*ハロウィンパーティ*


 ハロウィンパーティなんて、自分には似合わないことぐらいは、吉羅にも分かってはいる。

 だが、愛する香穂子に誘われた以上は行くしかない。

 ハロウィンパーティというのは、仮装をしなければならず、吉羅はなんて厄介なのだろうと思った。

 香穂子に言われなければ、絶対にしなかったと思う。

 幼い頃は仮装もしたが、今は良い大人なのだ。

 香穂子に言われたからこそ、行く気になったに過ぎないのだ。

「ハロウィンパーティの仮装なんて頭がいたいね」

 吉羅は溜め息を吐きながら言った。

「魔女か黒猫、吸血鬼あたりの暁彦さんが見たいです」

 香穂子の言葉を聞きながら、吉羅は、ついつい香穂子がその扮装をしている姿を思い浮かべてしまう。

 妄想と言っても良いぐらいだ。

 どの姿をしても、香穂子は蕩けるぐらいに可愛いだろう。

 想像するだけで、小松はその甘さにくらくらしそうになった。

 こんな想像をするなんて、自分は相当香穂子のことが好きなのだろうかと、思わずにはいられない。

「暁彦さん……?」

 妄想に浸っている吉羅を心配したのか、用意していた香穂子が声をかけてきた。

 吉羅は咳払いをして誤魔化すことしか出来なかった。

「……香穂子、君がその格好をしたら、可愛いとは思うけれど、私は全くかわいくない。こればかりは保証するね」

 吉羅は苦笑いを浮かべながら呟いた。

「そんなことありませんよ。暁彦さんの方が、可愛いに決まっています」

「大人の男に、可愛い、は、ない」

 吉羅は苦笑しながら、香穂子は本当に可愛いことを分かっていないと思った。

「大人の男性だからこそ、可愛いと思うんですよ」

「それもどうかと思うよ、香穂子」

 吉羅は苦々しい笑みを浮かべて、困ったと考える。

 すると、香穂子は小首を傾げて、ただ吉羅を見つめた。

「君はしょうがないね……」

 本当にしょうがないぐらいに可愛いと、吉羅は思わずにはいられない。

「私は君が提案するもの以外を考えるよ」

 吉羅は静かに呟くと、香穂子を見つめた。

「もったいないです!」

 香穂子は至極残念そうに言い、吉羅を見つめた。何処か拗ねているようにも見える。

 拗ねられても吉羅は困る。

「ハロウィンはあくまでお遊びだからね。そこまで考える必要はないだろう」

「お遊びだから、色々と考えるんですよ。それがまた楽しいんですよ。音楽でも、ジルベスターコンサートの時は、みんな楽しむでしょ?それと同じですよ」

 香穂子はしれっと言う。

「では君はどのような格好をするのかね?」

「魔女にでもなろうかと思います。魔女ってなんだか、楽しそうですよね」

 香穂子は魔女の扮装をするのが、とても気に入っているようだった。

 それがとても可愛い。

「暁彦さんはドラキュラかファントムが良いかもしれませんね」

 ドラキュラとファントム。

 確かにどちらも悪くはないかもしれない。

 ならば、香穂子もクラシカルな令嬢の姿をして欲しい。

 ドラキュラ伯爵に魅入られた令嬢や、クリスティーヌのように。

 吉羅はまた妄想してしまい、思わず顔をにやけさせてしまった。

 いけないのは、分かっている。

 そもそも顔をにやけさせるということが、今までなかったのだ。

 そんなことをする男を小バカにしているのは確かだった。

 だが、今は違う。

 そんなことをしたい自分がいる。

 これも香穂子が変えたのだ。

「暁彦さん……?」

 一人で色々と考えているところに、香穂子に声を掛けられてしまった。

「何でもないよ。とにかく、ハロウィンパーティに、私が出席する条件としては、私が君の分も含めて衣装を用意することだ。分かったね?」

 吉羅は揺るぎないようにキッパリと言い放った。

 これには香穂子も同意するしかないようで、渋々頷いてくれた。

 強請するつもりはないのだが、香穂子の美しい姿が見たいあまりに、つい強引さを出してしまった。

 これで、香穂子の可愛い姿が見られる。

 それだけで吉羅は、楽しみで、楽しみでしょうがなかった。

 

 ハロウィンパーティの日、吉羅は香穂子を迎えにいった。

 令嬢のコスチュームをするための、メイクとスタイリストのいるスタジオに向かうためだ。

 これには香穂子も驚いたようだった。

 吉羅も一緒にファントムの扮装をするのだ。

 そしてそのまま、香穂子を自宅に連れ帰る。

 吉羅は、こんなにも素敵なプランはないと、自分では思っていた。

 香穂子をスタイリストのアトリエで美しくして貰っている間、吉羅はファントムの扮装をする。

 自分はどうでも良い。

 香穂子が早くみたい。

 吉羅はファントムの扮装のままで香穂子を待つ。

 楽しみすぎて、堪らなくなる。

「吉羅さま、お待たせ致しました」

 スタイリストの声が聞こえて、吉羅は逸る気持ちを何とか抑えた。

「……暁彦さん……」

 現れた香穂子は完璧だ。

 白いドレスが本当によく似合っている。

 この場で、マントに隠して連れ去りたくなる。それぐらいに香穂子は完璧だった。

 じっと見つめてしまう。

 香穂子ははにかんで恥ずかしそうにしている。その姿がまた色っぽかった。

 香穂子もまた、吉羅をうっとりと情熱的な眼差しで見つめている。

「……暁彦さん、ステキです……」

 香穂子にそんな色気のある眼差しで見つめられると、ハロウィンパーティなんかには行かずに、このまま自宅に連れ去りたくなる。

 だが、そこは付き合いもあるため、何とか気持ちを抑えた。

「香穂子、行こうか」

「はい」

 香穂子をエスコートしながら、吉羅は片時も離れないようにしなければならないと、強く思った。

 

 ハロウィンパーティの間、吉羅は香穂子から片時も離れず、エスコートをし、そしてマントに香穂子を隠すようにした。

 それでも、不躾な男たちの視線は止まらなかった。

 これには吉羅も困惑していた。

 パーティで義務を果たすと、吉羅は早々にパーティ会場を出た。

 こうしなければ、もう堪えられなかった。

 吉羅は、ささやかなハロウィンパーティを用意した自宅へと、香穂子を連れていった。

「わあ、カボチャランタンですよ!」

 吉羅手作りのカボチャランタンを見るなり、香穂子は嬉しそうに声を上げた。

「私が作った」

「有り難うございます。だけど、このカボチャランタン、目も鼻も口も、四角ですね」

 香穂子がやんわりと指摘すると、吉羅はわざと睨み付ける。

「仮面姿で睨まれたら怖いですよ。だけどステキです」

 香穂子はクスクスと笑いながら呟く。

「仮面がないほうは……?」

 吉羅は艶やかに囁きながら、仮面を取って、顔を近づけてゆく。

「そちらのほうが、ステキです……」

 「香穂子、trick or treat

「……treat……」

 恥ずかしがる香穂子に微笑みながら、吉羅はゆっくりと唇を重ねる。

 キスはハロウィンに相応しく甘いカボチャの味がする。

 吉羅はファントムよろしく、香穂子を抱き上げると、そのまま寝室へと連れていく。

 甘くて激しいハロウィンに相応しい夜になった。



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