*クリスマス準備*


 クリスマスの準備は大変だけれど、とても楽しい。
 外のレストランで温かくて美味しい食事、ロマンティックなホテルでの一夜も良いけれど、やはり素敵なのは、ふたりで過ごす温かな夜が一番ロマンティック。

 クィーンズスクエアの大きなツリーを見ると、クリスマスは近いのだと実感せずにはいられない。
 こんなにも素敵なイベントは他にないのだから当然だ。
 香穂子はにっこりと微笑みながら、吉羅にプレゼントをする物は何が良いかと物色した。
 吉羅にとっての一番のクリスマスプレゼントは、恐らく香穂子がヴァイオリニストとして活躍することだろう。
 楽器の中でもお金がかかってしまうヴァイオリンを続けて来られたのも吉羅のサポートがあったからこそだ。
 だから結果を出すことを何よりも良いことだと言ってくれている。
 香穂子はヴァイオリニストとしての成長を吉羅に見せる為に、クリスマスイヴには、最高のヴァイオリン演奏を聴かせようと思っている。
 それもプレゼントだが、やはり残るものをプレゼントしたい。
 吉羅がよく使っているネクタイピンの素敵なものか、万年筆も良いかもしれない。或いは健康にかなり気を 遣っているから健康グッズ、ヘルシー料理を作るのも好きだから、そのグッズも良いかもしれない。
 大好きなひとの為にプレゼントを選ぶのは、なんて楽しいのだろうか。
 香穂子はショッピングモールを緩やかに歩きながら、吉羅のプレゼント候補を見て回る。
 それだけでなんと楽しいことなのだろうか。
 ピックアップを終えて、カフェに入って一通りプレゼントを検討してみた。
 健康グッズなんて、少しオジサン臭いと思いながら、肩凝り用のグッズが吉羅の家にあれば便利だと思ってしまう。
 料理グッズはキチンとした性格の吉羅の為に計量カップのセットが良いとも思ったり、或いはカフェエプロン の素敵なものが良いとも思ったりする。
 カフェエプロンなら、吉羅の素敵な料理をする姿に、とてもカッコいいアクセントになるのではないかとも思った。
 かなり素敵だと思う。
「やっぱりカフェエプロンと計量カップのセットかな…」
 香穂子は色々と悩みながら、吉羅へのプレゼントを決めた。
 結局はカフェエプロンと計量カップを買って、香穂子はクィーンズスクエアを後にする。
 今日はゆっくりと散歩をしながら帰りたくなり、ゆるゆると家まで歩いていた。
 ご機嫌な気分で歩いていると、車のクラクションが聞こえた。
 ゆっくりとフェラーリが香穂子の前に停まり、窓から吉羅が顔を出す。
「香穂子、今、帰りかね」
「暁彦さん、こんにちは。はい、今、帰りなんです」
 香穂子が慌ててプレゼントを隠すと、吉羅は苦笑いを浮かべた。
「今から時間はあるかね?」
「はい。勿論です!」
「だったら一緒に過ごさないかね? 私も時間が空いたんだよ」
「嬉しいです!」
 吉羅が助手席のドアを開けてくれて、香穂子は弾んで車に乗り込んだ。
「買い物かね?」
「はい。クリスマスの準備を色々と」
「…そうか…。今年は、クリスマスツリーを出して、久しぶりにクリスマスらしいクリスマスにしたいと思っているが…、手伝ってくれるかね?」
「もちろんです! クリスマスツリーとか大好きなんですよ!」
 香穂子は、吉羅と過ごすクリスマスを思い浮かべるだけで、幸せな気分になる。こんなにも幸せなクリスマスはないと思う。
 大好きで大好きでしょうがないひととのクリスマスなのだから。
「クリスマスツリーはうちにないから、早速、買いに行くかね? 今年はうちで過ごすと決めたから、クリスマスらしいことをしよう」
「はい」
 香穂子は幸せ過ぎてニコニコと笑いながら、吉羅にそっと躰を寄せた。

 輸入物の重厚なクリスマスツリーを扱っている店に行き、香穂子は様々な種類のものを見て回る。
「出来たら長い間使えるクリスマスツリーが良い。そういうもので君の好みのものがあれば、選んでくれたまえ」
「はい!」
 ツリー選びを任されたのが嬉しくて、香穂子は弾むような気分でクリスマスツリーを見て回る。
 その中で、とてもシンプルだが味のあるオーナメントが着いているツリーに心を奪われた。
「…これ、物凄く可愛いし、温かな感じがします。あ、イエス様が生まれた様子を表したオーナメントもありますよ。この天使も可愛い…」
 香穂子が夢中になってオーナメントを見ていると、吉羅もそっと横に来てくれた。
「…確かに良いツリーだ。この赤毛の天使は何となく君に似ていないか?」
「本当ですか…?」
 天使になんて喩えられるのはとても嬉しい。温かな気分になる。
 香穂子は頬をほんのりと紅に染め上げながら、吉羅をそっと見上げた。
「私もこれが気に入ったよ。これにしようか」
「はい! 嬉しいです!」
 香穂子は自分が一番気に入ったツリーを選んでくれたのが嬉しくて、満面の笑みを吉羅に浮かべた。
 直ぐに店員を呼び、吉羅はツリーセットを梱包してもらう。香穂子はまるで小さな子供のようにワクワクしていた。
 ツリーを車に乗せて、吉羅の六本木の自宅へと向かう。
 あの無機質で硬質な部屋を、温かなクリスマスツリーで飾るのが、香穂子は楽しみで嬉しかった。
 吉羅の家に入ると、ふたりは早速クリスマスツリーの飾り付けにかかる。
 とは言っても、香穂子が殆どひとりでやってしまうのだが。
「こうしてクリスマスツリーを飾っていると、小さな子供に戻ったみたいで楽しいです。クリスマスまでは、ツリーを見るのがとても楽しみになりますね」
「そうだね」
 本当にしっかりとしたクリスマスツリーだ。これならば何年もずっと使うことが出来るだろう。
 いつか吉羅の子供と一緒にこうしてツリーを飾ることが出来るだろうか。
 香穂子は想像するだけで、顔が真っ赤になってしまった。
「何顔を赤らめているのかね?」
「あ、あの…、何でもないです…」
 香穂子は小さく呟くと、そっと俯いてしまう。
 すると吉羅は香穂子を柔らかく抱き締めると、その瞳を覗きこんだ。
「…あ、あの」
「私と同じ想像をしたのかな? 恐らく君は…。君と私たちの子供がクリスマスツリーを飾る姿を、私もつい想像してしまったよ。だから、長い間ずっと飾れるようなクリスマスツリーを選んだんだよ」
「…暁彦さん…」
 吉羅も同じようなことを思ってくれて、香穂子はこころがピッタリと重なったような気がして、嬉しかった。
「いつか本当に叶うかもしれないね? それは近い未来なのかもしれないね」
「はい」
 香穂子が満ち足りた笑みを浮かべると、吉羅はとっておきのキスをしてくれた。
「ずっとこうしてクリスマスツリーをずっと暁彦さんと楽しんでいけたら嬉しいです」
「そうだね。きっと、そうなるだろう。私たちみんなでオーナメントを飾る場面がね」
 吉羅に抱き締められて、香穂子は幸せな気分でうっとりと頷く。
 本当にこんなに幸せなことはないと思ってしまう。
「…これからは毎年、クリスマスは準備から楽しんでみたいものだね」
「そうですね。私もそう思います」
 香穂子はにっこりと笑うと、吉羅を抱き締め返した。
 クリスマスツリーを飾った後で、香穂子はツリーの足下に吉羅へのクリスマスプレゼントを置いた。
「来年はもっと増えるかもしれないね」
「…え?」
 吉羅の言葉に、香穂子ははにかんでしまう。
 来年はもっと素敵なクリスマス準備になる。
 香穂子はそう甘く予感していた。



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