*暖かなホワイトディ*


 明日はホワイトデイということで、吉羅家のキッチンでは、今度はお返しのクッキー作りで大騒ぎになっている。

 暁慈と暁愛、そして暁美がクッキーを作りに精を出している。

 香穂子も手伝い、あさひがラッピングをするという、家族皆でお返し作りにかかっている。

 暁慈は一番下の暁愛の面倒を見ながら、クッキーを作る。

「暁愛、そうやって型を抜くんだ」

「あいっ!」

 暁愛は楽しそうに型抜きをしながらニコニコしている。

 チョコレート、バター、ダージリン、抹茶、ドライフルーツ、ナッツのクッキー生地を、香穂子と暁慈で作り、型抜きが暁美、トッピングが暁愛の、家族で作っている。

 小さなマドレーヌも焼いて、お返しセットはかなり充実している。

 ラッピングとサンキューカードのデザインは、あさひがした。

 そして男兄弟たちは、こっそりとケーキも準備している。

 仕事でクッキー作りが出来ない父親がスポンサーになって、家族の女子のために美味しいパウンドケーキを作るのだ。

 クッキー作りのどさくさに紛れて、ケーキ作りも行なう。

「やっぱり暁慈が一番器用なのかな。生地作りは完璧だよ」

 香穂子がニコニコ笑いながら褒めてくれるのが、暁慈には嬉しかった。

「暁愛、貰ったものはちゃんと返すのよ。ヴァイオリン教室の仲間にちゃんとお礼を言ってね」

 香穂子が息子に声を掛けると。素直に頷いてくれる。

「うん。壊れないようにちゃんと持っていくよ。皆が、喜んでくれたら良いや」

「喜んでくれるよ。大丈夫」

 こうして和気藹々と皆でクッキーを作るのも良いと思う。

 なかなかこのような機会はないから。

「母さんは大変じゃない? バレンタインとホワイトデイの二回も、大騒ぎをして作らなくちゃならないのは」

 本当に母親には頭が下がる。

 普段も子育てやヴァイオリニストとしての仕事でかなり忙しいというのに、こうして手伝ってくれるのだから。

「とっても楽しいわよ。皆で一緒におやつを作るのは。たまにだしね」

 母親は本当に嬉しそうにしてくれている。それが暁慈には嬉しかった。

「それに手作りのものって、頂くと心が籠っているからとても嬉しいんだもの。暁慈が小さい頃に、お父さんと一緒に手作りクッキーをくれた時、本当に嬉しかったもの」

 母親がしみじみと言ってくれるのが嬉しくて、つい笑顔になった。

 だったら、こっそりと作ることにしているパウンドケーキを、喜んでくれるだろうか。

 喜んでくれたら良いのにと思わずにはいられなかった。

「さてと、これで出来上がりだね」

 皆で頑張ったかいがあり、お返しのクッキー詰め合わせを作ることが出来た。

 今年は週末を挟むから、いつもよりも早目に渡さなければならないのだ。

 暁慈はホッとして、準備を終えた後、今度は本命である家族のための準備を始めた。

 

 ホワイトデイのお返しをする日、暁慈はかなりの荷物を持って学校に出掛けた。

 先ずは、妹ゆうひの幼稚園のお母様方に、ホワイトデイのお返しを律義にする。

 サンキューカードには、きちんと、“妹がお世話になっています。有り難うございます”と、書き添えておいた。

 学校でも、プレゼントの主が分かるものに関しては、きちんとお返しをした。

 ゆうひの幼稚園のお母様方も先生方も、そして学校の仲間たちにも、手作りクッキーは好評だった。

 お礼の気持ちを込めて作ったかいがあったと、心から思った。

 暁慈は家に戻ると、ホワイトデイの準備を始める。

 ばらばらと弟たちがやってきて、キッチンは、女子禁制の雰囲気が漂っていた。

 パウンドケーキを三人で作る。

 パウンドケーキにした理由は、やはり扱い易いというのが大きい。

 暁慈を中心として、奮闘する。

 途中、香穂子が心配そうに何度も見に来てくれたが、「大丈夫」と言っておいた。

 プレゼントをする相手でもあるし、何よりもお腹に子供のいる母親には負担をかけたくはなかった。

「パウンドケーキは、焼きたてより冷めたほうが美味しいから、明日が楽しみだ」

 オーブンにケーキを入れて、暁慈は弟たちと一緒に中を覗く。

「僕たちも食べられる?」

「大丈夫。ちゃんと、僕たちの分も焼いてあるから大丈夫だよ」

「良かった」

 暁美は安心したかのように笑顔になる。

 明日の夕食のデザートが楽しみだと、暁慈は思った。

 

 今年のホワイトデイは週末で、家族と一緒に過ごすことが出来る。

 いつも忙しい父親も家にいるので、皆で簡単パーティが出来るのも魅力的だった。

 いつも頑張っている母親のためというのが大きいだろうが、ランチは男子で作ることになった。

 イニシアティブを取るのは勿論、父親ではあるが、暁慈もその次によく働く。

 暁美は父親に着いて、出来ることを一生懸命やり、暁愛は暁慈のサポートをしてくれた。

 しかもランチタイムには、暁愛のヴァイオリン、暁慈のヴィオラ、暁美のピアノで簡単な演奏会をする予定だ。

 それもあり、かなり興奮状態で家族みんなで準備にかかる。

 今日のメニューは、簡単ローストビーフ、シーザーサラダ、鱈のグリエ、簡単なミネストローネ、デザートは昨日一生懸命焼いたパウンドケーキだ。

 たまに心配なのか、香穂子が様子を見て来てくれる。

「大丈夫だから母さん」

 暁慈が声を掛けると、香穂子は解っているとばかりに、頷いた。

「あきちゃんが手伝っているのを見ていると、暁慈が小さい時のことを思い出していたのよ。私が悪阻の時に、よく、こうして、お父さんと一緒にお料理をしてくれていたなあって」

 香穂子は本当に懐かしそうに言うと、穏やかに目を細めた。

「もう少しかかるから待っていて」

「解った」

 香穂子はちらりと父親を見ると、フッと甘い微笑みを浮かべる。

 本当に仲の良い夫婦だと、暁慈はしみじみ思ってしまう。

「じゃあ楽しみにしているね」

「また」

 母親がキッチンから出ると、暁慈はまた料理作りに精を出した。

 父親を見ていると、やはり器用だからか作業が手早い。

 そつなくなんでもこなすというのが、まさにピッタリだ。

 暁慈はそんな父親にかなり強い憧れを抱いている。

 あのような男になりたいと、将来の目標であり、また尊敬をするひとだ。

 少しでも近付けたらと、思わずにはいられなかった。

 

 ようやくランチタイム。

 料理も上手くいったし、ケーキも美味しそうだ。

 料理を運んで行くと、女性家族はみんな歓声を上げた。

 皆が嬉しそうにするのは嬉しいが、特に母親が嬉しそうにするのが、暁慈には嬉しかった。

 父親も、母親の笑顔を見るだけで、いつものポーカーフェースを崩して微笑んでいる。

 皆が笑顔でいてくれるのが嬉しかった。

 食事が始まり、暁慈も本当に美味しいと思いながら食べる。

「暁彦さんと、あきちゃんたちのご飯は本当に美味しいわ」

 母親の褒め言葉が何よりも嬉しい。

「有り難う」

「お父さんとお兄ちゃんと、あきちゃんずの料理は最高だね」

 あさひもご機嫌だ。

「やっぱり皆のご飯は美味しいね。ママのお腹の赤ちゃんも、美味しいって言ってるよ、ね?」

「そうだね」

 香穂子とゆうひは頷きあっている。

 本当に家族は良い。

 

 食事の後、デザートを出した後、暁慈、暁愛、そして暁美で演奏をする。

 春に相応しい、ジムノペディを演奏していると、香穂子が感激して泣き出してしまう。

 演奏が終わった後、兄弟は母親が心配になってみんなでで駆け寄った。

「母さん、大丈夫!?」

「皆、有り難う。本当に嬉しいホワイトデイ」

 母親が涙を拭っていると、見慣れない美しいダイヤモンドの指環が光った。

「ママ、指環新しくしたの?」

 暁愛が訊くと、香穂子はにっこりと微笑む。

「暁彦さんからのホワイトデイのプレゼントなの」

 香穂子の言葉に、あさひは強く頷く。

「やっぱり。結局、みんなの本命はママってことなのね」

 あさひの言葉に、暁慈たちが納得したのは言うまでもなかった。



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