*キャンドルの夜に*


 キャンドルの灯を見ているだけでとても落ち着く。
 キャンドルの灯はマジック。
 女の子を最高の女性に見せてくれる。とっておきの魔法。
 だから今夜はロマンティックに、一番大好きなひとと過ごしたい。
 スペシャルなキャンドルナイト。

 吉羅にねだって何とか時間を取って貰い、代々木公園のキャンドルイルミネーションに連れて行って貰うことになった。
 吉羅の家がある六本木にも近いから、都合も良い。
 久し振りのデート。しかもロマンティックが沢山詰まっている。
 こんなにも甘いロマンスな夜は他にないのではないかと思った。
 だからこそ、今夜は気合いが入ってしまう。
 キャンドルの灯は、女性を艶やかに美しく見せてくれると、何かの本で読んだことがある。
 だからお洒落に、特にメイクに力が入ってしまう。吉羅は香穂子がフルメイクをするのを余り好ましくは思っていないようだが、やはり女である以上は、最高に綺麗な状態で大好きな男性には見て貰いたかった。
 気合いを入れて、キャンドルの灯の下でファンデーションを塗る。こうして化粧をしていくと、いつもの気合いが入ったメイクよりも、随分と薄付きなのに綺麗に仕上がった。
 メイクを完成させた後、髪を軽く巻いて、コンサバティブに可愛いワンピースを着る。
 吉羅の為にお洒落をするのは、なんて素敵な行為なのだろうかと、香穂子は思った。
 香穂子は、吉羅と待ち合わせをしている場所に少し早目に行き、大好きな男性を待つ。
「あの、おひとりですか?」
 いきなり声を掛けられてびっくりして顔を上げると、雰囲気が悪くない男性が立っていた。
「…あの、一人ではなく待ち合わせをしているんです…」
 香穂子が困惑をしながら呟いていると、不意に険悪なオーラを感じる。それが誰のものかは、香穂子には直ぐに解った。
「彼女の連れは私だが、何か用かね?」
 吉羅の低い冷たい声が、男に突き刺さる。
「…暁彦さん…」
 香穂子がホッとしたような笑みを浮かべると、吉羅はこれみよがしに腰を抱いてきた。
「…いいえ何も。失礼しました」
 男が行ってしまうのを、香穂子はほんの少し気の毒に思ってしまう。
「だから待ち合わせは余り好きではないんだよ…」
 吉羅は苦笑いを浮かべると、香穂子の手をしっかりと握り締めてくれた。
「だけど車よりも便利だと思ったんですよ。ゆっくりと暁彦さんと歩いてみたかったから」
 香穂子が宥めるように微笑むと、吉羅はしょうがないとばかりに、手をしっかりと握り締めてきた。
「香穂子、私からは離れないように」
「はい。有り難うございます」
 香穂子は吉羅に甘えるように寄り添うと、甘い安心感を感じた。
 ふたりで歩きながら、キャンドルで灯されたロマンティックなイルミネーションを見る。
「キャンドルの炎って本当に素敵ですね。見ているとこころが落ち着いて温かい気分になります」
「そうだね」
「それに暁彦さんがとても素敵に見えます。いつもよりもずっとずっと」
 香穂子はうっとりと吉羅を見つめてしまう。
 いつもの吉羅も艶があって本当に素敵だと思うが、今夜はいつもよりもずっとずっと素敵に見えた。夢見心地になる。
「本当に綺麗ですね。キャンドル…」
 香穂子は、様々な趣向が凝らされたキャンドルをうっとりと眺めながら、うっとりとした幸せな気分になった。
 キャンドルショップが出店しており、思わず見入ってしまう。
「このキャンドル、中にお花が入っていますよ! こっちは可愛い天使のキャンドル!」
 香穂子はまるで小さな子どものようにはしゃいで見てしまう。吉羅はそれを見守るように見つめてくれる。
 温かなまなざしに頬を染めると、香穂子は吉羅に微笑みかけた。
「この花のキャンドルが可愛い…。すみません、こちらを」
「ふたつ頼む」
 香穂子が言おうとしたところで、吉羅が口を挟む。
「暁彦さんも買うんですか? 私もひとつ」
「いや、彼女と私でふたつ頼む」
 吉羅はスマートに言うと、直ぐに会計を済ませてしまった。
「あ、私、払います」
「良いんだ。君はひとつ持っていたまえ。ひとつは今夜使おう。火事にならないようにキャンドルグラスも一緒に買おう」
「有り難うございます…」
 香穂子が嬉しそうに微笑むと、吉羅はそっと手を握り締めてきた。
 品物を受け取った後、ふたりで公園を見て回る。寒いがこのロマンティックな雰囲気が、何よりも素敵だと思う。
 寒い風が吹き抜けてきて、香穂子は思わず震える。お洒落をするとつい薄着になってしまう。
「寒いのかね?」
「少しだけ…」
「君はしょうがないね。お洒落をするよりは風邪を引かないようにしたほうが良いだろう」
「…確かにそうなんですけれど…」
 もにょもにょと言っていると、吉羅が自分のマフラーを掛けてくれた。
「これで少しはマシだろう…」
「有り難うございます…、暁彦さん…」
 香穂子が深々と頭を下げてニッコリと笑うと、吉羅は腰を抱いてくれた。
「このように密着しているほうが、君は温かいと思ってね」
「…確かに…。だけど…ドキドキしてしまいますね…」
 香穂子がはにかんだように微笑むと、吉羅は髪をくしゃりと撫でてくる。その優しい行為に香穂子は更に熱くなった。

 吉羅は香穂子を見つめながら、今夜はなんて美しいのだろうかと思う。
 キャンドルの灯に照らされた香穂子の横顔は、本当に艶があり綺麗だった。
 このまま直ぐにでも抱き締めて、自宅に連れて帰りたい。
 香穂子を独占したくて、同時に美しい彼女を誰にも曝したくはなくなる。
 キャンドルの灯の美しさよりも、香穂子の美しさに夢中になっていた。

 一通り公園内のキャンドルイルミネーションを見た後、吉羅は香穂子の手をしっかりと繋いでくれる。
「…香穂子、食事に行こう。美味しい野菜を食べさせてくれるレストランを予約している」
「有り難うございます」
 香穂子の好みを解ってくれているのが、とても嬉しかった。
 オーガニック野菜のレストランは本当に美味しくて、香穂子は堪能せずにはいられない。
 美味しくて何度も笑顔になった。
 いつもよりも食事の進み具合が早くて、六本木の自宅に行くのはかなり早い時間だった。
「これからゆっくりしたいからね」
「はい」
 吉羅の家に行くと、ふたりはゆっくりと寛ぐことにした。
「いつもより早目に帰るのも良いものですね。こうしてゆっくり出来ますから」
「そうだね…。先ほどのキャンドルに灯を代えないか?」
「そうですね…。きっとロマンティックですね…」
 吉羅はキャンドルに灯を点すと、家中の電気を消してくれる。
 ふたりで見つめるキャンドルは、本当に素敵だった。
「…とっても綺麗ですね。このキャンドル」
「そうだね…。だが…、私には君のほうが美しいと思うよ…」
「暁彦さん…」
 甘くて堪らない言葉を貰い、香穂子はうっとりと微笑んでしまう。
 そのまま唇を奪われる。
 激しいキスの後、吉羅はワンピースを脱がしてくる。
「君が余りに綺麗だから…、ずっと抱きたいと思っていたよ…」
 そのまま吉羅にしっかりと抱き締められて、愛を交わしあった。

 愛し合った後、吉羅は再びキャンドルを点す。
「本当に君は綺麗だ…」
「暁彦さんこそ、とっても素敵です」
 香穂子が抱き寄せると、吉羅もまた抱き締めてくれる。
「たまにはキャンドルの光も良いね」
「そうですね」
 ふたりは微笑みあって再び見つめ合う。
 愛し合いながら、キャンドルのロマンティックな効果に、ふたりは感謝していた。



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