生まれたての清らかな年を、大好きな男性と迎えられるなんて、こんなにも素敵なことは他にない。 ロマンティックで甘い幸せに浸りながら、真新しい年を一緒に過ごせるなんて、なんて素敵なのだろう。 今年一年の“どうぞよろしく”を沢山込めて、素敵なスタートをきる。 柔らかな朝の光を感じて、香穂子は目覚めた。 傍らでは吉羅がまだ眠っている。 新しい年の一番目の朝陽が見たい。 香穂子が躰を起こそうとすると、吉羅がベッドの中に引きずり込んで来た。 「…暁彦さんっ」 「まだ起きるにはかなり早い…」 吉羅は香穂子を腕の中に閉じ込めると、そのボディラインを意味ありげに撫でて来る。 ここで甘い声を上げると、吉羅のペースにはまってしまう。 それだけは避けたくて、香穂子は何とか堪えた。 どうせならふたりでゆっくりと朝陽が見たい。 「…暁彦さん…、ふたりで新しい年の朝陽を見てみたいんです…」 「…そうか…」 香穂子が懇願するように言うと、吉羅は頷き、躰を起こす。 直ぐにバスローブを羽織ると、香穂子の分も手渡してくれた。 「有り難うございます」 香穂子ははにかんで笑った後、吉羅に華奢な背中を向けてバスローブに袖を通した。 ベッドから下りようとして、吉羅に抱き上げられる。 「窓際までは私が連れて行こう」 「有り難うございます…」 香穂子は嬉しさと恥ずかしさが入り交じるのを感じながら返事をした。 窓辺に吉羅が立ってくれて、そこから美しい朝陽に照らされた横浜の街を見つめる。 生まれ育った場所。 だが今日はとっておきの場所のように思える。 「生まれたての今年一番の朝は、やはり綺麗ですね…」 「そうだね…。今年の初日の出が一番美しいと思えるよ。きっと君と一緒だからかな」 吉羅はそう言うと香穂子に顔を近付けてくる。 「朝陽に照らされた横浜の街よりも、朝陽に照らされた君のほうが美しいと、私は思うがね…」 「…暁彦さんのほうが美しいです」 これが香穂子の本音だった。 朝陽に照らされた吉羅は、本当に神々しいまでに美しい。男の人にこんな言葉を使ってはいけないかもしれないが、本当にこころからそう思った。 「…君は本当に綺麗になったね…。艶が生まれてきた…」 吉羅は声を魅力的に掠らせて甘く囁くと、香穂子の唇を塞いだ。 甘くて優しいキスは、初日の出よりも麗しい。 こんなにもうっとりとするキスは他にはなかった。 キスの後、香穂子はソファの上に下ろされる。 「今朝は朝食を食べた後で初詣に行かなければならないね。ホテルの美容室に予約を入れておいたから、そこで晴れ着に着替えたまえ。君がよく似合う着物を事前に選んでおいた。初詣が済んだら、私の家に行こう。君を三が日が明けるまでは放す気は更々ないからね」 「…暁彦さん…」 吉羅の言葉のひとつ、ひとつが香穂子に幸せを運んでくれる。 それが嬉しくてしょうがない。 「…じゃあ名残惜しいが支度をしようか…。うちに行ったら今夜はふたりで鍋でも食べよう」 「はい」 吉羅ともう一度キスを交わした後、香穂子は支度をした。 愛し合った形跡をなるべくベッドから消したかったが、どう整えても消えないような気がした。 支度をして、和食レストランで朝食を食べる。 朝食はかなり豪華で、雑煮とお節料理のダイジェスト版のようなものが出されて、ゆったりと堪能する。 お屠蘇も出されたが、吉羅が車であるために飲まなかった。 香穂子は美味しい朝食を終えた後、ホテルの美容室へと向かった。 そこで清楚で可憐な振り袖を着付けて貰う。 勿論、着物に似合うメイクをして貰った。 髪も結い上げて貰い、見事に華やいだ初春の女の子になる。 綺麗にして貰い、ほんのりと緊張しながら、吉羅がいるロビーへと向かった。 恋人は気に入ってくれるだろうか。 恋人が「綺麗だ」と言ってくれなければ、お洒落をする意味なんてないのではないかと香穂子は思っていた。 「お待たせしました、暁彦さん…」 声を掛けると、吉羅はスッと立ち上がって香穂子をみつめた。口角に僅かな笑みを浮かばせる。 「…悪くないね…。さ、行こうか」 「はい…」 吉羅に手を引かれて、香穂子は駐車場へと向かう。 何だか究極に愛されたお姫様のような気分になりながら、吉羅を見つめた。 最高の王子様がすぐそばにいる。 香穂子にとってはこれ以上の男性はいないだろうと思う。 それほど吉羅は素敵だった。 吉羅は車でさほど混合わない神社まで連れて行ってくれた。 穴場のそこは、ゆったりと初詣を楽しむことが出来る。 ただ吉羅と一緒にお参りが出来たらそれだけで幸せなのだと、香穂子はこころから思った。 ふたりで今年も素晴らしい一年であるようにとしっかりと祈る。 吉羅とふたりで今年以上に素晴らしい年であればと祈らずにはいられなかった。 「暁彦さん、有り難うございます。物凄く嬉しいです」 「香穂子、新年を期に私からお願いがあるのだが、構わないかね?」 「…はい」 吉羅が余りにも改まって言うものだから、香穂子はほんの少しだけ身構えた。 「何でしょうか?」 香穂子が不安げに吉羅の顔を見上げると、それを払拭するかのように微笑みを浮かべてくれた。 「…堅苦しい敬語は止めて貰えないかな? 私は君にはいつでも対等でいて欲しいからね…」 「暁彦さん…」 勿論、いつもパートナーとして対等でいたい気持ちはある。 だがいつも守ってくれてばかりいるから、敬意を現すために、香穂子は今まで敬語を使って話していた。 「頑張りますね。暁彦さんが堅苦しくないようにね」 「お願いする」 吉羅の笑顔に、香穂子もまた笑った。 「着替えないといけないですね…。何だか勿体ないですけれど」 香穂子は振り袖姿の自分を見て、くすりと笑う。吉羅もまた微笑んだ。 「君の振り袖姿は近いうちに見られなくなるだろうから、私もしっかりと記憶にとどめておかなければならないからね」 吉羅は意味ありげに香穂子を見つめると、手を強く握り締めてくれた。 その言葉に香穂子は甘いドキドキを感じる。 振り袖を着ない。 それは既婚女性の証なのだから。 「それは…」 わざとらしくドキドキしながら吉羅に訊くと、フッと微笑んだ。 「今年中には解ると思うよ…」 吉羅の言葉に、香穂子は鼓動を早めずにはいられなかった。 ホテルに戻って着替える。振り袖が勿体ないような気がしたがしょうがない。 吉羅とふたりで荷物を取りに行った後で、車で六本木にある吉羅の家へと向かった。 流石にお正月のハイウェイは空いていて、スムーズに車が進む。 香穂子は静かに進むハイウェイがとても気持ち良かった。 いよいよ吉羅の家に入る。 初めてではないし、ここで愛し合ったことは何度もあるが、こうしてお正月にいられることが、何よりも嬉しかった。 「鍋の用意をしてゆっくりしよう。今日はよく動いたからね。明日はここでゆったりしよう」 「…はい」 香穂子が笑顔で返事をした後、吉羅が柔らかく抱き寄せてくる。 「お正月はこれからだ。ふたりきりで堪能しよう…」 「はい…。ふたりきりでね…」 ふたりはソファに座り、ゆったりと甘い時間を楽しんだ。 甘い甘いお正月。 これからもずっと甘いお正月が続いたら良い。 香穂子はゆったりとのんびりとした幸せに浸りながら、吉羅に甘えた。 |