長い夜のロマンス


 今夜は一年で一番夜が長い日。
 夜が長いからこそロマンティックな想いに浸ることが出来る。
 今夜はスペシャルナイトなのだ。
 吉羅とふたりで過ごす、甘くて長い素敵な夜だ。

 今年の冬至はタイミングよく日曜日だった。
 本当は日曜日の夜に、いつも吉羅の家から帰るのだが、今回は月曜日の朝に帰る予定だ。
 ロマンティックな冬の夜を見逃すなんて勿体ないから。

 吉羅とふたりで今夜は鍋を囲む。冬至の日にはぴったりのメニューだと思う。
 築地で食材をふたりで選んだのだから。
 髪をラフにお団子にして、赤いセーターにジーンズ。そんなカジュアルな雰囲気が似合う、優しい雰囲気の夜だ。
 吉羅もいつもに比べるとかなりカジュアルなスタイルだった。
「いつもは日曜日の夜が切ないんですけれど、今夜は楽しいです」
 香穂子は取り皿と箸を並べながら、ご機嫌に呟く。
「そうだね。…その分、明日の朝が何処か辛いね」
「…はい」
「だが、水曜日のクリスマスイヴには直ぐに逢えるから、いつもほどではないのかもしれないがね」
「そうですね」
 香穂子はにっこりと微笑んで頷いた。
 年末から年始にかけて楽しいイベントが盛り沢山になる。
 冬至、クリスマス、大晦日、お正月、そして吉羅の誕生日。
 年末はスペシャルなイベントが多くて、香穂子にとっては最も楽しむことが出来るのだ。
 ふたりはいただきますをすると、ゆっくりと食事を始めた。
「やっぱり寒い時期にお鍋は良いですね。温かくなるから」
「そうだね」
 ふたりは顔を見合わせて、つい微笑みあった。
 最近、外のレストランと同じぐらい家の中の食事がとてもロマンティックに思えた。
「こうしてふたりでゆっくりと過ごす夜が、今はとても素敵に思えます。暁彦さんとふたりで、こうしていることが何よりも嬉しいです」
「そうだね。私もこうやってふたりで過ごすのが、こんなにも楽しいものだとは思ってもみなかったよ。こういう温かい雰囲気が素晴らしいのだと、君が教えてくれた。感謝しているよ」
「私こそです」
 香穂子はにっこりと微笑むと、もりもりと鍋の中の具材を食べる。
「夜が長いと、とてもゆったりと出来るのが良いね」
 吉羅の言葉に、香穂子はにっこりと頷いた。

 食事を終えて、ふたりで後片付けをした。
 ふたりでゆったりと過ごすためだ。
 吉羅がホットワインを淹れてくれ、デザートには冬至にふさわしい、甘いパンプキンプリン。
 ロマンティックな時間が始まる。
 勿論、長い夜にふさわしい曲をヴァイオリンで演奏するのも忘れてはいない。
 香穂子がヴァイオリンを奏でると、吉羅は静かに聴いていてくれている。
 香穂子は吉羅がゆったりと聴いてくれているのが嬉しくて、更にヴァイオリンの演奏に熱を籠らせた。
 ヴァイオリンを奏で終わると、直ぐに吉羅に抱き寄せられる。
「…あ…」
「冬至にふさわしい曲だね。どうも有り難う」
 吉羅は低い艶と甘さのある声で呟くと、香穂子を更に強く抱き締めた。
「…暁彦さん…」
「…君のヴァイオリンは私をこころから癒してけれるね…。こうしてひとりで君の奏でるヴァイオリンを聴くのは特権だね」
「そう言って貰えると嬉しいです…」
 吉羅は香穂子の唇に自分の唇を重ねてくる。
 ご褒美の甘いキスだ。
 ほんのりと豊潤なワインの味がした。
「…甘くて美味しいです」
「君もね」
 お互いに微笑みあった後、香穂子はヴァイオリンを片付ける。
 香穂子がフローリングの上に腰を下ろすと、吉羅が膝枕をしてきた。
 ふたりの甘い暗黙の了解だ。
「明日からまた忙しいですか…?」
「年末だからね。忙しいが、クリスマスには君に逢えるし、年末年始は君と過ごすことが出来る。以前よりも頑張れるんだよ」
「…暁彦さん。私も精一杯頑張れるのは、やはりあなたがいるからです。あなたにいっぱい癒して貰っていますから…」
「それは嬉しいね…」
 吉羅の言葉に、香穂子はにっこりと頷いた。
 灯を落としてアロマキャンドルを灯して、長い夜をゆったりと演出する。
 こんなにもときめく日はなかなかないのだから。
「夜が長いのも良いかもしれないね」
「そうですね。夜が長いとロマンティックな気分になりますから」
 香穂子がくすりと笑いながら吉羅の髪を優しく梳くと、年上の大好きな男性は、幸せそうに目を閉じてくれた。
「…ゆっくりと休んで下さいね…」
「有り難う…」
 吉羅が安心して眠ってくれているのを見守るのが、何よりも幸せに思える。
 香穂子はいつまでも吉羅をこうして癒していたかった。

 三十分ほどじっとしていると、吉羅がゆっくりと目を開けた。
 その瞳が本当に美しいと思う。
「…足が痺れただろう…?」
「大丈夫ですよ…」
「今度は君が休みなさい」
 吉羅は躰を起こすと、香穂子の腿を軽く撫で付けてくれた。
「…有り難うございます。だけど大丈夫…きゃっ!」
 いきなりフローリングに押し倒されてしまい、香穂子はうろたえてしまう。
「…あ、あの、暁彦さん…っ」
「…君にもっと癒されたい…」
 吉羅は深い官能的な声で呟くと、香穂子の唇を艶のある角度で奪ってきた。
「…んっ…!」
 舌を深く入れられて、しっかりと愛撫をされる。それだけでくらくらしてしまう。
 唾液を交換するような深いキスを交わした後、吉羅は、香穂子のセーターの中に手を忍ばせてくる。
「…あっ…」
「長い夜だから、楽しまないとね? 君と温もりを共有したい…」
「…はい…。暁彦さん…」
 香穂子ははにかみながら呟くと、吉羅にその身を任せた。

 床の上で気怠くふたりで横たわっていると、吉羅に抱き上げられる。
「バスタイムだよ。香穂子。今夜は夜が長いし、柚子湯に入ると無病息災を祈れるからね…。ふたりでゆったりと楽しもう…」
「…はい。だけど少し恥ずかしい…」
「恥ずかしがる必要なんかない。私と一緒なんだからね」
「大好きなひとと一緒だから、恥ずかしいんです…」
「そういうものかね?」
「そういうものです…」
 香穂子がはにかんで俯いていると、吉羅はからかうような甘いまなざしを向けて来た。
「君は本当に可愛いね」
 吉羅は香穂子をバスルームまで連れて行きながら、瞼にキスをしてくる。
 その甘さに香穂子はうっとりとしてしまった。
「暁彦さんのクールなところも大好きだけれど、こうして甘い優しさも大好きなんですよ」
 香穂子が甘い笑みを浮かべると、吉羅はフッと照れくさそうに笑った。
「私が甘やかせるのは君だけだよ」
「嬉しいです」
 吉羅が自分にしか見せない顔を持っているのを知っているからこそ、嬉しいのだ。
 バスルームまで運んで貰い、ふたりでゆったりとバスタブにつかる。
 吉羅に背後から抱き締められて、ゆったりとするのが何よりも幸せだ。
 恥ずかしいが、こうしていると安心出来るのが嬉しい。
 こうしているだけでほわほわとした幸せがこころを満たしてくれるのが解る。
「…本当に幸せな気分です」
「私もだ…。こうやって君をいつまでも離さないからそのつもりで」
「私も離れませんから」
「お互いにずっと一緒にいよう…」
「はい」
 ふたりはたゆたゆとした幸せな時間を過ごす。
 夜は長いほうが良いから。
 ゆっくりと過ごすのにはちょうど良い。
 ふたりで躰を充分温めた後、素早く着替えてベッドに潜り込む。
 ふわふわと温かくて、香穂子はうっとりとまどろんだ。
「おやすみ。最高の長い夜になったよ」
「私もです。おやすみなさい」
 きっと素晴らしい夢が見られる。
 香穂子はそう思いながら、ゆっくりと目を閉じた。


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