今日は開港祭。 今年は特にアニバーサリーな年で、開港150周年を迎える。 式典では、香穂子がヴァイオリンを奏でるということもあり、吉羅は暁慈を連れて出席をした。 吉羅は、横浜に本社を置く会社のCEOを務めていることもあり、招待もされていた。 今日は平日ではあるが、横浜の大切な日だということで、会社も休みにしている。 ただ土曜日と日曜日に一部の社員と一緒にかなり頑張って仕事をしたが。 その分、今日と明日は吉羅や出勤をしていた社員は休みになっている。 吉羅は今日は家族水入らずで、開港祭を楽しむことにしていた。 まだまだ小さい暁慈が、厳かな式典でじっとしていられるかがとても不安ではあったが、雰囲気を察してかちゃんとじっとしてくれていた。 それは吉羅にとってはかなり有り難いことであった。 式典のクライマックスで香穂子が登場し、ヴァイオリン演奏で花を添える。 その姿を暁慈は嬉しそうに幸せそうに見ていた。 ようやく長かった式典が終わり、吉羅は関係者に挨拶をする。 息子を連れていたので誰もが驚いていたが、概ね好印象で迎えられた。 ようやく香穂子に逢える。 吉羅も暁慈も、逢いたくてうずうずしていたのだ。 「香穂子」 「ママっ!」 「暁彦さん、暁ちゃん!」 ふたりの顔を見るなり、香穂子の顔は華やいだものになる。 三人ともホッとしたような気分だ。 「ランチをこの辺りで食べたら、服を着替えて、開港祭に行こうか」 「はい」 「あいっ!」 吉羅の愛すべき守るべきふたりの笑顔を見ていると、これほどまでの幸せはないのではないかと思う。 吉羅はふたりを連れて、ランチを食べに行くことにした。 香穂子が妊娠中であるから、吉羅はかなり気を遣う。 レストランもオーガニックなものを選んだ。 香穂子を見ているだけで、本当に幸せな気分になる。 香穂子のお腹の中には、二人目の子どもが育っている。それが可愛くてしょうがなかった。 だが、暁慈は初めての子どもであるから、余計に嬉しかった。 予約していたレストランで、オーガニックのランチコースを食べる。 ふたりで息子を世話するのもまた楽しかった。 「有り難う、とっても美味しい」 香穂子は笑顔で吉羅に言う。 「ありあとう、とってもおいちい」 暁慈も香穂子の口調を真似るように言う。それが嬉しくて幸せだ。 「暁慈、しっかり食べて大きくなりなさい。お前はもうすぐ兄になるんだから、しっかりしなければならないからね」 「あいっ! 大きくなるっ!」 暁慈は胸を張って笑顔で言うと、吉羅に笑いかける。 本当にその場で抱き締めてやりたいと思うぐらいに、愛しくてしょうがなかった。 ランチを済ませた後、一旦家に帰って、カジュアルな服装になる。 今夜はお泊まりだから、荷物を持って再び車に乗り込んだ。 「実はここからも花火は見えるんだがね。今年はメモリアルな年だから、特別な場所で過ごしたいと思ってね」 「有り難う。来年は、この子と一緒にみんなでバルコニーで花火を見ましょうね」 「そうだね」 香穂子はうっとりと幸せな気分に浸りながら、吉羅にそっと寄り添った。 夜まで暫く時間があるので、開港祭を見て回ることにした。 流石に暁慈は途中で疲れるかもしれないと思ったが、抱っこをねだることも少なく、開港祭を楽しんでいた。 特に未来型の電気自動車を見て、歓声を上げている。 「本当に楽しいね、暁ちゃん」 「あいっ! たのちい!」 小さな躰をフルに動かして、暁慈はしっかりと楽しんでいる。 その姿に命の瑞々しい躍動を感じて、香穂子も吉羅も目を細めた。 夕方になり、暁慈が疲れ果ててしまった頃に、みなとみらいのホテルにチェックインをした。 とても素敵な雰囲気で、香穂子はうっとりとする。 「今夜は花火を特等席で見ようか。勿論、夜景も充分に楽しめるからね」 「はい、有り難うございました」 ホテルにチェックインした頃、暁慈は吉羅の腕の中で眠っていた。 「今日はよほど楽しかったみたいですね。本当に楽しそうな寝顔です」 「本当に」 スィートルームに通されて、ベッドの上に息子を寝かせる。 「本当に気持ち良さそうに寝ていますね」 「そうだね」 ふたりで息子の寝顔を見た後で、窓辺に立って横浜の夕暮れを楽しむ。 「今日は部屋で食事が取れるように手配をしたから」 「有り難う。三人で楽しめますね」 「ああ。三人だけでゆったりと過ごしたかったからね」 「本当に嬉しいです」 香穂子は吉羅に甘えるようそっと寄り添うと、美しい紫色の空を見つめる。 夕暮れの空というのは、なんて美しいのだろうかと思う。 吉羅と見られるのは特にロマンティックだと感じた。 本当に美しい夕暮れだ。 明るい碧から、空が紅に燃え上がり、癒される薔薇色から、切ない紫色に変わっていく。 これ以上に美しい空はないのではないかと、香穂子は思う。 じっと見つめていると、泣きたくなりそうになる。 幸せで堪らないからだ。 一年前なら、こんな奇蹟のような幸せが起こるなんて考えられなかった。 「本当に綺麗だね…」 吉羅がふと自分を見ていることに香穂子は気付いた。 「…え…?」 香穂子が瞳を大きく見開くと、吉羅がそっと唇を近付けてくる。 甘く深く口付けをされて、香穂子は幸せと滲む官能に、蕩けてしまいそうになった。 「…夕焼け空を見つめる君が、とても可愛かったからね…」 「…暁彦さん…」 「こんなにもの幸せを感じるなんて、一年前は思ってもみなかったよ」 まさか吉羅が同じことを思ってくれているなんて、香穂子は思いもよらなかった。 「…私もで。こうして暁彦さんと過ごすなんて全く思ってみなかった…」 ふたりは見つめ合いながら何度もキスを交わした。 「とーしゃんっ! ママーっ!」 起き出したのか、暁慈が切ない声でふたりを呼んでいる。 ふたりは幸せな笑みを浮かべると、暁慈の元へと向かった。 「暁慈」 「暁ちゃん」 両親がやって来ると、暁慈はホッとしたのか、軽く深呼吸をした。 「とーしゃん、ママ…」 「怖い夢でも見たのかな?」 香穂子が抱き締めてやると、暁慈が甘えるように抱き付いてくる。 「…だいじょぶ…」 暁慈の背中を撫でると、安心したように香穂子に甘えた。 「暁慈、もうすぐご飯だ」 「とーしゃんも抱っこ」 「解った」 吉羅は困ったように笑みを浮かべた後、香穂子から暁慈を抱き取り、あやすように抱いた。 そのまま窓辺へと息子を連れて行き、海の様子をふたりで眺める。 幸せでしょうがない風景だった。 食事が運ばれてきて、家族でテーブルを囲む。 ちょうど食事を始めたタイミングで、打ち上げ花火が始まった。 「うわっ! 花火っ!」 「本当に綺麗だね」 息子はキラキラと瞳を輝かせて花火を見ている。 去年も、何とか時間を作って暁慈とふたりで花火を見た。 まさかこうして親子水入らずで花火を見ることが出来るなんて、思ってもみなかった。 「とーしゃんっ! ママっ! しゅごいよ花火!」 興奮している暁慈を、吉羅とふたりで微笑ましいとばかりに見つめる。 本当に今年は最高の開港祭だ。 香穂子はつくづく思った。 暁慈を寝かせた後で、吉羅とふたりでその寝顔を堪能して、幸せな気分になる。 「今年の開港祭は最高だね」 「私もそう思います」 香穂子はくすりと笑うと、吉羅とキスを交わす。 本当に幸せな開港祭だと思わずにはいられなかった。 |