結婚の準備は、なんて大変なのだろうかと思う。 結婚式に一緒に暮らすための準備。 様々な準備でついバタバタとしてしまう。 吉羅はかなり協力的ではあるが、普段から忙しいひとであるから、なかなか手伝えない事情もある。 ここは香穂子が奮起をしなければならない部分ではある。 そのためにかなり忙しい日々を送っている。 だが、充実はしている。 ただし以前に比べると吉羅に逢える時間が限られてしまい、そのあたりは切ないところではある。 今日はウェディングドレスのフィッティングの日だ。 香穂子は、オーダーしたウェディングドレスをフィッティングし、最終調整をしていた。 「少しお待ち下さいね」 「はい」 スタッフが道具を取りに行っている間に、香穂子は携帯電話を手に取る。 吉羅からメールが来ていないか見るためだ。 我ながら本当に吉羅に夢中なのだと思う。 夢中過ぎて、どうして良いかが解らないぐらいだ。 不意に吉羅からの電話が鳴り響き、香穂子は慌てて携帯に出た。 「香穂子です」 「香穂子、今から逢えないかね?」 吉羅は最近、隙間時間を見つけてはこうして連絡をしてくる。 それが香穂子には嬉しいことであり、少し困ったことではあるのだが。 「今、ウェディングドレスのフィッティング中なので、後少ししたら出られますよ」 吉羅がこうして逢いたいと言ってくれるのが、香穂子はとても嬉しい。 つい微笑んでしまう。 結局は、お互い様のところはあるのだが。 「だったら私がそちらに行こう。近くにいるからね」 「ではお待ちしています」 「ああ」 吉羅に逢える。 それだけでにっこりと笑える。 幸せな気分になれる。 香穂子は、にっこりと笑いながら、携帯電話を閉じた。 結局はお互い様。 困ったことと言っても、嬉しい困ったことではあるのだが。 「花の付いたヴェールを持って来ましたよ」 ウェディングヴェールが完成したとのことで、それもフィッティングさせてくれた。 「有り難うございます。あの…婚約者がもうすぐ来ますから、少しこのままでいさせて貰っても良いですか?」 「どうぞ」 「有り難うございます」 スタッフは微笑ましいとばかりに優しい笑みをくれた。 香穂子が暫く待っていると、吉羅が姿を現した。 相変わらず、隙がないほどに素敵で、香穂子はついうっとりと見惚れてしまう。 「暁彦さん」 「香穂子、ご苦労様だね」 吉羅が眩しいとばかりに、香穂子を見つめてくれる。 それが嬉しい。吉羅に見つめられるだけで、幸せな気分を味わうことが出来た。 吉羅は暫く、言葉を発する事なく、香穂子をじっと見つめてくる。 それが照れくさいと同時に嬉しかった。 「…似合っているよ」 「有り難うございます」 誰よりも吉羅に似合っていると言われるのが、香穂子には嬉しかった。 このウェディングドレスは、吉羅の為だけに作るのだから。 香穂子は吉羅を見つめて、ただにっこりと笑った。 「暁彦さんに気に入って貰えて嬉しいです。大好きなひとに喜んで貰えるのが、一番嬉しいですから…」 「有り難う」 ふたりが見つめあっていると、スタッフが入ってきた。 「デジタルカメラで撮影しておきましょうか」 「お願いします。後、携帯電話でも」 香穂子が携帯電話を渡すと、吉羅もまた携帯電話を渡した。 嬉しい瞬間だ。 先ずは香穂子ひとりで撮影をし、その後は、吉羅も一緒に入る。 こうして写真を一緒に撮ると、本当に幸せだと思った。 写真を撮り終えた後、香穂子は着替えに向かう。 吉羅はその隙間に、仕事関連の電話をしているようだった。 香穂子が着替え終わると、吉羅が電話を終えてやってきた。 「香穂子、今から時間はあるかね? 食事に行かないか?」 「勿論、喜んで」 香穂子が笑顔で応えると、吉羅もまた微笑んでくれた。 ふたりでウェディングドレス工房を出た後、手を繋いで駐車場まで歩いていく。 「いつも急で申し訳がないね」 「お互い様です。私も暁彦さんに逢いたかったですから」 「君が寛大な心の持ち主で助かったよ」 「私も暁彦さんに逢いたかったからちょうど良かったですよ」 香穂子はシートベルトを締めながら、ニコニコ笑った。 「こうして突然、君を欲しがってしまうのは、申し訳ないがね」 「それもまた嬉しいことです」 車に乗り込んで、香穂子が甘えるように吉羅に寄り掛かると、そっと抱き寄せてくれた。 「今日の君はとても綺麗だったから…、このまま連れて帰りたい気分だね」 吉羅は、香穂子の手をしっかりと握りくれる。 こうして吉羅とふたりで甘い時間を過ごせるのが、香穂子にはとっておきなのだ。 ふたりでいられれば、わざわざレストランに行かなくても良いのだ。 「暁彦さん、今日はもうお仕事はお終いですか?」 「いや、まだ少しだけ残ってはいるが…」 「だったら暁彦さんの家で過ごしましょう。私がご飯を作っている間に、暁彦さんはお仕事をして下さったら良いですから」 「有り難う」 「いいえ。だけど簡単にものしか作ることは出来ませが…」 「それで充分だ。食材を買ってうちに行こうか」 「はいっ!」 吉羅が時間を工面して逢いたいと言ってくれている。 香穂子にはそれが嬉しかった。 デパートで食材を買い、吉羅の家へと向かう。 今日は簡単に肉を焼いたり、お刺身を出したりするだけだ。 勿論、野菜はたっぷりではあるが。 香穂子が食事を作っている間、吉羅は仕事をしていた。 結婚してもこのような日常になると想像するだけで、嬉しかった。 サラダ用のドレッシングを作っていると、吉羅がキッチンにやってきた。 「暁彦さん、お仕事終わられましたか?」 「お陰様でね」 吉羅はフッと笑うと、香穂子をいきなり抱き締めてきた。 「あ、暁彦さんっ!?」 吉羅にいきなり背後から抱き締められて、香穂子はびっくりしてしまう。 「…ずっと君をチャージ出来ていなかったからね…。じっとしていてくれないか…?」 「はい…」 吉羅にこうして甘えられるのは、とても嬉しい。いつも甘えさせて貰ってばかりいるからだ。 「香穂子…、有り難う…」 吉羅が望むまで香穂子は慈しみが溢れた気持ちでじっとしている。 それもまた香穂子の願いに間違いはなかった。 最近、こうして吉羅は求めてチャージをしてくる。 本当に愛されて、頼りにしてくれているのが感じられて、香穂子は嬉しかった。 ふたりでゆったりと食事をしながら、香穂子は穏やかな時間を過ごす。 「今夜は一緒にいられるかね?」 「大丈夫です。明日は暁彦さんと一緒に出たら間に合う予定ですから」 「君ばかりに準備をさせて申し訳ないね」 吉羅は本当にすまなさそうに言う。 吉羅がひどい多忙であることは、香穂子も十二分に理解はしているから、何も言わなかった。 「しかし…こうして逢えない状況は解消しなければならないね…。君がチャージ出来ないのは、私としてはとても辛い」 「私もですよ」 「…だから、前倒しで一緒に暮らさないか? 今直ぐにでも…」 逢えないことが吉羅を煮詰まらせているのを、香穂子は強く感じる。 「…解りました。私も暁彦さんと一緒に暮らしたいです…」 「有り難う」 ふたりはしっかりと手を握り締めあい、見つめ合う。 幸せになるために。 お互いに最高に心を満たすために。 ふたりはフライングで、新しい生活をスタートさせた。 |