残暑はまだまた厳しい。 汗が滲むほどにまだまだ暑さを感じる。 やはりこれほど暑いのは、温暖化の影響があるのだろう。 夏の残滓が残るこの時期を、涼しくすごそうと、吉羅家の別荘に来ていた。 ホテルでの避暑も悪くはないのだが、やはりふたりきりの空間のほうが、香穂子には好ましい。 やはり、愛するひとと、完全にふたりきりの空間というのは素晴らしい。 ロマンスも育つような気分になる。 香穂子はロマンティックな気持ちに、ふわふわとしながら、吉羅との短い休暇を楽しむことにした。 もう暦の上では秋だ。 それは東洋でも西洋でも同じこと。 なのに、まだまだ残暑は厳しい。 香穂子は涼しさを求めて、吉羅家の別荘の程近くにある、小川に来ていた。 ここに来ると、一気に暑さは吹き飛ぶ。 とても爽やかな気分になるのだ。 香穂子は、涼しさを楽しむために、小川に面した岩に腰かけた。 吉羅といえば、電話で仕事をしている。 その間に、香穂子はゆっくりと散策しようと思った。 吉羅が一緒にいてくれるのが、一番嬉しいが、なかなかそういうわけにはいかない。 今回も、ハードスケジュールをぬって、時間をつくってくれたのだから。 これには香穂子も感謝している。 だからこそ、こうしてひとりの時間を作っていたのだ。 吉羅の別荘近くをのんびりとするのが、とても幸せだ。 後で二人で歩けたらと思う。 香穂子はのんびりと避暑にひたりながら、ぼんやりとする。 髪をあげて、足を冷たい水に浸すだけでも、かなり涼しい。 素晴らしい避暑だと思った。 「ここにいたのか」 吉羅のテノールが聞こえて、香穂子は振り返る。吉羅がホッとしたように立っていた。 「暁彦さん」 「仕事をしていたら、いつのまにか君がいなくなっていたからね。焦ったよ」 吉羅は苦笑いを浮かべながら、香穂子の横に腰を下ろした。 「ここはとっても涼しいんですよ。暁彦さんも足を浸けてみてください」 「確かに君を見ていると、涼しそうだけれどね」 吉羅はそう言いながら、カジュアルとはいえかっちりとした靴と靴下を脱いで、足を浸す。 「やはりここは気持ちが良くて涼しいね。こんなことをするのは、ガキの頃以来だね」 吉羅は懐かしそうに呟いた。 柔らかく穏やかに微笑む吉羅は、とても魅力的だ。香穂子は蕩けてしまいそうになる。 甘い気持ちで胸がいっぱいになった。 「こうしていると、君は小さな子供のようだね」 「そうですか?」 「そうだよ」 小さな子供のようだと言われると、とても恥ずかしい。 「君は子供が出来ても、こうしていそうだね」 「そうですね。小さな子供と一緒にいたら、同じようにわいわいしてしまいそうですね」 香穂子が苦笑いをすると、吉羅はフッと眩しそうに笑う。 「……近い将来、この場所でそれが見られるかな」 初秋の風のような吉羅の声に、香穂子はドキリとする。 いつかそうなればよいとおもう。 大人で余裕があり、いつも香穂子をリードしてくれる吉羅と、小さな男の子がいてくれたら。 想像するだけで、くすぐったい気持ちになった。 香穂子が頬をほんのり薔薇色に染め上げていると、吉羅はしっかりと抱き寄せてきた。 いきなりうなじに唇を押しあてられる。 背筋がゾクリと震えて、香穂子は思わず首をのけ反らせた。 「君の反応は、とても可愛いね……」 「暁彦さん……」 「今は私の前だから構わないが、むやみやたらと他の男にうなじを見せないように。これは私の特権だから……」 吉羅は更に強くうなじを吸いあげてくる。 香穂子は甘い吐息を宙に溢す。 先程まであれほど涼しかったのに、今はとても熱い。 香穂子は溶けてしまいそうになるぐらいの熱さを感じた。 吉羅は更に香穂子を抱き締めてくる。 やがて深く唇を重ねてきた。 自然のなかで、静かな時間のなかで、情熱的にキスをするなんて、とてもロマンティックだ。 香穂子はいつの間にか、吉羅の情熱的なキスに溺れていた。 吉羅の背中にしっかりと腕を回して、抱き締める。なんてロマンティックなのだろうか。 甘くて幸せなキスだ。 もう、ここが何処なのかが気にならないぐらいに、ふたりは深く、激しく、甘く、何度も何度も唇を重ねる。 この瞬間は、本当に幸せで、香穂子は甘いドキドキに息が出来なくなる。 「香穂子……」 香穂子の名前を呼ぶ吉羅の声が、熱くくぐもったものになる。 香穂子のワンピースの隙間から手を入れたところで、踏みとどまった。 「このままだとまずいね……」 吉羅は苦笑いを浮かべると、香穂子から包容をとき、小川から足を出した。 無言で足元を整える。 「香穂子、君も小川から出なさい」 「はい」 もっとキスをして欲しかった。 もっと抱き締めていて欲しかった。 香穂子は名残惜しく、満たされない想いに、ジレンマすら感じる。 厳しくて苦しい想いに、香穂子はくらくらしそうになった。 香穂子が小川から出て、サンダルを履くと、いきなり吉羅に抱き上げられてしまった。 「あ、暁彦さんっ!?」 「昼寝をしないか?ふたりきりで」 吉羅は甘く囁くと、香穂子を別荘まで運んでくれる。 ドキドキし過ぎて、香穂子は恥ずかしさの余りに、吉羅の胸に顔を埋めた。 とっておきの昼寝になるのは分かっているから、香穂子は甘い緊張を感じながらも、ドキドキを止めることが出来ない。 吉羅は別荘に入り、誰にも邪魔をされないように、セキュリティと鍵をかけると、マスターベッドルームへと向かう。 とてもロマンティックな昼下がり。 吉羅は寝室に入ると、ベッドに香穂子を寝かした。 心地が良いスプリングに、香穂子は夢見心地になる。 「ふたりだけの昼寝をしようか」 「はい」 吉羅とふたりきりの昼寝。 誰にも邪魔されることのないロマンティックが詰まっている。 窓からは優しい秋風。 柔らかな木漏れ日。 総てがとっておきだと思いながら、香穂子は吉羅を抱き締めた。 吉羅も甘く微笑み、抱き締めてくれる。 そのまま香穂子を甘い昼下がりの愛に導くために、吉羅はゆっくりと丁寧に愛し始める。 お互いの愛を確かめあうために。 ロマンスが詰まった、最高に幸せな時間が、今、始まる。 蕩けてしまいそうな時間に、香穂子はうっとりと身を委ねていった。 吉羅もまた、香穂子にとっておきの昼下がりを教えるために、楽しむ。 ふたりの愛がリラックスして、溶け合っていった。
|