*成人の日*


 ようやく吉羅と同じ、大人の仲間入りを果たすことが出来る。

 香穂子にとってそれは、待ちに待ったことだ。

 ようやく愛するひとと同じカテゴリーにいられる。

 成人式の後、吉羅がお祝いをしてくれることになっている。

 一生に一度の成人式を家族と過ごさないのはいけないことだと、吉羅は家族との時間を作ってくれた。

 そのことが両親には更に好印象になり、結局はランチタイムを家族と、ディナータイムは吉羅と過ごすことになった。

 これは本当に有り難いと思わずにはいられなかった。

 

 綿密にタイムスケジュールが立てられた成人式当日は、朝から気が抜けない。

 先ずは予約をしておいた美容室で、髪を結い上げて貰い、着付けとメイクもして貰う。

 振り袖は両親や姉と一緒に選んだもので、香穂子はとても気に入っている。

 綺麗にして、愛する吉羅に成人式を祝って欲しい。

 甘くてロマンティックな成人式を夢見ながら、香穂子はうっとりとした気分になった。

 

 成人式の会場に行くと、懐かしい幼馴染みの顔に混じって、土浦の顔を見つけた。

 指揮科に行き、益々音楽への情熱が感じられる。

 負けられない。

 そう思わずにはいられない好敵手でもある。

 そして戦友だ。

 香穂子は土浦と隣あって腰掛けると、式典に参加する。

「何か、やっぱり着物姿って良いものだな…。見違えるというか…。似合ってる」

「有り難う」

 褒められると素直に嬉しい。

 土浦が照れつつも、熱いまなざしで見つめていることを、香穂子は勿論、気付かなかった。

 

 式典が終わり、幼馴染みや土浦と話しながら、写真を取ったりしていた。

 暫く、友人たちとの交流を楽しんでいると、吉羅が薔薇の花を片手に迎えにやってきた。

 香穂子の家族とランチを食べるためだ。

「香穂子、お待たせしたね」

 吉羅は堂々と香穂子の手をしっかりと握り締めると、そのままエスコートをするかのように歩いていく。

 だが、エスコートをする割には、かなりきつく手を握られていた。

 だが、その力強さが香穂子には心地良い。

 吉羅は、着物の香穂子に気遣ってエスコートをしてくれる。その紳士振りに、香穂子もついうっとりとしてしまう。

「さてと写真撮影の後に、会食だったね」

「はい」

 香穂子が答えた途端に、いきなり吉羅は抱き寄せてきた。

「…あっ…!」

 甘い呼吸をした瞬間に、吉羅は香穂子の唇を深く深く奪ってきた。

 その激しさに香穂子は飲み込まれていく。

 激しく何度も唇を重ねられて、香穂子は息が出来なくなるぐらいのロマンティックを感じていた。

 呼吸が続かなくなるぐらいにキスを受け取った後、吉羅は香穂子をしっかりと抱き締めた。

「…君は私のものだということを、忘れないように…」

 吉羅はいつもの余裕はなく、香穂子に釘を刺すように言った。

 ひょっとして嫉妬してくれているのだろうか。

 それだったら、こんなにも嬉しいことはないのにと思う。

 香穂子はつい笑顔にならずにはいられなかった。

 家族が待っているホテルに迎かい、先ずは写真室に行った。

 香穂子単独、香穂子と両親、そして香穂子と家族の写真を撮ることになっている。

 吉羅はあくまで付き添いなのだ。

 一通りの撮影が終わった後、香穂子の母親とカメラマンが「吉羅も一緒にどうか」と勧められた。

 香穂子はふたりの写真があるのは嬉しくて、つい頷いた。

 吉羅は遠慮をしていたが、最後は写真に収まってくれた。

 素敵な想い出になるのは間違いないからだ。

 香穂子は写真をいつまでも大切にしようと誓った。

 慌ただしく写真撮影の後は会食が設けられ、家族と吉羅で成人であることを祝って貰う。

 それが香穂子には嬉しいことだった。

 誰よりも愛するひとたちに成人式を祝って貰えるなんて、かけがえのないことだ。

 香穂子は、一生に一度の成人式を最高の形で迎えることが出来るのが、何よりも嬉しかった。

 

 食事の後、香穂子は一旦家に戻り振り袖から、品のあるワンピースに着替えて、吉羅とふたりきりのお祝いに向かう。

 ここまでは本当にハードスケジュールでバタバタとしていたから、吉羅の車に再び乗り込んだ時には、ホッとしたのが本音だった。

「少しホッと力が抜けました」

「そうだね…。これからはゆっくり出来るからね。私たちのペースを守ろうか」

「はい」

 吉羅とドライブがてら横浜の街を回る。

 冬至を過ぎたせいか、随分と明るくなってきたような気がする。

 驚くほどのスピードで昼が長くなっているのだ。

 香穂子は時は確実に流れているのだと、感じずにはいられなかった。

 ふたりで横浜の街を回るのはいつものことだというのに、今日はとても幸せで新鮮な気分だった。

 もう大人だからかもしれない。

 いずれにせよ今日の横浜は、いつもよりも落ち着いていて、とても大人の雰囲気だった。

 

 ドライブの後は、お祝いのディナーだ。

 吉羅に連れていって貰ったことがある、生演奏を聴くことが出来るレストラン。

 初めて本格的なディナーを楽しんだ想い出の場所だ。

 香穂子は落ち着いて吉羅と食事を楽しむ。

 こうして本格的なディナーのマナーも、総て吉羅から教えて貰った。

 大人の女性になるステップアップの手助けをして貰った。

 だからこうしていられるのは、吉羅のお陰なのかもしれない。

「私は車だから飲まないが、君はお酒は如何かな?」

「今夜、暁彦さんと乾杯しますから、その時にします」

「そうか」

 吉羅は蕩けてもまだ甘さを放つ蜂蜜のような笑顔を向けてくれる。

 甘い笑みにうっとりとしてしまう。

「…暁彦さん、色々と有り難うございます。暁彦さんがいたからこそ、少しずつ大人へのステップアップが出来たんです」

 香穂子は吉羅に感謝しながら、それでいて真直ぐなまなざしを送った。

「こちらこそ。君にはいつも楽しませて貰っているよ。幸せな気持ちにさせて貰っているよ。私こそ有り難う」

「暁彦さん…」

 吉羅は香穂子の手をさり気なく握り締めてくれた。

 しっかりと手を握り締められて、香穂子は胸がいっぱいになった。

「私こそいっぱい有り難うございます」

 香穂子は素晴らしい音楽を聴きながら、幸せな成人式の夜だと思わずにはいられなかった。

 

 素晴らしいレストランディナーの後は、ふたりでみなとみらい地区のホテルに宿泊する。

 ベッドに入る前、ふたりはみなとみらいの美しい夜景を見つめながら、乾杯をする。

 吉羅がシャンパンを用意してくれたのだ。

「香穂子…、成人式おめでとう…」

「有り難うございます」

 ふたりはにっこりと微笑みながら、シャンパンに口づけた。

 ほんのりと甘い。

 香穂子に合わせて、吉羅が手配をしてくれたのだ。

 シャンパンを飲むと、ふたりはそっと唇を重ね合わせる。

 キスはシャンパンの味。

 大人の味だ。

 ふたりで顔を見合わせて、フッと笑う。

「愛しています、暁彦さん。まだまだあなたと同じステージにいるわけではないけれど、もっと頑張って並ぶことが出来るように頑張りますね」

「君はそのうち、私なんて追い越してしまうよ。そのうち…いや、近いうちにね…」

「暁彦さん…」

 吉羅は香穂子を引き寄せるとしっかりと抱き締め、深いキスをしてくる。

「…香穂子、いつまでも一緒にいよう…」

「はい…」

 香穂子が返事をすると、吉羅はそのまま抱き上げてベッドへと運ぶ。

 ロマンティックで素晴らしい夜が始まる。



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