暁慈が喜ぶから、買い物はたまに元町に行くことにしている。 何でも手に入るショッピングモールも素敵ではあるが、個性豊かで季節を感じることが出来る昔ながらの店も捨てがたいと思う。 特に暁慈はそのような店に行くのがだいすきなのだ。 子供の教育にも良いからと、香穂子はちょくちょく連れていっている。 「ママ、あれものしゅごく綺麗!」 「ああ薬玉ね。七夕様が近いから」 「くしゅだま?」 「そう。七夕様には笹に短冊を飾るでしょう? その時に一緒に薬玉も飾るの。あきちゃんは新しいおうちで初めての七夕様だから、豪華にしようね」 「あいっ!」 暁慈はすっかり嬉しいようで、じたばたと喜んでいる。 香穂子はその様子を、目を細めて見つめた。 「おとうしゃんと一緒に七夕様しゅるっ!」 「そうだね。皆で七夕様をしようね」 「あいっ!」 香穂子は元気いっぱいの息子に、笑顔で頷く。 香穂子にとってはひとり息子は宝だ。それは吉羅も同じだろう。 「あきちゃん、七夕様が楽しみだね」 「楽しみっ! 七夕まちゅりほしまちゃりお星がキラキラきれいでしゅ」 正確な音感で歌を歌う息子が、親バカながら凄いと香穂子は思った。 こんなにも素晴らしいスキルはないと思ってしまう。 「お歌が上手だね、あきちゃんは」 香穂子が笑顔で褒めると、暁慈は本当に嬉しそうに笑う。 「ママ、うれちい。あきちゃん、ママのためにもっとお歌が上手くなって、もっといっぱいお歌を歌うよ」 「有り難う。ママもお父さんも赤ちゃんも、みんなあきちゃんの歌が楽しみだよ」 「皆のために歌うよ」 「有り難う」 暁慈はすっかりご機嫌になり、香穂子に笑顔を振り撒いてくれていた。 それがとても嬉しい。 「あきちゃん、うちでも七夕様の準備をしようね。いっぱい綺麗なもので、笹の葉を飾ろうね」 「あいっ」 香穂子の言葉に、暁慈は手を上げて喜んでいる。 「今日は七夕様に飾る材料を色々と作ろうね」 「あいっ! くしゅだまっ!」 「あきちゃんはすっかり気に入ったみたいだね」 「だってとっても綺麗だから」 「そうだね」 香穂子は頷くと、息子と一緒に七夕飾りを見にいった。 暁慈と一緒に飾りを見に行くのは、とても楽しかった。 楽しくてしょうがなくて、香穂子も小さな子供に戻ったような気分になる。 「短冊に願いを書いたら、それが叶うって言われているんだよ。あきちゃんには叶えたい願い事はあるかな?」 「うーんとね、後でっ!」 暁慈は今は思い付かないのか、即答は出来ないようだった。 「これがママ、これがとーしゃん、これがあきちゃん、これが赤ちゃん!」 暁慈は短冊の色を丁寧に選びながら、ニコニコと笑っている。 その笑顔を見ているだけで、香穂子は幸せな気分でいられた。 家に帰って、暁慈は七夕飾りの材料に夢中になっている。 香穂子は、七夕の話を聞かせてあげることにした。 織り姫と彦星の話をしていると、神妙な顔をする。その少しまじめ腐った顔が可愛かった。 「可愛いしょうだよ、ママ。一年に一回しか逢えないんだよ」 「それでもずっと逢えなくなるよりは良いよ。ずっとね…」 「しょうだけど…。あきちゃん、ママやとーしゃんやばーばやじーじたちに一年に一回なんてやだよ」 「そうだね。だからね、雨が降るとふたりとも逢えなくなるから、晴れるように照る照る坊主を作ってあげようね」 「解った…」 暁慈は笹の飾りよりも、先ずは照る照る坊主だと思ったのか、作り始めたようた。 最近、得意になって作っているものなので、とてもご機嫌だった。 「…てるてるぼーじゅてるぼーじゅ、七夕、天気にしておくれー」 歌を歌いながら、一生懸命照る照る坊主を作る息子が、とても可愛かった。 バタバタリビングを汚してはいるが、その優しい心根に、香穂子は許してあげようと思った。 「…有り難うって、彦星も織り姫も喜んでいるよ」 「うん。そうだったら良いよ」 暁慈は嬉しそうに言っている。 それが香穂子には嬉しかった。 吉羅が帰って来る頃には片付けていると思っていたが、見て欲しいからなのか、材料を広げっ放しにしている。 「ただいま」 吉羅の声が聞こえた途端に、暁慈は香穂子と共に走っていった。 「…おかえりーとーしゃんっ!」 暁慈はかなり父親が大好きなせいか、飛付いていく。 「…おかえりなさい、暁彦さん」 「ただいま」 吉羅は先ずは香穂子にキスをした後で、息子を抱き上げる。 「とーしゃん、今日ねっ、七夕しゃまの飾りをいっぱい買ったの。後で一緒にちゅくろうっ!」 「ああ。ご飯の後、作ろうか」 吉羅は目を細めながら息子を見つめている。 深い愛情が感じられて、香穂子は嬉しかった。 吉羅の着替えの手伝いを簡単にした後、香穂子は食事の準備にかかる。 愛しいひとたちへの食事の準備は、本当に楽しい。 いつも笑顔でいられる。 食卓に食事の準備を終えると、吉羅が息子と共にやってきた。 食事をしながら、暁慈は今日の出来事を一生懸命話している。 それを吉羅は一生懸命聞いていた。 吉羅は父親としても夫としても、香穂子にとってはかなり理想的だ。 だが怒る時にはきちんと叱ってくれるのが嬉しい。 そういう面でメリハリのある父親だった。 「後から七夕飾りを一緒にちゅくろうっ! 後からたんじゃく一緒に書こうっ!」 「そうしようか。暁慈」 「あいっ!」 暁慈は返事をすると、ニコニコと笑い始める。 その表情を見ているだけで、嬉しかった。 食事の後、リビングに行くと、かなり散らかった状態だった。 流石にこれはいけないと吉羅は思う。 「暁慈、食事の前にはちゃんと片付けなさいと、言っているだろう?」 吉羅は暁慈に厳しい口調で言う。子供だからといって甘やかすことは出来なかった。 暁慈はしゅんとしてしまい、俯いている。 その姿に吉羅は胸が痛くなったがしかたがない。 「暁慈、いつも言っているだろう? きちんとメリハリを持って行動をしなさいと」 「…あい…」 暁慈はまだ小さいから意味は解ってはいないだろう。 「次のことをする場合は、前のことをちゃんと片付けてからにしなさい。良いね」 「…あい…」 暁慈はしょんぼりとしながら、黙って後片付けをする。半分泣いているのが解る。 「とーしゃんと…七夕したかった…」 その姿を見ると、吉羅は切なくなった。 「暁慈、七夕飾りを作ろう。明日から気をつけるように」 吉羅が、暁慈の目線に立って言うと、途端に明るい笑顔になった。 その笑顔に、吉羅は癒されて幸せな気分を感じた。 「とーしゃん、いっちょに!」 暁慈は深い紫の短冊を差し出してくる。 「これとーしゃんのっ!」 「有り難う」 吉羅は短冊を受け取り、願い事を考える。 願い事。 それは、家族が健康でいられること。暁慈が真っ直ぐ育つこと。子供が無事に生まれることだ。 吉羅が願い事を書いていると、暁慈も一生懸命願い事を書いている。 赤ちゃんの絵と、家族皆が笑っている絵、そしてヴァイオリンが描かれている。 「暁慈の願い事は何かな?」 「んーと、ヴァイオリンしゅること、皆が笑顔っ、そして赤ちゃんが来ることっ!」 可愛い願い事に、吉羅は息子を抱き締めずにはいられなかった。 可愛い七夕の願い事。きっと叶うだろうと思わずにはいられない。 七夕の幸せに、吉羅は思わず笑顔になった。 |