*Whiteday Lover*


 何度となく夢見心地な気分で、香穂子は吉羅と愛し合った。
 これほどまでの幸せはないのではないかと思うぐらいに、幸せな夜だった。
 吉羅に溺れ、溺れられて、こんなにもロマンティックな日はないのではないかと思った。
 心地好い疲れと幸せを手に入れて、まろやかな気分で愛する男性と眠りにつく。
 両手ではとてもではないが抱えきられない幸せを感じた。
 吉羅に、そして出会うきっかけを作ってくれたファータに、心からの有り難うを呟いた。

 翌朝、ゆったりとした気分で目覚めた。
 吉羅はまだ眠っている。
 なんて綺麗な寝顔なのだろうかと、ついうっとりと見つめてしまう。
 吉羅の無防備な姿を見ることが出来るなんて、本当に幸せだと思う。
 こんなにも可愛い吉羅の姿を独占することが出来るなんて、こんなにも幸せなことはない。
 香穂子はふふっとつい微笑みながら吉羅をじっと見つめていた。
 幸せな気分でいると、不意に吉羅の瞳が開かれる。
「どうしたのかね?」
「…え、あ…、あっ!?」
 吉羅の腕が伸びたかと思うと、突然抱き寄せられる。
 息が出来ないぐらいに力強く抱き締められてしまい、香穂子は喘いだ。
「…き、吉羅さ…っ!」
「…香穂子…。暁彦と呼ばなければ…お仕置だ…」
「…あ、そ、そのっ…」
 吉羅は香穂子の唇を塞ぐと、そのまま官能的なキスを浴びせてくる。
 最初は悪戯ごころに抵抗をしようと思っていたのに、だんだんと力が抜けてくる。
 そのまま甘いキスに溺れてしまった。
「…香穂子…」
 吉羅に名前を呼ばれるだけで、もう躰の奥が蕩けてくる。
「…初めての時は慣れるまでなるべく多く愛し合ったほうが良い…」
 吉羅は蕩けるように甘い声で呟くと、香穂子を再び愛し始める。
「あ、あのっ…朝だし…」
「時間なんて関係ない…。いつでも愛し合ったら良いんだ…」
「…暁彦さん…」
 吉羅に言いくるめられてしまうと、香穂子はそのまま愛の世界に溺れていった。

 愛し合った後、香穂子は気怠さでぼんやりとしながら、横で眠る愛しい男性を見つめた。
「狡いです…」
 香穂子が拗ねるように言うと、吉羅が片腕で抱き寄せてくる。
「時間に関係なく、私は君が欲しいんだよ…」
「…暁彦さん…」
 香穂子が名前を呼ぶと、吉羅は嬉しいのかフッと微笑んでくれる。
 その笑みがこの上なく甘い。
 香穂子はなんて魅力的で綺麗な男性なのだろうかと思った。
「…本当に綺麗だね…」
「え…? 暁彦さんこそとっても綺麗です」
 香穂子が驚いて吉羅を見ると、そのまま微笑んだだけだった。
「…暁彦さん…」
「君は本当に最高に綺麗だね…」
 吉羅に囁かれると、嬉しくてしょうがなくなる。
 こんなにも甘く囁かれてしまったら、香穂子はとろとろに蕩けてしまう。
「愛しています。暁彦さんが大好き…」
 香穂子がはにかんで見つめると、吉羅もまた何処か照れが入った笑みをくれた。
「…私も君を心から愛しているよ…」
 吉羅は微笑むと、香穂子の唇に軽い羽根のようなキスをくれた。

 ふたりでゆっくり起き出して、身仕度をする。
 今日は日曜日だから、まだゆっくり出来るのが嬉しい。
 吉羅の前で素顔になるのは何ら抵抗はない。
 高校生の頃はずっと素顔だったからだ。
「後でルージュを着けると良い。勿論、私が着けてあげるよ」
「有り難うございます…」
 ブランチは吉羅特製のもの。
 どれも健康に良さそうで、美味しそうだ。
 吉羅がきちんと自炊が出来て、しかも上手いのは意外だった。
 これでは香穂子は太刀打ち出来ない。
「…暁彦さん、とても料理がお上手なんですね。とっても美味しいです」
「君にそう言って貰えるのが、私には何よりも嬉しいことだよ」
 ふたりで食事をしながら、穏やかな幸せに包まれていく。
 こんなにも幸せなホワイトディで良いのだろうかと思うほどだ。
「ご馳走さまでした。あ、後片付けはしますね」
「それは駄目だ」
「どうしてですか…?」
「君はヴァイオリニストだ。指先を痛めてしまったら困るからね」
「…はい…」
 しょうがないと思いながら、香穂子は少しは手伝いたいと思う。
「何か手伝えることはないですか…?」
「じゃあ…、テーブルを拭いてくれたまえ」
「はい」
 香穂子は、吉羅を手伝えるのが嬉しくて、まるで小学生のようにうきうきとテーブルを拭いた。

 後片付けも終わり、香穂子は吉羅にルージュを塗って貰う。
 昨日塗って貰ったのとは、少し気分が違う。
 昨日よりも官能的な表情になるのは、吉羅によって女にされたからだろう。
 吉羅はルージュを丁寧に塗った後で、唇を使ってオフをしてくる。
「…香穂子…、君はこれからどんどん綺麗になるだろう…。その様子をずっと見つめていたい…」
「見つめていて下さい。暁彦さんに見守られているからこそ、私は頑張ることが出来るんです」
 香穂子が屈託なく言うと、吉羅は頬をまろやかに包み込んでくれる。
「これからも君が綺麗になっていく様子をずっと見させてくれ…」
 吉羅は低い声で囁くと、香穂子の唇にもう一度キスをしてくれた。

「香穂子、きちんと家まで送っていくから、ギリギリまでうちにいてくれないか…?」
「はい…」
 吉羅の言葉に香穂子は素直に頷く。
 一緒にいたいのは香穂子も同じだからだ。
「…こうなるから…、君に気持ちを打ち明けるのも、君を抱くのもギリギリまで我慢をしていたんだよ…」
「暁彦さん…」
 香穂子が吉羅を見つめると、フッと微笑んだ。
「…君に想いを伝えたら抱かずにはいられなくなる。君を抱いてしまったら、君をそばに置かずにはいられなくなる…。歯止めが効かなくなることを解っていたから…、私はそれが出来なかった…」
「…暁彦さん…。私だって同じです…」
 吉羅の想いが嬉しくてしょうがなくて、胸がいっぱいになって溢れてしまうぐらいに幸せで、泣きそうになった。
「…暁彦さん…」
 名前を呼ぶだけで、声が掠れてしまう。
 香穂子は吉羅を見つめると、何とか微笑んだ。
「…暁彦さん…。私もあなたに抱かれたら抱かれずにはいられなくなります。あなたのそばにいたいと、ずっといたいと思わずにはいられなくなります…」
「香穂子…」
 それが素直な気持ちだから、香穂子はストレートに言った。
「…これからは君は大学生で…うちの生徒であることには変わりはないが…、それでも君は大人になっていく…。だから、これからは…、先ずは週末から一緒にいることを考えてくれないか…? お互いの予定が上手く重なった週末は、ずっと一緒にいないか…?」
 吉羅の言葉に、香穂子は素直に頷く。
 お互いに時間が取れる限りは、一緒にいたい気持ちは同じだからだ。
「…はい。有り難うございます…。一緒にいたい気持ちは同じですから、そうしたいです…。私も…」
 香穂子が笑みを零しながら言うと、吉羅は抱き締めてくれた。
「…君がヴァイオリニストになるためにサポートをするつもりだ。だからずっとそばにいて欲しい。構わないね?」
「…はい。もちろんです」
 香穂子は笑顔で返事をすると、夢が叶うようにと填められたピンキーリングに触れた。
「…近いうちに…、ピンキーリングではなく、この指にリングを填めたいものだね」
 吉羅は香穂子の左手薬指に触れてくる。
 香穂子は嬉しくて笑みを零す。
 幸せな幸せなホワイトディ。
 キスをしながら、生涯、忘れられないと思った。



Back Top