吉羅家のお正月は大忙しだ。 三が日の最後には、大黒柱である吉羅の誕生日があるため、香穂子も大忙しなのだ。 「ママ、ちょっと良い?」 暁慈に手招きで呼ばれて、香穂子は息子に近づき、目線を合わせる。 「どうしたの?」 「あのね、もーしゅぐ、とーしゃんのお誕生日でしょ、あきちゃん、お年玉もらったり、誕生日に、とーしゃんにいぱーいしてもらっているから、あきちゃん、何かちたい」 暁慈は真剣な眼差しで、香穂子をまっすぐ見つめている。 香穂子は、息子の想いを嬉しく思いながら、にっこりと微笑んだ。 「判ったよ。ママがあきちゃんのお手伝いをしようね」 「とーしゃん、何をしたら喜んでもらえう?」 暁慈がしてくれること何もかも吉羅は嬉しく思うだろう。それは容易く想像することができる。 香穂子は、優しい気分で、息子を見つめる。 「お父さんは、あきちゃんがプレゼントしてくれるものだったら、何でも喜んでくれると思うな。お父さんのお手伝いをすることも良いだろうし、お父さんに何か作ってあげるもの良いだろうし、あきちゃんが出来る範囲のことをしれば良いんだよ? あきちゃんのお父さんへの想いがいっぱい詰まっていたら、それだけでお父さんは喜んでくれるよ。これは絶対だよ」 「あい」 香穂子が何を言っているかは、半分ぐらいしか理解出来ないだろう。 「とーしゃんにおめでとうのぷれぜんとしたい。お年玉、いっぱい、もらったから、お年玉で、何か買う」 暁慈は大切にしているファータの貯金箱を母親に差し出そうとする。 香穂子は首を振ってそれを受け取らない。 「あきちゃん、それは大切なものだから、お父さんは使っても、嬉しいとは思わないよ。だから、一緒に何が出来るか考えるようよ。あ、ケーキを一緒に作るのとか良いね。後はね、ヴァイオリン、ちょっと練習してみようか?」 「ばいおりん」 最近、暁慈は、香穂子からヴァイオリンを習い始めている。 最初は訳のわからない歌を歌ってあわせていたが、そのうちヴァイオリンに興味を持つようになり、少しずつではあるが、母親からレッスンを受けている。 「じゃあ、いっぱ練習しゅる」 「うん。いっぱい練習しようか。あきちゃん」 「あい」 暁慈のヴァイオリンデビューは、吉羅のバースディパーティなんて素敵だと、香穂子が思わずにはいられなかった。 吉羅のために、暁慈はいつもよりもかなり真剣にヴァイオリンを練習する。 「あきちゃん、そうだよ。ちょっと音がずれているね。ポジションが間違っているのかな? ここはCだよ」 香穂子は丁寧に息子ヴァイオリンを教えながら、少しずつ息子の成長を感じる。 ヴァイオリンだけではなく、最近、本当にしっかりしてきたと思う。 「そうだよ、あきちゃん、その調子、上手だね」 香穂子は息子の成長に目を細めながら、レッスンをする。 暁慈は素直な気質のせいか、生徒としては最高だと香穂子は思った。 「こんなに弾けるなんて、すごいよ、あきちゃん。これだったら、お父さんも喜ぶよ」 「あいっ!」 父親が喜んでくれる。 暁慈にはそれが嬉しいらしく、満面の笑顔になる。 その笑顔が輝いていてかわいくて、香穂子は思わずギュッと抱きしめてしまった。 本当にこんなにかわいく素直に育ってくれてありがとうと、香穂子は思わずにはいられなかった。 吉羅の誕生日、三が日中でもあり、香穂子は少しだけのんびりすることにした。 吉羅には、3日に変わった瞬間、「誕生日おめでとう」と言い、ネクタイピンを贈った。 吉羅は喜んでくれ、香穂子に「ありがとう」とささやいてくれた後、甘くて熱い時間をくれた。 香穂子は幸せで、いつもよりもその余韻に浸っていたくて、吉羅に寄り添っていた。 「暁彦さん、幸せです。今日は私にとっては大切な日です。あなたとこうして一緒にいるだけで、本当に幸せです。あなたが生まれた大切な日ですから、今日は」 「有難う。私はとても幸せだよ」 「私もです・」 こうしてふたりでじっとしているだけで、本当に幸せだった。 「ママー、とーしゃん〜!!」 不意に暁慈の声が部屋に響き、香穂子は驚いて躰を起こす。 「ママー、パーティー準備〜」 その声を聞いて、吉羅も香穂子も顔を見合わせて微笑む。 大好きな父親のために準備がしたくてうずうずしているのだろう。 「あきちゃん、待ってね、ママ、すぐに行くから」 香穂子は素早く着替えを済ませると、すぐに廊下に出た。 「ママ、ケーキちゅくる」 パジャマ姿のままで、愛用のカフェエプロンを手にして、暁慈は得意そうに言う。 「判っているよ。だけど、先に、朝ごはんの準備をしなくちゃね。あきちゃんも着替えようか」 「あいっ!」 暁慈は素直にうなずくと、香穂子と一緒に朝の支度にいった。 いよいよ、ケーキ作りだ。 暁慈は暁慈なりに、生地つくりから一生懸命手伝ってくれる。 粉を振るったり、飾り付けをしたりと、大忙しだ。 吉羅は、「三が日だからゆっくりすれば良い」と言ってくれたが、スペシャルな日だから、香穂子も暁慈も一生懸命準備がしたいのが本音だった。 親子で揃って料理が出来るのも、暁慈が小さい間だけだろうからと、香穂子はこの瞬間を大切に思っていた。 ケーキ、料理の準備が終わり、いよいよ親子水入らずのバースディパーティが始まる。 「あきちゃんのおかげで助かったよ。ありがとうね」 香穂子の言葉に、暁慈は得意そうに笑う。 父親の誕生日だからと、少しだけおめかしをして、暁慈は誕生日パーティに望んだ。 和気藹々とした食事の後、暁慈はヴァイオリンの準備をしにいく。 香穂子は、テーブルにケーキを準備した。 吉羅にとっては最高の誕生日になってくれると、香穂子は願いながら、吉羅に微笑みかけた。 「あきちゃんからのバースディプレゼントです、このケーキとそして、ヴァイオリンの演奏です」 吉羅は少し驚いたようだった。 まだそこまで暁慈がヴァイオリンを弾けないと思っているようだ。 暁慈は少しかしこまってやってくると、小さな子供用のヴァイオリンを構える。 吉羅はその姿をじっと見つめた。 暁慈はたどたどしくはあったが、一生懸命、「HAPPY BIRTHDAY」を奏でる。 吉羅は何度も頷きながら、息子の演奏を真剣になって聴いていた。 ヴァイオリン演奏が終わると、暁慈は「とーしゃん、お誕生日おめでとう!」と元気良く言う。 、吉羅は瞳に涙をためて息子を見つめると、そのままギュッと抱きしめた。 「有難う…・暁慈…」 二人が抱きあう姿を見つめながら、香穂子は嬉し泣きをしてしまう。 「香穂子、暁慈、最高の誕生日になったよ・・・、有難う」 吉羅はふたりにしっかりと礼を言うと、香穂子も含めて家族を抱きしめる。 こんなに幸せな誕生日は経験したことがない。 そう心に思いながら。 |