秋も深まると、日本大通りの銀杏も盛りを迎える。 幼い頃からこの時期になると、銀杏を拾いに行くのが楽しみになる。 炒ったり、或いは茶碗蒸しに入れたりと、様々な側面で香穂子を楽しませてくれる。 吉羅との待ち合わせの間、持ってきた缶の中に銀杏を拾って入れて行く。 「踏まないようにしないと、匂いが凄いもの」 香穂子は慎重になりながら、銀杏を丁寧に拾っていく。 「茶碗蒸しに入れて食べようかな」 香穂子が銀杏を拾っていると、優しい影が目の前に宿った。 「何をしているのかね? 君は」 顔を上げると、そこには大好きな吉羅が苦笑いをして立っていた。 「…暁彦さん…!」 香穂子は吉羅の顔を見るなり、立ち上がろうとして躓いてしまう。 「…あ…っ!」 香穂子がバランスを失ったところで、吉羅は何とか受け止めてくれる。 銀杏被害は最小限に食い止められたものの、やはり足で思い切り潰してしまい、ヒールやタイツに着いてしまった。 かなりの酷い臭いに、香穂子は泣きそうになる。 「…ご、ごめんなさい…」 こんな脚じゃ、デートにも行けない。 吉羅が連れていってくれるところは、いつも最高のところだからだ。 恥をかかすわけにはいかないのだ。 その上、かなりの臭いだ。 これでは吉羅に移ってしまう。 香穂子はしょんぼりとしながら、吉羅から離れようとした。 「…ごめんなさい…。これじゃ…、何処にも行けないですよね…。銀杏に夢中になっていたから、私が悪いんです。で、出直してきたほうが…」 香穂子は吉羅の顔を正面に見ることが出来なくて、しょんぼりとうなだれていた。 「出直さなくて良い」 「…え…?」 驚いて香穂子が顔を上げると、吉羅はいつものようなクールな表情で、手をギュッと握り締めてきた。 「…あ、あの…っ」 「来なさい」 吉羅はそのまま香穂子を引っ張って行くと、車を停めている路上パーキングへと向かった。 歩く度に、銀杏特有の不快な臭いがする。それでも吉羅はお構いなしとばかりに歩き続けた。 「吉羅さん、臭いが着いてしまいますっ!」 「構わない」 吉羅は静かに言うと、いつものように愛車の助手席を開けてくれた。 「乗りなさい」 吉羅はスマートに言うと、香穂子を見た。 「…だって…臭いが充満してしまうじゃないですか…。それは嫌なんです…」 香穂子は半分泣きそうになりながら言い、吉羅の車に乗ろうとはしない。 「全く、しょうがないね君は…。だったら靴はこの袋に入れたまえ。それと、車に乗ったらタイツは脱ぐと良い。 今日は私の家に行こうか。幸いなことに、まだレストランには連絡を入れてはいないからね」 「有り難うございます」 ほんの少しだけホッとして、香穂子はヒールを脱いで袋の中に入れて、車に乗り込んだ。 車のドアを閉めて、直ぐにタイツを脱ぐ。 ようやくタイツを脱いで袋に入れると、臭いはなくなった。 ホッとして躰から力を抜いた後、シートベルトをする。 吉羅はやれやれといったような表情になると、香穂子を見た。 「暁彦さん、有り難うございます」 「車を出すよ」 「はい」 香穂子が頷くと、吉羅は静かに車を出してくれた。 「…ごめんなさい…。銀杏拾いに夢中になってしまって…。…茶碗蒸しに入れたりだとか、炒ったりしたら美味しいだろうなあって思っていたら、つい夢中になってしまって…」 香穂子がしょんぼりとしていると、吉羅はフッと笑みを浮かべた。 「構わないよ。私も小さい頃のことを思い出して懐かしかったよ」 「…暁彦さん…」 「小さな頃、姉とふたりでよく銀杏を拾いにいったものだよ。父にはよく怒られたけれどね…。今や懐かしい想い出だよ…」 「…暁彦さん…」 吉羅の瞳がほんのりとノスタルジーを浮かべて甘くなった。そのまなざしはとても魅力的で、香穂子のこころを強く打つ。 「姉は炒ったものが好きだったが、私は茶碗蒸しに入れたものが好きだったね」 「だったら茶碗蒸しを作りますよ! 茶碗蒸しなら、何回も作ったことがありますから! 沢山、沢山、作ります!」 「有り難う。では、早速作って貰おうかな。今日は家でゆっくりとすることにしようか」 「はい」 「うちで食事をするということは、スーパーで食材を買わなければならないが…」 吉羅はそう言いながら、香穂子のむき出しになった太股に触れてきた。 「…あ…」 思わず甘い声を掛けた出してしまい、吉羅は苦笑する。 「そんな声を出されてしまうと、茶碗蒸しよりも君が欲しくなってしまう…」 吉羅は官能的な声で呟くと、香穂子の太股を柔らかく撫で付けた。 「…暁彦さん…っ」 「こんな無防備な君を誰かに見せるのは勿体ないからね。買い物は私が行こうか。君はうちで待っていてくれたまえ」 「はい…」 本当は一緒に買い物に行きたいのは山々だが、このような状況では致し方がない。 「解りました。…あの…、待っています。おうちで…」 「ああ」 吉羅はシンプルに答えると、再び香穂子の太股をゆっくりと撫でてきた。 こうしてずっと撫でられてしまうと、鼓動が甘く震えてどうしようもなくなる。 熱くなった瞳で吉羅を恨めしく見つめると、フッと余裕のある笑みを浮かべられてしまった。 「…ずるいです…」 「何のことかな…? とにかく、君の作る茶碗蒸しを楽しみにしているよ」 吉羅はさらりと言うと、そっと香穂子を抱き寄せた。 「車の運転中です…っ」 「…そうだったね」 吉羅は苦笑いを浮かべながら、ステアリングを握り直したが、香穂子の脚を意味ありげに撫でることは止めなかった。 吉羅の家の駐車場にいて、車を降りるなり、、香穂子は抱き上げられ、吉羅の部屋まで運ばれる。 途中のエレベーターで誰か知らないひとが入ってきたらどうしようかと、香穂子はかなり焦ってしまった。 「…だ、誰か来たら困りますよっ」 「困らないけれどね。私は…」 香穂子が真っ赤になって俯いているのに、吉羅は全く気にしてはいないようだった。 誰にも逢うことなく、何とか吉羅の部屋に辿り着く。 吉羅は直ぐに香穂子を下ろしてくれたが、恥ずかしさがほんのりと残った。 「私はこれから買い物に言ってくるから、君はシャワーでも浴びて待っていてくれ」 「はい、有り難うございます」 吉羅は静かに言うと、そのまま買い物に行ってしまった。 「シャワー浴びてなんとかしないとね」 ひとりになった香穂子はシャワーを浴びに行き臭いを消し去ると、吉羅の家に置いている服に着替えた。 これでホッと出来る。 エプロンをして、お米を炊飯器に仕掛けたところで、、吉羅が帰ってきた。 「お帰りなさい」 吉羅から荷物を受け取ると、香穂子は冷蔵庫へと持って行く。 「早速、茶碗蒸しを作りますね」 「茶碗蒸しの他にいるだろうと思って、刺身を買ってきた。楽なのが良いだろう?」 「有り難う」 吉羅のこういった気遣いが嬉しい。 茶碗蒸し以外に献立を考えてはいなかったから、助かった。 香穂子は茶碗蒸し担当になり、吸い物や簡単な酢の物といったおかずは吉羅が手早く準備をしてくれる。 一人暮らしが長いせいか、吉羅はとても手際良く料理を手伝ってくれた。 茶碗蒸しに銀杏を入れて、蒸し器にかける。 これが出来上がれば、食事の完成だ。 「楽しみです」 茶碗蒸しが蒸し上がるのを、香穂子は小さな子供のように待った。 茶碗蒸しが出来上がり、ふたりで食卓を囲む。 「いただきます」 ふたりでこうして温かな食卓を囲むのが、本当は何よりも嬉しい。 「銀杏入りの茶碗蒸しはやっぱり美味しいものだね。子供の頃を思い出したよ。有り難う」 香穂子がにっこりと笑うと、吉羅も微笑んでくれる。 「今日は家で食事をするのが正解だったね」 吉羅は本当に幸せそうな柔らかな声で言うと、香穂子の頬をそっと指先で触れた。 「香穂子、食事が終わったら、私にとっておきのものをくれないかね?」 「とっておきのもの…?」 それが何であるか薄々気付いているが故に、香穂子はドキドキする。 はにかんだ笑みで香穂子が吉羅を見つめると、フッと意味深い微笑みを返してきてくれた。 食事の後、吉羅は香穂子は抱き上げると、ベッドへと連れていく。 ”とっておきのもの”を手に入れるために---- |