*クリスマスの前に*


 クリスマスプレゼントは何にしようかと考えるのは、なんて楽しいのだろうかと香穂子はは思う。

 大好きなひとが静かに落ち着いて喜ぶ顔を思い浮かべるだけで、うきうきとした気持ちになる。

 とっておきの甘くて幸せ時間を愛するひとと過ごす。これ以上の時間はないと、香穂子は思っていた。

 クリスマスが楽しみすぎて、今年はアベントカレンダーすら買ってしまう始末だ。

 クリスマスという大きなイベントがあるからこそ、年末もかなり忙しい吉羅と会えなくても、頑張ることが出来るのだ。

 香穂子は、吉羅に、極力、連絡をしないようにする。

 電話やメールをしてしまい、仕事を止めさせてしまった経験が何度かあるからだ。

 だからこそ、クリスマスまでは我慢しようと決めたのだ。

 とはいえ、クリスマスを吉羅とどのように過ごすかなんて、何も決めていなかった。

 それに、まだ、きちんとした約束も出来ていない状況だ。

 香穂子もクリスマスコンサートでのヴァイオリン演奏もあるから、忙しいこともある。

 なかなかふたりの時間がとれないのも事実だ。

 また、素敵な恋のイベントが続く、冬から春にかけての季節は、クラシックが最も素敵に聴こえる時期でもある。そのせいか、香穂子への演奏オファーが増えるのもまた事実だ。

 香穂子はまだまだ学生ヴァイオリニストであるから、安価ですむということもあり、声をかけられることも増えている。

 ふたりのスケジュールをどうすれば合わせられるのか。香穂子はそのことばかりを真剣に考えていた。

 

 せめてクリスマスは一緒にいたい。

 クリスチャンの吉羅だから、余計にそう思うかもしれない。

 クリスマスのミサにふたりで行きたい。

 なのにそれはなかなかかなわないと、香穂子は思った。

 街を歩いていると、素敵なイルミネーションが見える。ロマンティックなイベントが見られると、途端に恋人が恋しくなった。

 吉羅に逢いたい。

 そう考えていた時に、携帯電話が鳴り響いた。

「はい、香穂子です」

「私だ。時間が取れた。会えないかね?」

「はい。どちらに行けば良いですか?」

「今、何処にいる?」

「クィーンズ・スクウェアです」

「分かった。迎えに行く。クリスマスツリーのところで待ってくれていたまえ」

「はい」

 香穂子は携帯電話を切ると、ダンスをしたくなるようなわくわくとした気持ちになる。

 吉羅と会える。

 それだけで飛び上がりたくなるぐらいに嬉しい。

 この気持ちは誰にも負けないつもりだ。

 香穂子がツリーをうっとりとした楽しい気分で眺めていると、程なく吉羅がやってきた。

「お待たせしたね」

 吉羅の姿を見るだけで、香穂子は幸せでほっこりとした気持ちになる。

 やはり恋人は完璧だと、ついつい香穂子は思ってしまう。

「食事をした後、うちに来ないか?まだ、クリスマスツリーの準備が出来ていなくてね。君に手を貸して貰いたいんだけれど」

「はい、分かりました。去年と同じように、クリスマスツリーを飾りましょう。楽しみです!」

 香穂子は、今年も吉羅のクリスマスツリーの準備が出来て嬉しい。

 食事も楽しみではあるが、それよりももっと、ツリーを飾るのが楽しみだ。

 吉羅と堂々と手を繋いで、パーキングへと向かう。

 繋ぐ吉羅の手が温かくて、香穂子は心までほっこり気分だった。

 車に乗って、都内方向へと向かう。

 この時期は、どこもイルミネーションが華やかで素敵で、香穂子はついうっとりと見てしまう。

 最高のドライブだった。

 食通の吉羅だから様々なレストランを知っている。それもデートの楽しみのひとつなのだ。

「今年も、クリスマスのミサなどに演奏者として呼ばれているのかな?」

「はい。クリスマスイブとその前日です。クリスマスの当日よりも、前の方が混み合いますからね」

「確かにね。肝心のクリスマス当日は、もう正月に向かってまっしぐらだね」

「そうですね」

「だったら、イブの夜以降は大丈夫だということだね」

「はい」

「だったら迎えにいこう。クリスマスの朝ミサには一緒に出られそうだね」

「はい、大丈夫ですよ」

 香穂子は、吉羅とクリスマスの約束を結ぶことが出来て、とても嬉しかった。

 

 吉羅は、隠れ家的なレストランに連れていってくれた。

 そこのシチューは絶品で、香穂子はすっかり気に入った。

 濃厚な味がとても気に入った。

「美味しい!」

「昔から気に入っている味だからね。君が気に入ってくれて良かったよ」

 吉羅が笑顔になり、香穂子もまた笑顔になる。

 香穂子は温かな気持ちになり、ずっと笑顔でいられた。

 

 デザートのザッハトルテまで堪能した後、ふたりは吉羅の自宅に向かう。

「明日の朝まで君を拘束するからそのつもりで」

「はい」

 拘束と言っても、たっぷりと甘い拘束ではあるのだが。

 吉羅の自宅に到着すると、早速、クリスマスツリーの準備を始める。

 準備をするだけでもわくわくして楽しい。

 クリスマスツリーのセットは、去年、吉羅と買ったものだ。

 香穂子が一緒だからこそのクリスマスツリーなのだ。

 吉羅は、クリスマスツリーのセットを出してきてくれた。

「さてと、飾りつけをしようか」

「はい。こんな小さなオーナメント、凄く好きなんですよ」

 香穂子はオーナメントをひとつずつ飾りながら、子供の頃に戻ったような楽しい気分になった。

「サンタさんも可愛いですが、やはり天使が可愛いんですよね。あ、靴下もプレゼントも可愛い!」

 香穂子はにこにこしながら、飾り付けて行く。

 吉羅がカフェオレを用意して、見守ってくれていた。

 雪とイルミネーションをつけて完成する。

「後は、ツリーの足下にプレゼントを置いて完成だね。プレゼントは内緒だがね」

「私もですよ」

 香穂子は当然だとばかりに、くすりと微笑んだ。

 ふたりでツリーを並んで見つめたあと、キスをする。

 ツリーの下でキスをしたふたりは結ばれることを知っているから。

「これで、クリスマスの準備はおしまいだね」

「そうですね」

 ふたりはもう一度甘くキスをする。甘い、甘い、キスで、クリスマスの準備は完璧になった。

 後は、プレゼント。

 それは当日までのお楽しみ。

 吉羅も香穂子もお互いに贈ることを楽しみにしている。

 ツリーの足下にプレゼントを置くのを、香穂子は何よりも楽しみにしていた。

「さあ、これからは、私たちの時間だからね」

「はい」

 今日一番のプレゼントタイムが始まったのは、言うまでもなかった。



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