いよいよ今年も終わってしまう。 新しい年がやってくる。 今年がさよならをして、来年がこんにちはとやってくる時には、やはり、大好きな男性と一緒にいたい。 ふたりで新しい年を迎える瞬間を過ごせたら、それだけで幸せ。 大晦日はやはり横浜でロマンティックに過ごしたい。 汽笛を聴きながら年越しをするのが、毎年の定番になっている。 今までは家族や友人と過ごしていたが、今年からは大好きな男性と過ごす。 ずっとずっと憬れていた。 今年はそれが叶いそうで嬉しかった。 念入りにお化粧をして、お洒落をして、夕方に迎えに来てもらうのを待つ。 吉羅と一緒に過ごす初めての大晦日。とっておきの1日になるに違いない。 香穂子は緊張と期待でいっぱいになりながら、吉羅を待った。 フェラーリのエンジン音が聞こえて、香穂子は玄関先へと出る。 すると香穂子だけの大切な王子様が乗るフェラーリが、家の前にぴたりと停まった。 ドキドキしながら待っていると、吉羅が流れるように車から降りてくる。その姿を見るだけで、香穂子はうっとりとしてしまった。 「待たせたね。車に乗りたまえ」 「有り難うございます」 吉羅にエスコートをされてうっとりとしながら、香穂子はフェラーリに乗り込んだ。 今から新しい年を迎える時まで一緒にいられる。 それが香穂子には嬉しくてしょうがなかった。 これから夕食を食べて、みなとみらいをぶらぶらとふたりで散策をする。それを想像するだけで嬉しかった。 「暁彦さんと一緒にカウントダウンを迎えるのがとても嬉しいです。いつも見慣れた横浜の街だけれど、今日はとっておきのような気がします」 「それは良かった。私も君と過ごせる大晦日は幸せだと思うよ。大晦日も関係なく、いつも仕事ばかりをしていたからね。私としたら、今夜はとても嬉しい夜だよ」 吉羅はいつもと違って甘い言葉を囁いてくれる。 普段の吉羅はとてもクールで、恋人である香穂子にも容赦がないところがある。 だからこそ時々泣きそうになることもある。 だがこうしてご褒美のように甘い時間をくれるから、香穂子は何時でも幸せで甘い気分でいられるのだ。 「今日はたっぷり楽しみます」 「そうだね。今日も明日も…」 吉羅に意味深の視線を向けられて、不意に太股を触れられる。 それだけで甘い鼓動に苦しくなった。 車は、吉羅がよく使っているみなとみらいの外資系ホテルの駐車場に入る。 宿泊というよりはパーティなどで利用しているようだった。 吉羅は先ずホテルのフロントに向かう。 その間も、視線を気にすることなく、香穂子の手を握ってくれていた。 吉羅は手早くチェックインの手続きをする。 その様子を見ている間、緊張で喉がからからに渇いていくのを感じた。 決して不快な感覚ではないのだが、少しだけ息苦しくなるのを感じる。 こころの奥から滲んでくる甘さと混じり合って、酔っ払いそうになった。 チェックインを済ませると、吉羅はホテルに入っている高級レストランに案内をしてくれる。 ここからはみなとみらいが一望出来て、息を呑むほどの夜景を堪能することが出来た。 大晦日の夜景は、いつも以上にロマンティック度が上がるような気がする。 見つめているだけでうっとりしてしまった。 カウントダウン前の街は、わくわくした期待が充満していてとてめ気持ちが良い。 何だか街全体が、遠足前の子供のようにわくわくしていた。 「こうやってカウントダウン前の夜景を見るのも良いですね。何だかとっておきの瞬間を切り取ったみたいで」 「そうだね。静けさがあるから落ち着いた夜景に見えるが、何処か楽しそうだね。君のように」 吉羅は甘く微笑んで、僅かに目を細めた。 「本当に楽しいんです。暁彦さんと一緒にいるだけで、私は嬉しいんですよ」 「香穂子、私も同じだ」 吉羅とふたりで過ごす時間は、本当に掛け替えのないものだ。まるでスペシャルなお年玉を貰ったような気分になった。 出される食事も、大晦日スペシャルのようで、何を食べても本当に美味しかった。 こんなに美味しい食事は、なかなかない。 「本当に今夜のご飯は美味しいです。何だか全身暖まるようです」 香穂子がうっとりにっこりしながら言うと、吉羅はとことんまで機嫌の良い笑みを浮かべてくれた。 デザートを食べ終わる頃、カウントダウンが行なわれる周辺はとても混雑してくる。 「かなりの人出ですね。私、カウントダウンに参加をするのは初めてなんですよ。横浜に住んでいながら、カウントダウンは一度もないんです。いつも汽笛を聴きながら、年越しそばを食べるのが典型的な過ごし方でした」 今年は、定番の年越しそばもないし、紅白もクラシックコンサートも見ない。 だが、どの年よりも素敵でロマンティックな年越しを迎えられそうだ。 大好きで大好きでしょうがない男性と、新しい年が生まれる瞬間を過ごせるのだから。 「…私の大晦日は、毎年仕事が絡んだ過ごし方が多かったからね。こうして汽笛を聴きながら、大晦日を過ごすなんて…、高校生の時以来だね…」 吉羅は懐かしそうに、一瞬、遠いまなざしをする。 恐らくはまだ姉が生きていた頃に想いを馳せているのだろう。何だか泣きそうになる。 「今年は久し振りに温かな大晦日を迎えられた。君のお陰だ」 「私こそこんなに幸せな大晦日はないと思っていますよ。どうも有り難うございます」 香穂子が笑顔を向けると、吉羅もまた微笑んでくれる、 微笑む度にふたりの絆が深まっていくような気がした。 食事が終わり、レストランを出る。 吉羅は香穂子の手をしっかりと握り締めて、エレベーターへと乗り込んだ。 「新年の瞬間がとても美しくしかもふたりきりで堪能出来る場所だよ」 吉羅は特別フロアにある、スィートルームへと香穂子を誘ってくれる。 吉羅にしっかりと掴まれている手を、香穂子は縋るように握り締める。 甘い緊張でこころを震わせている香穂子に気付いたのか、吉羅もまた手を握り返してくれた。 「君は大勢のいるところでのカウントダウンが良かったかな…?」 「…いいえ…。暁彦さんとふたりきりで新年を迎えるのが良いです…」 「有り難う…」 吉羅は静かに呟くと、香穂子をスィートルームへと連れていってくれた。 「温かな場所でふたりでゆっくりとするのが良いと思ってね。君が風邪を引いてしまったら困るからね」 「…有り難うございます」 スィートルームは、横浜港を一望することが出来る。 今夜は特別に汽笛も聞こえるのだ。 部屋には香穂子の大好きな甘いデザートも用意されていた。 ふたりは横浜の港が一番よく見える場所に腰を下ろして、寄り添いながら港を見つめる。 年が変わるまではまだ時間があるから、香穂子は吉羅の為にヴァイオリンを一曲奏でることにした。 いつも吉羅と逢う時はついヴァイオリンを持ってきてしまうのだ。 香穂子がヴァイオリンを奏で終わりと、ご褒美には吉羅からとびきり甘いキスが待っていた。 「ジルベスターよりも素晴らしいね」 吉羅の言葉に香穂子は嬉しさと恥ずかしさに真っ赤になった。 ふたりは新年を寄り添いながら迎える。 汽笛を聴きながら迎える新年はなんて素晴らしいのだろうか。 「香穂子、今年は有り難う。来年もずっと宜しく頼む」 「暁彦さん、今年も有り難うございます。来年もずっとずっと宜しくお願いします」 香穂子の言葉に吉羅は笑みで答えると、そのまま唇を重ねてきた。 キスの間に新年を迎える。 「あけましておめでとう」 「あけましておめでとうございます」 挨拶をした後で抱き上げられる。 そのまま香穂子はベッドへと運ばれる。 新しい愛の時間が始まる。 |