お正月は大好きなひとと過ごしたい。 寒い時期であるのは勿論だが、新しい年と時間を大好きなひとと過ごしたい。 同じ新しさを共有することで、より暖かな関係になれそうだから。 それに、大好きなひとと一緒に、年始めを過ごす。 これ以上に幸先の良いスタートはないだろうから。 年越しのジルベスターコンサートや、お互いに甘い時間に浸っていたせいで、ふたりは正月の朝はなかなか起きることが出来なかった。 これはもうしょうがないと、香穂子は思う。 吉羅とふたりで、規則正しいお正月を過ごすのも良いかもしれないが、こうして気だるくて甘いお正月もありだと、香穂子は思う。 目覚めて時計を見ると、9時をまわっていた。 いつもなら遅刻の時間だが、今日はお休みだから許される。 香穂子は吉羅としっかり寄り添うように、ベッドでぬくぬくしている。 「起きたのかね?」 吉羅の艶やかな声が聞こえて、香穂子は笑顔になった。 「はい」 「そろそろ起きようか。今日はゆっくり眠ったね。お互いに」 五時間ほどの睡眠で、吉羅にとっては、『よく眠った』ことになるのが、香穂子には驚きだった。 「もう少し、眠っていますか?」 「だが、込み合うかもしれないからね。今日は江島神社に行って、江ノ島の展望台に上がることになっているからね」 「サミュエル・コッキング苑で散歩もしたいです」 「そうだね。のんびりとしよう」 江ノ島の展望台は、ふたりにとっては、思い出の場所だ。 だからこそ、お正月に行っておきたいのだ。 「正月だから、少しは正月らしく過ごさなければね。朝は雑煮だね。私が作るから、君は眠っていなさい」 「一緒に起きますよ。お雑煮以外の仕度をしなければ、ならないですから」 「頼んだ」 吉羅はフッと甘く笑うと、香穂子を抱き寄せて、とっておきに甘いキスをくれる。 香穂子は甘さに蕩けるような笑みを向けた。 身支度を整えて、朝の準備をする。朝といっても、もうブランチに近かった。 毎年、吉羅が雑煮をつくるのが、定番になっている。香穂子も楽しみだ。 香穂子は簡単なおせちを準備をする。煮しめや黒豆、かずのこ、えびやたいを準備をした。 「美味しそうです」 「そうだね」 吉羅が作った雑煮を並べて完成する。 ふたりは、向かい合わせになって座った。 「明けましておめでとう、香穂子。今年もこれからもずっとよろしく」 「明けましておめでとうございます、暁彦さん。今年もこれからもずっとよろしくお願いいたします」 ふたりは生真面目に、かつ笑顔で互いの挨拶をする。それはとても温かく、幸せな気持ちにさせてくれた。 挨拶のあとは、吉羅が作ってくれた雑煮を食べる。もう何度となく食べたが、毎年楽しみにしている。 「鴨が入るとこんなにもお雑煮は美味しいんですね。毎年、思います」 「鴨は良質の脂が出るからね。君が毎年、美味しいと言ってくれるのが、私はとても嬉しいけれどね」 「とても美味しいですよ。毎年のお楽しみになっています」 香穂子ははふはふしながら、何度も表情を綻ばせた。 本当に美味しくて、幸せな気分になる。 「これが、私の毎年の楽しみなんですよね。プレゼントみたい」 「これからずっと、正月は雑煮を作らなければならないね」 吉羅は何処か嬉しそうに呟くと、香穂子を穏やかな眼差しで見つめてくれる。 甘い眼差しに、香穂子はとろとろに蕩けてしまいそうになるぐらいの幸せを感じた。 「おせちも美味しいね」 「煮しめぐらいしか作れなかったですけれどね」 香穂子は来年はもう少し手が込んだものが出来ればと、思わずにはいられない。 「私は煮しめが好きだからね。むしろ、嬉しかったけれどね」 吉羅の優しくも甘い言葉に、香穂子は幸せな気持ちになった。 ブランチを兼ねた、お正月らしい食事のあと、吉羅とふたりで江ノ島に向かう。 江島神社に向かうのだ。 交通渋滞もまったく気にはならない。 吉羅と一緒にいると、苛々することがほとんどないからだ。 のんびりとふたりきりのドライブは楽しい。 「近いうちに渋滞を避けなければならなくなるだろうね」 「そうですね。私もそれは思います」 香穂子は頬を赤らめて、ついにんまりと笑ってしまう。 わくわくとした期待感が溢れて、楽しい気持ちになる。 賑やかになる。 それは、ふたりに新たな家族が出来ること。 香穂子はつい楽しみになり、笑うことしか出来なかった。 車はのんびりと江ノ島に到着した。 「エスカーは流石に止めようか。私の性分には合わない」 「確かにそうですね」 香穂子は思わず苦笑いを浮かべた。 吉羅と香穂子は、しっかりと手を握りしめあって、のんびりと歩いて行く。 江島神社に先ずは向かいお参りをする。 願い事は決まっている。 今年も無事に過ごせますように。 今年を振り返れば、充実したと、満足が出来、本当の意味で“良い年だった”と言えるように。 仕事も上手く行くように。 そして。更にふたりの絆が強くなるように。 同じ願い事を強く祈った。 「願い事は済んだかね?」 「はい。もちろん」 「それは良かった」 ふたりは、そのまま、サミュエル・コッキング苑に向かい、のんびりと植物を見ながら散歩をする。 こうしているだけでもワクワクした。 寒いが、ふたりで一緒に、様々な植物が見られるのが嬉しい。 海の向こうには富士山が見える。 空気が清らかで澄んでいるからか、キラキラとして、とても綺麗だった。 いよいよ、思い出の場所である、江ノ島展望台に昇る。 展望台からは、横浜や富士山がとてもよく見えた。 「良い気分だね。正月らしい」 「はい。学院はどちらでしたか?」 「君は毎回同じことを訊くね。あちらだよ。私もつい探してしまう」 顔を見合わせても、つい笑顔になってしまう。 ふたりが出逢った場所。 そして今も人生のメインフィールドであり続ける、思い出の場所なのだから。 「リリにも挨拶をしなければね。私たちはふたり揃って見えるのだから」 「楽しく幸せな特異体質ですね」 「まあ……、そうだね」 ふたりは学院の方角を見つめながら、幸せな気持ちに浸る。 「お正月の恒例になりそうだね」 「そうですね」 ふたりは展望台を下りたあと、ゆっくりと横浜に戻る。 今年も幸せなお正月になった。 お互いにそう感じた。 |