今日で長かったおやすみが終わってしまう。 始まる前はとても長いような気がしたのに、いざ始まってしまえば、本当に切ない。 特に愛する男性との休暇となれば余計だ。 大型連休だから、余り人込みには行かずに、ふたりはゆったりとのんびりと過ごした。 前半は都内のホテルで優雅に過ごし、後半は吉羅の家で過ごした。 本当にのんびりとした最高に幸せな休日だった。 それも今日でおしまいなのだ。 また日常が始まる。 ふたりにとっては忙しい日々が続く。 香穂子は、吉羅に膝枕をしながら、柔らかな陽射しを窓から感じながら、幸せを感じていた。 「こんなにもふたりでゆっくりとすることが出来たのは久し振りだったね」 「はい。幸せな気分を味わえました。それが、とても嬉しかったです。明日からはまた、お互いにバタバタとする日が続きますからね」 「そうだね。なるべくバタバタしないように頑張らなければならないね」 「はい」 香穂子はにっこりと笑うと、吉羅の髪を何度も撫で付ける。 とても華やいで幸せな気分になれた。 こうしていつもふたりでのんびりとした時間を過ごせたら良いのにと、思わずにはいられなかった。 香穂子は、吉羅がたっぷりと休息が出来るようにと、ただ静かに寄り添ってじっとしている。 それが幸せだ。 「…香穂子、じっとこうしていたら、疲れるんじゃないかね?」 「大丈夫です。こうしてふたりでのんびりとした時間を送れるのはとても貴重ですからね」 香穂子が髪を何度も撫で付けると、吉羅は本当に幸せそうな笑みを浮かべた。 「折角の大型連休なのに、何処にも連れていってあげることが出来なくて済まない」 「何処に行っても凄いひとですよ。だから、こうしてのんびりとしていたいんです。暁彦さんとふたりきりの時間はかなり貴重ですし、それに一番幸せな時間だと思っていますよ」 「有り難う、香穂子。私も君とこうしたのんびりとした時間が過ごせて良かったと思っている」 吉羅にそう言って貰えるのが嬉しい。 香穂子は笑みを零すと、吉羅の手をそっと握り締めた。 吉羅はやがて眠りに落ちて、香穂子はその様子をじっと見つめる。 とても幸せなのに切ないのは、やはり休みが今日で終わってしまうからだ。 また一から戻ってゴールデンウィークが始まれば良いのにと思わずにはいられなかった。 吉羅とずっと一緒にいたい。 だが、多忙なふたりにはそれはなかなか難しい。 香穂子がヴァイオリニストとしての活動を本格的に行い始めてから、ふたりで過ごせて時間は少なくなっている。 それが苦しかった。 また、抱き合って愛を確かめ合うだけの時間が始まるのだ。 本当は沢山話をしたいのに。 それは無理な相談のようだ。 それが苦しかった。 香穂子は、吉羅の寝顔をじっと見つめながら、幸せな気分を味わう。 こうしてふたりでずっと一緒にいられたら、それ以上の幸せはないのにと、香穂子は思った。 吉羅がゆっくりと目を開けると、香穂子の瞳も開いた。 その表情がとても美しくて、吉羅は魅入られたかのように見つめてしまう。ここまで美しい女性はいないのではないかと思った。 「…暁彦さん…、起きましたか?」 香穂子の優しい声に、吉羅は笑みを浮かべてしまう。 「お陰様で質の良い眠りが得られたよ。有り難う」 吉羅の言葉に、香穂子の笑みが返事となって戻ってくる。 それが本当に嬉しかった。 「暁彦さん、食事を作りますね」 香穂子がやんわりと言うのを聞きながら、吉羅はゆっくりと躰を起こした。 「解った」 吉羅が起きると、香穂子は立ち上がろうとする。 だが、長時間、吉羅の膝枕をしていたせいで、脚が相当痺れてしまったようで、なかなか立てないようだった。 「大丈夫かね!?」 「…大丈夫だと思います…」 大丈夫だとは言い難いのに、香穂子は笑顔で言う。 吉羅にはそれが可愛いと思うのと同時に、切なくなる。 「脚をマッサージしようか?」 「有り難うございます。だけど大丈夫です。マッサージして貰ったら、その…」 香穂子が恥ずかしそうに俯くのを見つめながら、吉羅もまたフッと笑うと。 意味がよく解ったからだ。 夕食どころではなくなるだろうからだ。 「…随分とマシです。有り難うございます。夕食を作りますね」 香穂子は何とか立ち上がると、キッチンへと向かう。 余り水仕事はさせたくはないのだが、香穂子のたっての願いであるからしかたがない。 「香穂子、やはり外で食事をしたほうが良かったのではないかね」 「大丈夫ですよ。私は、暁彦さんに食事を作りたかったんです。たまにはこうして恋人らしいことをしたいんです。…それに、今日はゴールデンウィークの最終日ですから、どうしても食事を作りたかったんです。ふたりきりののんびりした日は、やっぱりきちんと家でご飯が食べたいんですよ。ふたりで顔を合わせてご飯を食べるのが、とても幸せなんです」 香穂子の言葉に、吉羅も頷く。 確かに香穂子の言う通り、ゴールデンウィークの最終日は、ふたりで思い切りのんびりと過ごしたかったから。 「有り難う、香穂子」 吉羅が礼を言うと、香穂子は笑顔で頷いた。 今夜のメニューは香穂子の得意料理だ。 アスパラやブロッコリーなどを使ったサラダと、クリームシチューだ。 吉羅がシンプルで良いと言ったからだ。 香穂子が心を込めて作ってくれる食事が何よりものご馳走だったから。 料理をする香穂子の姿を見つめながら、吉羅はずっとこうしていられたら良いのにと思う。 休日の最後はこうして手作りの料理でゆったりとする。 それだけで幸せだ。 また逢えない日々が続くことを気にしなくても良いのだから。 今は、次はいつ逢えるだろうかと、そればかりを考えてしまう。 今回は明日の朝まで一緒にいられるが、それが終わると、また逢えなくなる。 香穂子を思って、長い夜を仕事をして過ごすのだから。 それはそれで辛い。 香穂子は、シチューを煮込んでいる間に手早くサラダを作り、テーブルのセッティングをする。 その様子を見ながら、随分と手際がよくなったと思った。 パンを盛り付け、サラダを置く。サラダには鯛のカルパッチョが添えられている。 ずっと香穂子をそばに置きたい。 もう返したくなんてないと吉羅は思った。 ずっとふたりでいたい。 それ以外に望みはない。 吉羅は香穂子の背後に立つと、その華奢な躰を包み込むように抱き締めてきた。 「…あっ…。暁彦さん…」 甘い声が滲んで、吉羅は益々愛しいと思ってしまう。 「…香穂子…。君を家には返したくない…」 吉羅は静かに言うと、香穂子を更に強く抱き締めた。 「…ここで一緒に暮らさないか…?」 「…え…?」 香穂子は驚いたように息を飲むと、直ぐに吉羅の手を握り締めてくる。 「香穂子…」 もう一度名前を呼ぶと、香穂子は吉羅の手を更に強く握り締めた。 「…暁彦さん…。私も一緒に暮らしたいです…」 「じゃあ、ふたりでここで暮らそう。君とは…、結婚を前提に暮らしたいと思っている…」 「…暁彦さん…。もう、逢えないから切ないと感じなくても良いんですね…」 「…ああ…」 香穂子を抱き締めながら、こころが重なるのを感じる。 これからはもう離れない。 そう互いに誓えたゴールデンウィークは、ふたりにとって素晴らしき休暇となった。 もう離れなくて良い。 それがふたりを最高に幸せな気分にさせてくれた。 |