*ゆきうさぎ*


 横浜で珍しく雪が積もった。

 暁慈は朝から大騒ぎだ。

 吉羅と香穂子はと言えば、余りにもの寒さに、お互いにいつもよりもしっかりと躰の熱を与え合っている。

「…今日はとても寒いからね。君は最高の湯たんぽだね」

 吉羅は香穂子をしっかりと抱き締めながら、楽しそうに笑っている。

「本当にこうしているといつまでもベッドから出たくないですね」

 香穂子もまた幸せな気分で、吉羅に躰を寄せている。

 本当に温かい。

 これぞ幸せな温もりなのだと思う。

「…本当にこうしていると幸せだと感じるよ」

「そうですね」

 香穂子は目を閉じて幸せに浸る。

 後少し。

 本当にもう少しでいいから吉羅と一緒にいたかった。

 しかし、そうさせてくれないのが、雪の朝の宿命だ。

 吉羅家の雪の朝には、豆台風がやってくるのだ。

 ちょこまかバタバタと賑やかな足音が聞こえてきて、吉羅も香穂子も思わず顔を見合わせて微笑みあった。

「とーしゃん! ママーっ! 雪だよーっ! ちゅもってるよ! ちゅもってるよ!」

「雪の王様のお出ましだ」

「そうですね」

 吉羅と香穂子はベッドから出ると、寝室の鍵を開ける。

「とーしゃん! ママーっ!」

 ようやく着られるようになったお気に入りのガウンを羽織って、暁慈は賑やかに頑張ってやってきた。

 ドンドンとお馴染みのノックをした後で、暁慈は寝室に入ってきた。

「今日は寒いね、あきちゃん」

「しゃむいね」

 香穂子が頬を覆うと、暁慈はきゃっきゃっと笑っている。

 暁慈の頬はとても温かくて、香穂子は思わずにんまりと笑ってしまった。

「暖かいね、あきちゃん」

「ママー、おしょとに行きたい」

「ちゃんと着替えてからじゃないとダメだよ。朝ご飯を食べてから、雪遊びをしよう」

「あい」

 暁慈はもう待ちきられないとばかりに、躰をスウィングさせている、それがまた可愛い。

「暁慈、“おはよう”の挨拶がまだだが?」

 父親に冷徹に言われて、暁慈はハッとしてかしこまる。

「…おはよう、とーしゃん」

「おはよう、暁慈」

 吉羅が挨拶をすると、暁慈はホッとしたように笑った。

「私たちも着替えるから、暁慈も着替えなさい。まだ早いからね、お母さんが温かい朝ご飯を作ってくれるまで、ここにいても構わないよ」

「とーしゃんといる」

「…そうか…」

 暁慈はベッドに攀登って、布団の中に入る。

「あったかーい」

 暁慈が吉羅と一緒にいるのを微笑ましく思いながら、香穂子は朝食の支度をすることにした。

 

 手早く身支度を整える。

 今日はたまたま仕事が入っていなくて、助かった。

 香穂子は、今日は冷えるからと、ストックのホワイトソースを使った温かな野菜たっぷりのスープを用意した。

 もちろん温かなパンも用意をした。

 スクランブルエッグなどを作り、温かな朝食を完成させた。

 

「とーしゃん、あきちゃん、今日は雪あしょびをしゅるから、早く、服、着る」

「解った」

 待ちきられない暁慈の着替えを、吉羅がすることになった。

 暁慈が温かいままでいられるように、雪遊びに適した防寒要素の高い服装に着替えさせた。

 本当に寒いのだろう。

 吉羅自身も寒さを感じながら息子を着替えさせる。

 吉羅自身も、その後に、手早く支度をした。

 

 一足早く支度を終えた後、吉羅は暁慈を連れて、ダイニングに向かった。

 ダイニングは床暖房がついていて、かなり温かい。

「あったかーい」

 既に温かい部屋に、温かい食事。

 本当にほっこりとする。

 香穂子は、既に温かな食事をテーブルに並べてくれていた。

「暁彦さんもあきちゃんも食べましょうか」

「そうだね」

 三人で食卓を囲んで食べる。

 暁慈はと言えば、更に窓の外を見ては、賑やかになっている。

「…窓のしょとはしゅごいね」

「あきちゃん、ちゃんとご飯を食べようね。雪遊びをするのには、しっかり食べて、温まらないとダメだからね」

「あいっ」

 暁慈は香穂子の言葉に納得したらしく、素直に食事を始めた。

「温かいね、ママー」

「そうだね。しっかりと温まろうね」

「あいっ!」

 吉羅は息子を見てはフッと笑うと、頭を撫でた。

「しゅーぷ、美味ちい、あったかーい」

「しっかりと温まってから、雪遊びをしようね」

「あいっ!」

 暁慈の素直な笑顔を見ていると、香穂子も吉羅もつい笑顔になってしまう。

 本当に幸せなひとときだった。

 

 大雪に見舞われたとはいえ、吉羅は仕事だ。

 息子の雪遊びには余り付き合ってはやれない。

 だが、息子ラヴの吉羅だからか、ギリギリまで付き合っていた。

「うわー! しゅごいっ!」

 暁慈はモコモコのブーツを履いて庭に出るなり、大きな歓声を上げた。

 横浜でこんなにも本格的に積もるのは珍しいから、はしゃいでいる。

「雪だるまを作るほどは積もってはいないね」

「雪ウサギぐらいなら作れるんじゃないでしょうか」

 香穂子もまた子供に戻った気分で、雪遊びに興じている。

「たのちー!」

「本当に」

 暫く、親子三人で雪遊びをしたが、吉羅は仕事にいかなければならないのだ。

 香穂子は、吉羅に、朝淹れたとっておきのお茶が入ったステンレスボトルを手渡した。

「暁彦さん、今日はかなり寒いですから、温まって下さいね」

「有り難う」

 香穂子が笑顔でボトルを手渡すと、吉羅はギュッと抱き締めてきてくれた。

「君を抱き締めたら、やっぱり温かいね」

「私も温かかったですよ」

 吉羅に頬を染めながら微笑むと、また笑顔で返してくれた。

「あきちゃんもー」

 暁慈は、両親が抱き合っているのを見てか、暁慈もまた抱っこを要求してくる。

 香穂子も吉羅もそれを見て、フッと笑う。

 吉羅は幸せそうに、息子を抱き上げた。

 きゃっきゃと楽しそうに声を上げる暁慈が、とても可愛かった。

「暁慈のほうが君より温かいね」

「それはそうですよ。子供は風の子、大人は火の子ですからね」

「確かにそうだね」

 吉羅は笑うと、暁慈を下ろした。

「では行ってくるよ」

「はい、行ってらっしゃい」

「いってらっちゃーい」

 香穂子と息子に見送られて、吉羅は仕事場へと向かった。

 ふたりになった暁慈と香穂子は、雪遊びの続きをする。

「ママー、雪うしゃぎしゃんのでっかいのーとちいちゃいのーを作ろう」

「雪ウサギを三つ作るのね?」

「あい! あ、もうちょっとちーちゃいのも」

「じゃあ一緒に作ろう。あ、ウサギさんのおめめには南天の実を飾ろうよ」

「お耳は葉っぱ!」

「そうだね」

 息子とこうして雪遊びをするのは、なんて楽しいのかと思う。

 こうして楽しい時間を重ねて行けたら良いと、思わずにはいられない。

「うーしゃぎ、うーしゃぎ」

 お月見の頃に覚えた歌を、暁慈は一生懸命に歌っている。それがとても可愛かった。

「これとーしゃんっ!」

 大きな塊に葉っぱと南天の実をつけて完成させる。

「ママー」

「あきちゃん!」

「赤ちゃんっ!」

 順番に作ってくれて、それがとても可愛くて嬉しくて、香穂子は泣きそうになった。

「これ、お父さんが帰ってきたら見せようね」

「あいっ!」

 暁慈のウサギがとけないように、香穂子は冷凍庫で保存することにした。

「ただいま」

「おかえりー」

 吉羅が帰ってきた途端に、暁慈は直ぐに駆けていく。

 雪ウサギを余程見せたいのだろう。

「とーしゃん、雪うしゃぎしゃんちゅくったよ。かじょくなの」

「そうか」

 吉羅を引っ張って、暁慈は、冷蔵庫前に連れていく。

「どじょっ!」

 暁慈が言うタイミングで、香穂子は冷凍庫のドアを開けた。

 現われた雪ウサギを見るなり、吉羅は息を呑む。

 可愛い吉羅一家だ。

 これには本当に吉羅は感動したらしく、暁慈を抱き締めた。

「有り難う…。よく出来ている」

 ギュッと息子を抱き締める姿を見て、香穂子も感動する。

 吉羅にとっては最高のプレゼントだった。



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