ふたりきりの時も、それはロマンティックで素晴らしいクリスマスであったが、子供が出来てからはもっと楽しいクリスマスになっている。 香穂子にとって、クリスマスイヴは朝から大忙しなのだ。 ローストチキンや豪華なサラダ、シチュー、クリスマス定番のミートパイの準備、そして、クリスマスケーキの準備もしなければならない。 クリスマスケーキは、明日は市販のものを、イヴは手作りにしている。 クリスマスイヴのミサもあるので忙しいが、子供に作る楽しみを教える為に、こうして前日から綿密な準備をしてクリスマスに備えている。 吉羅には、無理はしなくても良いとは言われているが、家族の愛する人達の温かな笑顔が欲しくて、頑張っているだけなのだ。 息子もジンジャーブレッドマンクッキーを作るのを手伝ってくれ、楽しそうにしてくれていた。 「ママ、今夜、しゃんたさんが来るから、いっぱーい頑張るよ」 「そうだね。あきちゃんは良い子だから、きっとサンタさんは沢山プレゼントをくれると思うよ」 「うれちいよ」 息子ははしゃぐように言うとスキップしている。 吉羅サンタクロースがかなり甘いから、息子の望みは総て叶うだろうが。 香穂子はにっこりと笑うと、息子の頭を柔らかく撫でた。 クリスマスイヴとクリスマスはミサがあるため、クリスチャンの吉羅は、いつも早く帰ってくるのだ。 今日は家族全員で、クリスマスのミサに向かうのだ。 教会に行くので、きちんとした格好で向かう。 香穂子は吉羅とふたりで息子の手を引いて、教会へと向かった。 かなり神妙な顔をしてミサに出ている息子が可愛くて、香穂子は思わず笑ってしまった。 吉羅と一緒にミサを受ける姿がそっくり過ぎて、ついほっこりとした笑顔を浮かべずにはいられなかった。 ミサが終わると、家族だけのお祝いを自宅でする。 独身時代は、吉羅と一緒によくクリスマスディナーに行ったものだが、子供が出来てからは、自宅でのお祝いになっている。 それはそれで香穂子は大好きだった。 家で、温かな食事を家族で食べる。 ローストチキン、たっぷりの野菜サラダ、温かなシチュー、そしてローストビーフ、ケーキ…。 クリスマスの定番料理で、和気藹々と食事をした。 「ママーチキンッ! パンッ!」 「はい」 ヴァイオリニストとして忙しい時はそんなにも世話をしてあげることが出来ないから、香穂子はよく世話をしてやった。 吉羅は相変わらずクールだが、幸せそうな笑みを浮かべてくれていたのが、香穂子は何よりも嬉しかった。 「このローストビーフとローストチキンは、明日、ライ麦パンのサンドウィッチを作ると良さそうだね。悪くない」 吉羅らしい褒め言葉に、香穂子は思わず笑顔になった。 デザートの時間は、香穂子のヴァイオリン演奏会になる。 クリスマス定番の曲をヴァイオリンで奏でて、香穂子は温かで清らかな気持ちで満たされる。 こうした時間もヴァイオリニストとしては大切なのだ。 温かな演奏で、香穂子も満たされた気分になる。 すると吉羅も息子も本当に楽しそうに笑ってくれていたせいか、香穂子は嬉しくてしょうがなかった。 息子のお風呂に入れた後、いつものように寝かしつける。 「今日はしゃんたさんが来るから、起きてる」 子供らしい言葉に、香穂子はつい笑みを零してしまう。 「あきちゃん、サンタさんは、夜更かしするような悪い子には、来てくれないんだよ」 香穂子の言葉に、息子は心配そうなまなざしを浮かべる。 「ほんちょ?」 「うん、本当だよ。だからあきちゃんは、いつもと同じように寝ないと駄目なんだよ。あきちゃんは良い子でしょう?」 香穂子が優しい声のトーンで諭すように言うと、息子は神妙な顔になる。 「解った。あきちゃん、良い子だから寝る」 息子はサンタクロースとの面会を諦めたようで、ほんのりとがっかりしながら呟いた。 「そうだよ。あきちゃん、偉いね。だったら、今夜もぐっすりと眠ろうね。本当は眠いんでしょう?」 香穂子が柔らかく訊くと、観念したとばかりに息子は頷いた。 その姿が可愛くて、香穂子はつい笑顔になった。 「うん、じゃあぐっすり寝よう」 「あい」 息子の素直なところを見ていると、香穂子は幸せでいっぱいになる。 隣には吉羅がいてくれる。 仕事が忙しい吉羅は、息子が眠りにつくのに間に合わない場合があるのだが、なるべくこうして一緒に寝かしつけてくれている。 「…とーしゃん」 息子は香穂子と吉羅の手をそれぞれ握り締めている。 それがまた可愛い。 「おやしゅみ…」 「おやすみなさい、あきちゃん」 「おやすみ」 息子はやがてスヤスヤと寝息を立てて眠り始めた。 暫く、寝顔を見つめた後、香穂子はそっと部屋から出た。 「1時間ぐらいしたら、サンタクロースがやってくるね」 「そうですね」 ふたりは顔を見合わせて笑った。 温かなハーブティーを飲みながら、香穂子と吉羅はふたりきりの時間を過ごす。 ふたりでのんびりとするのは、貴重な時間だ。 幸せな時間といっても良い。 香穂子が吉羅に甘えられる唯一の時間と言っても良かった。 「香穂子、今夜は有り難う。あの子も私も、とても嬉しかったよ。楽しませて貰った」 「私こそ、素敵な時間を有り難うございました」 香穂子が微笑むと、吉羅はフッと微笑んで唇を重ねてきた。 甘いキスにこのまま溺れてしまえたら良いのにと思う。 だが、サンタクロースの役目をしなければならないから、このまま溺れるわけにはいかないのだ。 香穂子は時計を見た後立ち上がると、クローゼットに隠しておいたプレゼントを取りに行く。 吉羅へのプレゼントもこっそりと隠しておいたので、それも出して、手作りの靴下に入れておいた。 プレゼントはネクタイピン。 吉羅の誕生石をあしらったものだ。 それをこっそりベッドサイドに置いてから、香穂子はリビングに戻った。 息子のプレゼントは、しましま太郎のぬいぐるみ、そして電気を使わない子供用のカートだ。子供用カートは吉羅が気に入って買ったものだ。 それをふたりで持って、息子の寝室へと向かった。 なるべく音を立てないようにして、そっと枕元にプレゼントを置いた。 明日の朝の喜びようを想像するだけで、香穂子は嬉しかった。吉羅とふたりで部屋を出た後、寝室へと向かう。 「香穂子、私の最高のプレゼントは、君だからね。君がいれば良い」 「…暁彦さん…」 香穂子にとっての最高のプレゼントもまた、吉羅なのだ。 ふたりは寝室に入ると激しくも甘く愛し合う。 これ以上のロマンティックな夜は他にはなかった。 愛し合った後、香穂子は充実した疲れに覆われて、そのまま眠りに落ちた。 吉羅は香穂子をしっかりと抱き締めて、その温もりと幸せに浸りながら、甘い気持ちになった。 「メリークリスマス、香穂子…」 吉羅は甘く囁いた後、そっとエメラルドのペンダントを首にかける。 やはり思った以上に似合う。 香穂子を見つめて満足していると、ベッドサイドに膨らんだ靴下があることに気付いた。 手に取ってみると、そこには、プレゼントが入っている。 メリークリスマス。あなたのサンタより。 香穂子だと思い、吉羅はつい笑顔になった。 プレゼントを開ければ、瀟洒なデザインのネクタイピンだった。 大切にしようと、吉羅は丁寧にチェストに入れる。 直ぐに香穂子を抱き締めると、吉羅は額にキスをする。 「メリークリスマス」 今年もまた最高のクリスマスになった。 |