何故かクリスマスよりもイヴに盛り上がるのかと、いつも思ってしまう。 クリスマス当日になると、テレビの世界では既にお正月の話題で持ち切りになり、誰もがクリスマスであることを忘れてしまう。 何だか勿体ないと思ってしまう。 こんなにもロマンティックなイベントは他にないのだから。 クリスマスイヴ前日から香穂子は吉羅の家で過ごしていた。 ロマンティックな外でのディナーはイヴの前日に済ませて、今夜は伝統的なクリスマスを過ごすのだ。 香穂子は朝からクリスマスのご馳走を作り、トラディショナルなクリスマス準備をした。 夜には車で山手カトリック教会へと出かけて、クリスマスイヴのミサに出席する予定なのだ。 クリスマスイヴは年末で、吉羅の仕事も追い込みに入って忙しい。 だが、ふたりだけの伝統的なクリスマスを過ごす為に、一生懸命時間を作ってくれたことが、香穂子には何よりも嬉しいことだった。 「さてとこんなものかな? これで暁彦さんは喜んでくれるかな?」 香穂子はにんまりと微笑むと、準備の成果に満足する。 クリスマスケーキは伝統的な長く食べられる、ドライフルーツケーキを作っているし、鶏肉の下拵えは吉羅が昨日してくれたので、後は焼くだけだ。香穂子の担当は、スープとサラダ、そして簡単なオードブルだけだ。 これも大好きなひとの配慮だった。 食事の準備を終えると、香穂子は出かける準備をする。 教会は香穂子の家の直ぐ近くにあるのだが、吉羅とお互いにずっと一緒にいたいという気持ちが勝って、六本木から向かうことになった。 クリスマスイヴのミサだから、いつも以上に清楚なスタイルで横浜山手地区に向かう。 教会の前で待ち合わせをしているのだ。 「暖冬だって言っていたけれど、流石に寒くなってきたね。その方がずっとロマンティックだから良いんだけれどね」 香穂子は、クリスマス寒波を歓迎しながら、ゆったりとした気分で、山手カトリック教会へと向かった。 カトリック教会に着く頃には、かなり外は冷え込んでいて、何度も震え上がりそうになった。 「…カイロとか持ってきたほうが良かったのかな…?」 などと思いながら、香穂子は教会前で吉羅を待った。 躰が芯まで冷えた頃に、ようやく吉羅が姿を現した。 寒さに震えるなかで香穂子が笑顔で吉羅を迎えると、いきなり頬に触れられた。 「…すまないね。こんなに冷えるまで待たせてしまって」 「大丈夫ですよ」 吉羅の手のひらでしっかりと温められて、本当に気持ちが良い。思わず目を閉じてしまった。 「素早く姉の墓参りをしてから中に入ろう」 「はい」 吉羅は温めるように香穂子の手をしっかりと握り締めてくれると、そのまま姉の墓へと向かった。 白いカサブランカを姉の墓に捧げて、ふたりでお参りをする。 メリークリスマス。 そしていつまでもふたりを見守って貰えるように。 ふたりはこころを込めて祈った。 「行こうか。このままでは君が風邪を引いてしまうからね」 「…はい、有り難うございます」 「唇は既にかなり冷えているようだ…」 吉羅の唇が近付いてくる。 うっとりとしたキスに、唇から躰にかけて暖まってくる。 吉羅とギリギリまで何度も甘いキスを交わして、香穂子は全身が心地好く温められるのを感じた。 「そろそろ教会に行こうか」 「…はい…」 ふたりは寄り添うように手を繋ぐと、ゆっくりと教会へと入った。 教会でふたりはこころを清らかに鎮めながら、神父によるクリスマスの話を熱心に聴いた。 クリスマスの話が終わると、香穂子は信者を代表してヴァイオリンで”アヴェ・マリア”を奏でる。 誰もが最高のクリスマスを過ごせるようにと想いを込めて。 吉羅は目を閉じて、静かに聴いてくれていた。 クリスマスミサの総てのプログラムが終了した後、神父が声を掛けてくれる。 「日野さん、どうも有り難うございます。あなたのお陰で、とても良い会になりました」 「とんでもございません。こちらこそ、演奏出来る機会を与えて下さいまして、有り難うございます」 神父に笑顔で挨拶をすると、にっこりと落ち着いた笑みを返してくれた。 それが香穂子には嬉しい。 「おふたりはこれからこの近くでクリスマスディナーですか?」 「いいえ、自宅に帰ってふたりだけでゆっくりお祝いをしたいと思っています」 「それは良いですね。楽しんで下さい」 吉羅の言葉に神父は頷きながら、嬉しそうに笑みを零していた。 ふたりは横浜から六本木へと車で戻る。 ロマンティックなクリスマスドライブを楽しむことが出来るのが、とても嬉しい。 ベイブリッジを渡るルートで、吉羅はドライブをしてくれた。 東京タワーも50周年と言うことで、クリスマスツリーのようなライトアップになっている。 「暁彦さん、有り難う…。本当に嬉しいです。こうしてふたりでドライブが出来るのが嬉しくてしょうがないです」 香穂子は本当に幸せな気分で呟くと、吉羅に笑顔を浮かべた。 吉羅はそっと香穂子の腿に手を置いてくる。その温かなときめきに、香穂子ははにかみながら微笑んだ。 「今年は最高のクリスマスになりそうですよ」 「そうだね。私もそう思うよ」 ふたりでこうして一緒にいるだけで、なんて幸せなのだろうかと、香穂子は思わずにはいられなかった。 六本木の自宅に到着し、香穂子は料理の温め直しをする。 チキンは流石に今から予熱をして焼きたかったから、何よりも優先した。 チキン以外の料理の準備を手早く済ませた後、ふたりはクリスマスの乾杯をする。 吉羅は明日も仕事だから、軽くアルコールを嗜む程度だ。 香穂子もそれに付き合って、アルコールは軽く飲むだけにした。 「…今年のクリスマスも暁彦さんと過ごすことが出来て、とても嬉しいです」 「私も、君と過ごせて嬉しいよ。これからもずっとクリスマスはこうして我が家で過ごしたいものだね」 「はい。これからもずっとずっとこうして暮らしていけたら、とても嬉しいです」 香穂子が笑顔で頷くと、吉羅はとても甘い笑みを香穂子にくれた。 ゆっくりとサラダやオードブル、スープなどを楽しんだ後で、メインのチキン料理が出来上がりふたりでそれを食べた。 「クリスマスにはやっぱりチキンですね。本当に美味しい」 「レストランでクリスマスを祝うのも良いが、やっぱりこうしてふたりだけで祝うクリスマスは最高だと思う」 ふたりは意見を一致させると、甘いまなざしで見つめ合う。 これほどまでに蕩けそうになる瞬間はないのではないかと、思わずにはいられなかった。 クリスマスケーキを食べながら、吉羅は香穂子にジュエリーボックスを差し出した。 「香穂子、メリークリスマス。これからもずっと一緒にクリスマスを過ごさないか? 死がふたりが分かつまで…。…いや、その後もずっとふたりで過ごさないか…?」 魅せられたまま、香穂子は鼓動を激しくさせる。 ひょっとしてプロポーズだろうか。 ひょっとしなくてもそうかもしれない。 「…あ、あの…、それは…」 香穂子は息が詰まってしまうのではないかと思うほどにドキドキしながら、吉羅を見つめた。 「…プロポーズをしているんだよ。私は…」 「暁彦さん…私…凄く嬉しいです…」 今にも泣きそうになりながら、香穂子は嬉しくてそれ以上の言葉を紡ぐことが出来ない。 「…受けてくれるね?」 「…はい。嬉しいです。有り難うございます」 「私こそ有り難う…。幸せにする」 「私もあなたを幸せにします」 香穂子は瞳に沢山の涙を滲ませると、吉羅を見つめる。 忘れられない記念のクリスマスイヴになった。 |