バレンタインには、甘い甘いチョコレートを大好きなひとに。 愛するひとに、「愛している」を伝えられる日だから。 香穂子はキッチンで、手作りチョコレートと格闘している。 甘いチョコレートの香りに誘われて、暁慈がやってきた。 「ママー、何ちゅくっているの?」 「チョコレートだよ。あきちゃんにもあげるからね」「あいーっ!」 チョコレートをプレゼントされると聞いて、暁慈は大喜びだ。 甘いチョコレートは、暁慈のお気に入りのひとつだからだ。 「ママ、たのちちょうだから、あきちゃんもチョコレート作りてちゅだう」 舌足らずに話しながら、暁慈はせがむように香穂子を見る。 最近、お手伝いをして料理をする楽しさを覚えたばかりで、小さなことではあるが手伝ってくれている。 吉羅とお揃いのカフェエプロンもお気に入りだ。 「ママ、エプロンしゅる」 「はい」 香穂子は暁慈のカフェエプロンを出してくると、小さな腰に巻いてやる。 これで暁慈はお手伝いをした気分になるのだ。 「チョコレート、まぜう」 「じゃあ汚さないように、ゆっくりと混ぜてね」 「あいーっ」 暁慈は、チョコレートを一生懸命混ぜながら、楽しそうに鼻歌を歌う。 最近はこうして音楽にもかなり親しみを持つようになった。 「今日はねチョコレートケーキを作るんだよ。チョコはその上からかけるんだよ。後ね、余った生地で焼いたスポンジを使って、簡単トリュフチョコを作ろうね。これにはあきちゃんにいっぱいお手伝いをして貰うからね」 「あいっ!」 暁慈は、張り切るように返事をすると、チョコレートを一生懸命混ぜてくれた。 「そろそろスポンジが冷めたかな」 香穂子はスポンジの様子を見に行く。 吉羅のハート型ケーキは、洋酒で漬けたドライフルーツを混ぜ込んで焼いた大人の味だ。これに対して暁慈のものは、キャラメル味に味付けをしたナッツを入れている。 吉羅のものが若干ではあるが大きいので、どちらかは区別はつく。 余った生地で作ったスポンジも綺麗に焼けたようだ。 香穂子は、先ずは余ったスポンジを綺麗にハートの型抜きで抜いていく。おやつ用だ。 「あきちゃんもー」 「じゃあ、お願いしようかな? 今日のものだよ」 「あいーっ」 暁慈は真剣な表情で、ハートの型抜きをしていく。 こうしていると、本当に吉羅によく似ていると、改めて思わずにはいられなかった。 暁慈が型抜きに夢中になっている間に、香穂子はチョコレートをハート型ケーキにコーティングする。 慎重に丁寧にコーティングをした後、横にいる暁慈を見ると、まるで小さな頑固職人のように一生懸命に型抜きをしてくれていた。 その姿が抱き締めたくなるぐらいに可愛かった。 「本当に可愛い…」 香穂子はつい息子を見て、幸せな気分になった。 「ママ、でけたっ!」 暁慈は達成感から瞳をキラキラと輝かせながら、香穂子を見た。 親バカかもしれないが、とても綺麗に型抜きがされていた。 「有り難う、あきちゃん。とても綺麗に出来ているよ」 香穂子は息子を思わずきゅっと抱き締めた。 「じゃあね、これを、とろとろのチョコレートの中に入れてくれる」 「あい」 今度は、泥遊びの感覚なのか、コーティングチョコレートを、本当に楽しそうに投げ入れる。 「これでハートが崩れないように、ゆっくりと混ぜていこうね」 「あいっ!」 暁慈は今度は慎重に、混ぜてコーティングをする。 チョコレートでコーティングされて綺麗にお化粧したものを、バッドに上げる。 今度はそこに可愛いトッピングをするのだ。 ナッツ、スプレーチョコレート、アラザン、ドライフルーツを砕いたもの…。 沢山用意をして、香穂子は息子と一緒にトッピングを楽しんだ。 「後は冷やして固まったら、今日のおやつにしようね」 「あいー!」 躰に良いものを選んでいるから、子供にも喜んで貰えるだろう。 「…ママー! ちれいっ!」 「そうだね、後で食べるのが、とっても楽しみだね」 「あいっ!」 チョコレートケーキも、おまけで作ったハート型のトリュフも、満足出来る出来栄えになったと思う。 恐怖の後片付けも待ってはいるが、それでも、香穂子にとっては楽しいことだった。 何よりも暁慈と一緒に出来たことが嬉しかった。 香穂子は、チョコレートケーキとトリュフを冷蔵庫に入れてしっかりと固めていく。 出来上がりが楽しみだった。 「おやちゅー!」 今日のおやつタイムは、暁慈はかなりテンションが高かった。 自分で作ったものだからこその喜びなのだろう。作る楽しさを得るというのは、とても良いことだ。 温かいミルクを淹れて、香穂子は食べやすいようにお気に入りの熊のフォークを出してやる。 「あきちゃん、召し上がれ」 「あいっ」 今日はかなり嬉しいらしく、暁慈は口の周りをチョコレートで汚しながら、何度も「美味ちい」と連発していた。 チョコレートで口の周りをベタベタにしながらも笑顔でいる息子は、なんて可愛いのだろうかと、香穂子は目を細めた。 「ママー、しゃっきのチョコケーキくらさいっ!」 「あれは明日のお楽しみなんだよ。あきちゃん、明日、綺麗にしてあげるからね。楽しみにしていてね」 「しょっか…」 待てないとばかりにほんの少しだけシュンとしているのが、香穂子には可愛くてしょうがなかった。 翌日、吉羅も休みで、香穂子は愛する男性たちにバレンタインチョコレートを手渡す。 「はい、あきちゃん。バレンタインのチョコレートケーキだよ。いっぱい手伝ってくれたんだもんね」 香穂子がラッピングをしてプレゼントをすると、暁慈は本当に嬉しそうに飛び上がって喜んだ。 その様子を吉羅がソファに寛ぎながら見ている。 優しいまなざしの中で、ほんのりと拗ねているようにも見える。 「暁彦さん、ハッピーバレンタイン」 香穂子は、吉羅のイメージにあったシックなラッピングをしたパッケージを手渡す。 「有り難う」 吉羅はフッと微笑んだ後、急に香穂子を抱き寄せてきた。 「…君は私より息子に先に渡すのかね…?」 わざと嫉妬して拗ねているように甘い声で言う。 こんな声で囁かれると、香穂子は心臓が飛び出してしまうのではないかと思うぐらいに、ドキドキしてしまう。 「あ、あの…」 耳まで真っ赤にしておたおたとしていると、吉羅がからかうように笑ってくる。 「後でおしおきだよ」 「…もう…」 甘いおしおきなのは解っているから、つい照れてしまう。 「とーしゃんのをたくしゃんてちゅだったんだよ」 「有り難う、暁慈」 吉羅が礼を言うと、暁慈は本当に嬉しそうに笑った。 「ホワイトデイはお母さんにプレゼントをしなければならないね」 「あいーっ! あきちゃんてちゅだうよ」 暁慈の言葉に、香穂子はつい微笑んでしまう。 愛するふたりにプレゼントをして貰えるなんて、こんなにも嬉しいことはない。 香穂子は嬉しくて泣きそうになる。 一月後のホワイトデイ。 最高の一日になるに違いない。 香穂子はときめきを覚えながら、こんなにも楽しみなことはないと思った。 暁慈を寝かせた後、吉羅とふたりきりになる。 「香穂子…、“おしおき”をしなければならないね…」 「…あ…」 吉羅は香穂子を抱き寄せると、額をつける。 「たっぷりさせて貰うよ…。お仕置を」 吉羅は艶やかな声で呟くと、そのまま唇を重ねてくる。 甘いチョコレートのように濃厚なお仕置が開始されたのは言うまでもなかった。 |