5
何度となく夢見心地な気分で、香穂子は吉羅と愛し合った。 これほどまでの幸せはないのではないかと思うぐらいに、幸せな夜だった。 吉羅に溺れ、溺れられて、こんなにもロマンティックな日はないのではないかと思った。 心地好い疲れと幸せを手に入れて、まろやかな気分で愛する男性と眠りにつく。 両手ではとてもではないが抱えきられない幸せを感じた。 吉羅に、そして出会うきっかけを作ってくれたファータに、心からの有り難うを呟いた。 翌朝、ゆったりとした気分で目覚めた。 吉羅はまだ眠っている。 なんて綺麗な寝顔なのだろうかと、ついうっとりと見つめてしまう。 吉羅の無防備な姿を見ることが出来るなんて、本当に幸せだと思う。 こんなにも可愛い吉羅の姿を独占することが出来るなんて、こんなにも幸せなことはない。 香穂子はふふっとつい微笑みながら吉羅をじっと見つめていた。 幸せな気分でいると、不意に吉羅の瞳が開かれる。 「どうしたのかね?」 「…え、あ…、あっ!?」 吉羅の腕が伸びたかと思うと、突然抱き寄せられる。 息が出来ないぐらいに力強く抱き締められてしまい、香穂子は喘いだ。 「…き、吉羅さ…っ!」 「…香穂子…。暁彦と呼ばなければ…お仕置だ…」 「…あ、そ、そのっ…」 吉羅は香穂子の唇を塞ぐと、そのまま官能的なキスを浴びせてくる。 最初は悪戯ごころに抵抗をしようと思っていたのに、だんだんと力が抜けてくる。 そのまま甘いキスに溺れてしまった。 「…香穂子…」 吉羅に名前を呼ばれるだけで、もう躰の奥が蕩けてくる。 「…初めての時は慣れるまでなるべく多く愛し合ったほうが良い…」 吉羅は蕩けるように甘い声で呟くと、香穂子を再び愛し始める。 「あ、あのっ…朝だし…」 「時間なんて関係ない…。いつでも愛し合ったら良いんだ…」 「…暁彦さん…」 吉羅に言いくるめられてしまうと、香穂子はそのまま愛の世界に溺れていった。 愛し合った後、香穂子は気怠さでぼんやりとしながら、横で眠る愛しい男性を見つめた。 「狡いです…」 香穂子が拗ねるように言うと、吉羅が片腕で抱き寄せてくる。 「時間に関係なく、私は君が欲しいんだよ…」 「…暁彦さん…」 香穂子が名前を呼ぶと、吉羅は嬉しいのかフッと微笑んでくれる。 その笑みがこの上なく甘い。 香穂子はなんて魅力的で綺麗な男性なのだろうかと思った。 「…本当に綺麗だね…」 「え…? 暁彦さんこそとっても綺麗です」 香穂子が驚いて吉羅を見ると、そのまま微笑んだだけだった。 「…暁彦さん…」 「君は本当に最高に綺麗だね…」 吉羅に囁かれると、嬉しくてしょうがなくなる。 こんなにも甘く囁かれてしまったら、香穂子はとろとろに蕩けてしまう。 「愛しています。暁彦さんが大好き…」 香穂子がはにかんで見つめると、吉羅もまた何処か照れが入った笑みをくれた。 「…私も君を心から愛しているよ…」 吉羅は微笑むと、香穂子の唇に軽い羽根のようなキスをくれた。 ふたりでゆっくり起き出して、身仕度をする。 今日は日曜日だから、まだゆっくり出来るのが嬉しい。 吉羅の前で素顔になるのは何ら抵抗はない。 高校生の頃はずっと素顔だったからだ。 「後でルージュを着けると良い。勿論、私が着けてあげるよ」 「有り難うございます…」 ブランチは吉羅特製のもの。 どれも健康に良さそうで、美味しそうだ。 吉羅がきちんと自炊が出来て、しかも上手いのは意外だった。 これでは香穂子は太刀打ち出来ない。 「…暁彦さん、とても料理がお上手なんですね。とっても美味しいです」 「君にそう言って貰えるのが、私には何よりも嬉しいことだよ」 ふたりで食事をしながら、穏やかな幸せに包まれていく。 こんなにも幸せなホワイトディで良いのだろうかと思うほどだ。 「ご馳走さまでした。あ、後片付けはしますね」 「それは駄目だ」 「どうしてですか…?」 「君はヴァイオリニストだ。指先を痛めてしまったら困るからね」 「…はい…」 しょうがないと思いながら、香穂子は少しは手伝いたいと思う。 「何か手伝えることはないですか…?」 「じゃあ…、テーブルを拭いてくれたまえ」 「はい」 香穂子は、吉羅を手伝えるのが嬉しくて、まるで小学生のようにうきうきとテーブルを拭いた。 後片付けも終わり、香穂子は吉羅にルージュを塗って貰う。 昨日塗って貰ったのとは、少し気分が違う。 昨日よりも官能的な表情になるのは、吉羅によって女にされたからだろう。 吉羅はルージュを丁寧に塗った後で、唇を使ってオフをしてくる。 「…香穂子…、君はこれからどんどん綺麗になるだろう…。その様子をずっと見つめていたい…」 「見つめていて下さい。暁彦さんに見守られているからこそ、私は頑張ることが出来るんです」 香穂子が屈託なく言うと、吉羅は頬をまろやかに包み込んでくれる。 「これからも君が綺麗になっていく様子をずっと見させてくれ…」 吉羅は低い声で囁くと、香穂子の唇にもう一度キスをしてくれた。 「香穂子、きちんと家まで送っていくから、ギリギリまでうちにいてくれないか…?」 「はい…」 吉羅の言葉に香穂子は素直に頷く。 一緒にいたいのは香穂子も同じだからだ。 「…こうなるから…、君に気持ちを打ち明けるのも、君を抱くのもギリギリまで我慢をしていたんだよ…」 「暁彦さん…」 香穂子が吉羅を見つめると、フッと微笑んだ。 「…君に想いを伝えたら抱かずにはいられなくなる。君を抱いてしまったら、君をそばに置かずにはいられなくなる…。歯止めが効かなくなることを解っていたから…、私はそれが出来なかった…」 「…暁彦さん…。私だって同じです…」 吉羅の想いが嬉しくてしょうがなくて、胸がいっぱいになって溢れてしまうぐらいに幸せで、泣きそうになった。 「…暁彦さん…」 名前を呼ぶだけで、声が掠れてしまう。 香穂子は吉羅を見つめると、何とか微笑んだ。 「…暁彦さん…。私もあなたに抱かれたら抱かれずにはいられなくなります。あなたのそばにいたいと、ずっといたいと思わずにはいられなくなります…」 「香穂子…」 それが素直な気持ちだから、香穂子はストレートに言った。 「…これからは君は大学生で…うちの生徒であることには変わりはないが…、それでも君は大人になっていく…。だから、これからは…、先ずは週末から一緒にいることを考えてくれないか…? お互いの予定が上手く重なった週末は、ずっと一緒にいないか…?」 吉羅の言葉に、香穂子は素直に頷く。 お互いに時間が取れる限りは、一緒にいたい気持ちは同じだからだ。 「…はい。有り難うございます…。一緒にいたい気持ちは同じですから、そうしたいです…。私も…」 香穂子が笑みを零しながら言うと、吉羅は抱き締めてくれた。 「…君がヴァイオリニストになるためにサポートをするつもりだ。だからずっとそばにいて欲しい。構わないね?」 「…はい。もちろんです」 香穂子は笑顔で返事をすると、夢が叶うようにと填められたピンキーリングに触れた。 「…近いうちに…、ピンキーリングではなく、この指にリングを填めたいものだね」 吉羅は香穂子の左手薬指に触れてくる。 香穂子は嬉しくて笑みを零す。 幸せな幸せなホワイトディ。 キスをしながら、生涯、忘れられないと思った。 |