 「そうだね、またやろう」 「うんっ」 こうして男家族がスキンシップするのもまた格別だと思う。 みんなで背中を洗い流し、髪を洗う。 暁慈が一番下の弟の髪を洗ってやった。 吉羅が息子を抱き上げて、湯船に漬かる。 暁慈も小さな頃は、よく父親に同じようにして貰ったことを、朧気ながらも覚えている。 他の兄弟もずっとそうだったのだ。 仲良くみんなでお風呂に入った後、みんなでリビングに向かう。 みんなでオーガニックのリンゴジュースを飲んで一息ついた。 夕食は、皆が好きなものが並ぶ。 ローストビーフやサラダ、スープ、魚のグリエなど、お祝いの席だからと、家族みんなで少し豪華な食事を楽しんだ。 そしてデザートは、柏餅とちまき。 それを食べながら、こどもの日恒例のプレゼントが渡される。 それぞれが健康に育っていることを祝った、ささやかなプレゼントだ。 十八のこどもの日まで贈られるプレゼントは、場所を取らないようにと小さな誕生石。 女の子は指環に、男の子はネクタイピンに、毎年一つずつ誕生石が追加される。 とてもロマンティックな吉羅家ならではのプレゼントだ。 家族誰もが最高のこどもの日のプレゼントだと思っている。 今年もまた小さな誕生石が追加される。 十八になると正式に子供のものになるのだ。 成人式には必ず着けていこうと、今から考えている。 素敵なプレゼントの後は、お返しをしなければならない。 お返しは兄弟でのアンサンブル演奏だ。 「父さんたちにプレゼントがあります」 暁慈が言うと、誰もが隠しておいた楽器を持って来る。 ピアノだけは隠さずリビングのものを使うが。 「ではお礼に俺たちで演奏しますから聴いて下さい」 香穂子はと言えば、今にも泣きそうな顔をしている。 昔から母親は涙脆かった。 演奏するのは、“サウンド・オブ・ミュージック”。 吉羅家にはぴったりの演奏だ。 暁慈が指揮振りをしながら、兄弟の心を合わせて演奏した。 演奏し終わった後、香穂子は涙ぐんでいる。 母親らしい涙だ。 「有り難う…。みんな…。お母さんはとても嬉しいよ」 香穂子は吉羅に寄り掛かりながら、甘えるように子供たちを見ている。 「有り難うお前たち。素晴らしい演奏だった」 誰もが明るい表情になり、家族みんなで駆け寄る。 またこどもの日がひとつ想い出になった。
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