いよいよ今年も終わってしまう。 新しい年がやってくる。 今年がさよならをして、来年がこんにちはとやってくる時には、やはり、大好きな男性と一緒にいたい。 ふたりで新しい年を迎える瞬間を過ごせたら、それだけで幸せ。 とうとう大晦日だ。 クリスマスからずっと吉羅に家に入り浸ってしまっているので、今年は吉羅家でのカウントダウンになると香穂子は思う。 ふたりで紅白を見て、お参りに行くのも素敵なのかもしれない。 新年の準備も終わり、吉羅が手配をしていたお節料理も届いた。 後は、年越しそばの準備をするだけだ。 ふたりでのんびりゆったりの時間を過ごしながらお正月を迎えるのも、良いかもしれない。 大晦日にやるべきことを総て終えて、香穂子はのんびりとする。 吉羅はと言えば、この期に及んで仕事をしていた。 「暁彦さん、今日は大晦日だよ。そんなに根を詰めて仕事をしなくても良いんじゃないですか?」 香穂子が心配でその顔を覗き込むと、優しく頭を撫でられた。 「大丈夫だから、心配しなくても構わないよ。仕事はもうすぐ終わるしね」 「それなら良かったです」 香穂子はホッとすると、吉羅にコーヒーを淹れるためにキッチンに立った。 コーヒーを淹れて吉羅に持っていくと、吉羅はちょうど仕事を終えたところだった。 「…有り難う…」 吉羅は静かに言うと、ブラックコーヒーを飲む。 「今年は港のカウントダウンは良かったのかね?」 「はい。こうして暁彦さんと一緒に新年を過ごすことが出来たら、それだけで幸せだと思って。人込みも凄いですから、疲れてしまいますしね」 「…そうか。ロマンティックが何よりも好きな君のことだから、港のカウントダウンに行きたいと思っていたよ」 「暁彦さんと一緒にいることが何よりものロマンティックだって知っていましたか?」 香穂子が甘い微笑みを浮かべながら言うと、吉羅もまた薄い笑みを浮かべた。 「それに、暁彦さんとよくよくある年末年始の過ごし方をしたかったですしね」 香穂子が屈託なく笑うと、吉羅は頷いた。 「そういえば、こうやってゆっくりと年末年始を過ごしたことはなかったね。こうしてゆったりとした年末年始を過ごすのは、姉が生きていた頃以来だよ…」 吉羅は懐かしそうに微笑むと、遠い瞳をした。 「…そうなんですか…」 香穂子はしんみりとしながら、ほんのりと胸が痛むのを感じた。 「だが、こうして都会の真ん中で過ごすのも悪くないね。君と一緒なら、どのような年末年始の過ごし方だろうが、構わないがね」 吉羅の言葉が嬉しくて、香穂子はにっこりと笑った。 大晦日は、軽い夕食を済ませて、後はクラシックコンサートの中継を見る。 今年はこうして吉羅と一緒に過ごすことが出来たが、来年は忙しくて大晦日が忙しくて、こうして一緒にいられないかもしれない。 だからこそ、今年はふたりきりで濃密な時間を刻みたかった。 「来年は、君はここにいなくて、ステージに立っているかもしれないね。その時は勿論、私も君が出るステージを見に行くがね」 「有り難うございます」 香穂子は少し寂しいかもしれないが、そうなると良いと思わずにはいられなかった。 吉羅に膝枕を久し振りにしてあげながら、香穂子は柔らかな髪をゆっくりと撫でた。 「今年もお勤めご苦労様でした。暁彦さんのお陰で、学院も随分と良くなりましたね。とても感謝しているんですよ。元生徒として…」 「君も頑張ってくれたからだ。君には感謝しているよ」 吉羅は落ち着いた声で呟くと、香穂子を柔らかなまなざしで見つめてくれた。 「年越しそばを食べたら、近くの神社にお参りに行きましょう」 「そうだね」 横浜港でのカウントダウンも良いが、やはりこうしてふたりでいるのが一番だ。 温かな年越しそばを作った後、ふたりは仲良くそれを啜る。 「美味しいです。流石は老舗のおそばですね。こんなに美味しいおだしもついているから、作るのも簡単ですし」 香穂子はそばを味わいながら、にっこりと笑う。 吉羅はフッと笑うと、香穂子をみつめた。 「確かにここのそばは美味しいのだが、私は君と食べているから美味しいと思うんだけれどね…。毎年、ここのそばを食べているが、こんなにも美味しいとは感じなかった。恐らくは、君が私に魔法をかけたのだろうね? こんなにもそばは美味しいものだというね」 吉羅はフッと笑うと、香穂子を真直ぐ見つめてくれた。 そう言って貰えたら、こんなにも嬉しいことはない。 香穂子はにっこりと笑うと、吉羅を視線で捕らえた。 「…私もきっと暁彦さんの魔法にかかったのだと思います。だって今夜のおそばはとっておきに美味しいですから」 「それは良かった…。君が美味しいと言ってくれるのが、私には一番だからね」 「私もですよ」 香穂子は心も躰も暖まるのを感じながら、吉羅とそばを啜った。 年越しそばの後片付けを終えると、間も無く新年を迎える時間になった。 香穂子は吉羅とふたりでこころ静かに幸せな気分で新年を迎える。 「間も無くだね…」 「…はい」 吉羅は香穂子を抱き寄せると、そのまま顔を近付けてくる。 後少し。 ほんの少しで新年を迎える。 ふたりで息を詰めて新年の瞬間を待っていると、華やかに時計の針が重なりあった。 同時に、吉羅の唇が香穂子の唇に重なってくる。 しっとりと深い角度で重なり、甘い痺れを香穂子に運んでくる。 こんなにロマンティックな瞬間は他にない。 香穂子はそう思いながら、ゆっくりと吉羅に抱き付いた。 キスが終わり、ふたりのまなざしが重なりあう。 「あけましておめでとう。今年もふたりで頑張って行こう」 「あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします」 香穂子はキスの余韻にぼんやりとしながら挨拶をした後、吉羅に軽くキスをした。 「さて、新年のお参りに行こうか」 「…はい…」 香穂子は手早く支度をして、吉羅と手を繋いで近くの神社まで歩いて行く。 人込みを避けて、六本木近くの神社に行く。 眠らない街をゆったりと散歩するのも、楽しかった。 吉羅とふたりで、芋洗坂近くにひっそりとある、朝日神社へと向かう。 「ここは、美の神様らしいよ」 「だったら綺麗になれるようにお祈りをしなければならないですね」 香穂子は楽しみに言うと、吉羅とふたりでお参りをした。 これからもずっと吉羅と一緒にいられるように。 その願いを込めて、しっかりとお祈りをした。 「もう良いかね?」 「はい」 「じゃあ行こうか」 吉羅が香穂子の手をしっかりと握り締めてくれ、ふたりは家へと戻る。 途中で温かな飲み物を買って、ゆるやかに散歩をしながら自宅に戻った。 自宅に戻り、シャワーを浴びて眠る支度をする。 「初詣ですっかり冷えてしまったからね。君を温めなければならないね」 「…暁彦さん…」 吉羅と抱き合ってベッドに入ると、お互いにしっかりと抱き合って温めあう。 ずっと起きているにも関わらず、ふたりはお互いの愛を交換するかのように、肌を重ね合う。 こんなにも幸せな新年はない。 満ち足りるまでしっかりと愛し合った後で、ふたりはゆるゆると温かな眠りの世界に誘われる。 こんなにも気持ちの良い眠りは他にないよ。 そんなことを思いながら、ふたりはただ抱き合って眠りに落ちた。 初夢はお互いの夢が良いと思いながら。 |