吉羅と高級ホテルのロビーで待ち合わせということで、香穂子は些か緊張していた。 いつもよりも背伸びをした服装で行き、待ち合わせ用のロビーで待つ。 待ち合わせ時間ぴったりに、吉羅がやってきた。 高級ホテルにいてもとけこんでしまう、相変わらずのスマートさだ。 吉羅のスーツ姿に、香穂子は思わず見とれてしまった。 「お待たせしたね、行こうか」 「はい」 吉羅はさりげなくエスコートをして、香穂子をレストランに連れて行ってくれる。 レストランは、グルメガイドで最高ランクを獲得するなど、高級レストランとして香穂子もあこがれていた。 内装は、まるでヨーロッパの高級老舗レストランのようだ。 香穂子は緊張しながら、シェフソムリエがエスコートをしてくれる。 吉羅とつきあい始めてから、様々な高級レストランに連れて行ってもらったが、今日のレストランは格式が高い。 吉羅はなれているのか、対応がとてもスマートだった。 香穂子が緊張しているのに気づいてか、シェフソムリエが緊張をほぐすように、シャンパンをグラスに注いでくれる。 「じゃあ、乾杯しようか」 「はい」 吉羅の深みのある笑みを浮かべてくれ、香穂子は損の少し緊張をほぐした。 乾杯をした後は、音楽や本の話題などを話しながら、楽しい時間を過ごす。 レストランの料理は、どれも美味しくて、香穂子は何度も「美味しい」と言い、幸せな気分になった。 流石は最高級レストランだと思う。 デザートまで終わった後、吉羅は香穂子を見つめた。 「香穂子、少し散歩をしないかね? こちらの中庭はすばらしいそうだよ」 「はい、是非、行きたいです」 外は寒いが、吉羅と手を繋いで歩くホテルの中庭は、さぞかしロマンティックだろう。 こちらのホテルの冬のイルミネーションは有名だと聞いており、楽しみだ。 「イルミネーションがすばらしいと聞いているんですよ」 「そうらしいね」 吉羅はうなずいてくれたが、なんだか心はここにあらずといった形だ。 いつもは冷静沈着な吉羅が、今日に限って落ち着きがないように思えた。 イルミネーションにも全く興味がないといった雰囲気だ。 吉羅は香穂子の手をしっかりと握りしめながら、イルミネーションで美しい並木をほとんど見ず、ひたすら歩いている。 まるでどこかを目指しているかのようだ。 「暁彦さん、どこかに行かれるのですか?」 「ああ…」 吉羅はどこか畏まったように返事をしながら、さらに歩みを進める。 イルミネーションも良いが、もっと良いものを用意してくれているかもしれない。 香穂子は素直に吉羅について行くことにした。 吉羅が歩みをゆるめたのは、クラシカルな白亜のチャペルの前だった。 チャペルにもイルミネーションが施されており、幻想的な美しさがある。 「…香穂子、中に入ってみないかね?」 「はい…」 吉羅に言われて、香穂子は静かにうなずく。 チャペルの中もさぞかしロマンティックだろう。 「チャペルの中も解放されているんですね」 香穂子が何気なく言うと、吉羅は言葉が詰まったような呼吸をした。 教会の中にはいると、照明がつけられており、厳かな雰囲気に、香穂子の心は澄んでいく。 「こうして中にはいるだけで、なんだか気持ちが引き締まってきますね」 「そうだね」 吉羅は些か緊張しているかのような声で言うと、祭壇まで香穂子を連れて行ってくれた。 「香穂子…」 吉羅は祭壇の前で香穂子に向き直ると、真摯な表情で見つめてきた。 吉羅の緊張と真剣さが伝わり、香穂子の心も躰も引き締まる。 厳かな照明に照らされて、吉羅はとても美しくすばらしかった。 「…香穂子、ストレートに言う。----結婚、してくれないか」 まさか。 まさか、プロポーズをされるなんて、香穂子は思ってもいなかった。 感動するあまりに、鼓動が激しくなり、足が震えて、呼吸もう上手く出来ない。 うれしくて、うれしくて、しょうがない。 香穂子はうれしさのあまりに、躰をふるわせながら、涙を零した。 あまりのことで返事をすることが出来ない。 「香穂子…?」 「…いつも、暁彦さんにプロポーズされることを夢見ていましたが…、こうしてプロポーズをしてくれるのを予想していなくて…びっくりしました」 香穂子は泣き笑いの表情を浮かべながら、まっすぐ吉羅を見つめる。 「…暁彦さん…あなたの妻になりたい…です。お願いします…」 香穂子は涙声で言いながら、吉羅の手をぎゅっと握りしめる。 「…ありがとう…」 吉羅は感極まった声でつぶやくと、そのまま香穂子を力強く抱きしめてくれる。 イルミネーションよりも、高級レストランの食事よりも、なによりもロマンティックなものが待っていました---- |