大型連休が始まったが、前半は吉羅は仕事を片付ける為にかなり忙しく、逢えなかった。 ようやく後半に入った昨日の夜から、ふたりで過ごすことが出来るようになった。 吉羅に抱き締められながら、気怠く目を開ければ、柔らかな陽射しがブラインドの隙間から差し込んできた。 美しくも麗しい朝の光に、香穂子はにっこりと微笑んでしまう。 ベッドサイドにあるデジタル時計に視線を向けると、7時半の表情。 まだ少し早い感じだ。 昨夜は吉羅と熱くも甘い夜を過ごしたせいか、余り寝てはいない。 だが、愛するひとを沢山チャージをしたことは大きくて、快適な目覚めを得ることが出来た。 疲労は殆ど感じてはいない。 香穂子は、吉羅の為に朝食を作ろうと躰を起こそうとしたところで、強く抱き寄せられた。 「…起きるのにはまだ早いだろう…?」 吉羅の甘くて低い声が響き、香穂子はにっこりと微笑んだ。 「起きていらっしゃったんですか?」 「君が身動ぎをしたからね…。私はどうも…、君と一緒に眠る時は上質な眠りを得ることが出来るのと同時に、離れられると、直ぐに目覚めてしまうんだよ…。放したくはないとね…」 吉羅は香穂子を抱き寄せると、甘えるように頭を肩に押しつけてくる。 「暁彦さん」 香穂子は吉羅の髪をゆっくりと撫でながら、まるで母親のように抱き締める。 「お疲れですか?」 「いいや。君を沢山チャージをしたから精神的には疲れてはいないよ。だが、肉体的には少しばかり疲れているのかもしれないね。だが、君とこうしてうとうとまどろんでいたら、今日一日で解消出来そうだ。明日は一緒に出掛けよう。君の好きな場所へ」 「こうして一緒にいられるだけで、私は幸せなんですよ。だからふたりでこうしてのんびりと過ごすのも、また幸せです」 「君がそう言ってくれると、私は嬉しいけれどね。だが、ドライブにでも行こう。私も車を飛ばせば、爽快な気分になるからね」 「嬉しいです」 香穂子がギュッと抱き締めると、息が出来なくなってしまうほどに強く抱き締められる。 「君がいるからギリギリまで頑張ることが出来るんだ。感謝しないといけないね」 「私だって感謝していますよ。本当に沢山…」 香穂子がにっこりと笑うと、吉羅は更に肌を押しつけてきた。 「…君とふたりきりの時は、こうして甘えてみたくなる…。私が甘えられるのも、弱さを見せられるのも、君が相手だからなんだろうね…」 香穂子は、こうして甘えて貰えることが嬉しくてしょうがなくて、吉羅のこころごと包み込むように抱きこむ。 「…だったら今日はたっぷりと甘えて下さい」 「有り難う…」 吉羅は静かに笑うと、目を閉じる。 吉羅が望む限り、こうして甘えさせてあげたい。 香穂子はただ吉羅の逞しい背中を撫で続けていた。 少し遅めのブランチを取った後、ふたりはお互いにのんびりとした時間を過ごす。 特に血気盛んに話すこともせず、ただお互いにその存在だけで温もりを感じている。 香穂子は時折、英語で書かれた経済誌を読み耽る吉羅の横顔を見つめては、幸せな気分になっていた。 何も語らずに、ただこうしてそばにいられるだけで幸せなのだ。 それを噛み締める瞬間が、何よりも嬉しい。 「…香穂子」 名前を呼ばれて吉羅に笑みを浮かべると、いきなり膝枕をされる。 もう何度吉羅の膝枕になっただろうか。 本当に数えきられない程だ。 だがこうして愛するひとの膝枕になるというのは、ある意味、躰で愛し合うよりも親密な気がする。 香穂子は吉羅の髪を撫でながらこうして寝顔を眺めるのが、何よりも好きだった。 かなり年上で、いつも香穂子をリードしてくれる吉羅が、こうして甘えてくれる。まるで幼い少年のようだ。 香穂子には愛しくてしょうがない。可愛いとすら思ってしまう。 額を撫でてみたり、髪を撫でてやったりすると、こちらのほうが満たされる。 吉羅は眠ってしまったようで、寝息がかすかに聞こえた。 こうして周りを気にすることなく、ふたりで過ごせるというのは、かけがえのない贈り物だ。 香穂子は、吉羅が目覚めるまでの間、暫くじっとしていた。 たゆたゆとした時間の流れから覚めるように、吉羅はゆっくりと目を開ける。顔色は随分戻ったように見えた。 「…随分と長く眠ってしまったようだね。私は…」 「気持ち良さそうでしたよ」 「君のそばにいると、私は熟睡出来るからね。恐らくはそれでだよ。とてもよく眠れるんだよ。君は私に何か魔法でもかけたんじゃないかと思う程にね」 吉羅がフッと微笑むと、香穂子も思わず笑った。 「…起きようかな。明日のドライブの計画も立てなければならないからね」 吉羅が起き上がったが、香穂子は足が痺れてしまって、暫くは立ち上がることが出来なかった。 「大丈夫かね!?」 「足が痺れてしまったんですけれど、直ぐに治ると思います」 香穂子が舌をペロリと出して言うと、吉羅は済まなさそうに見つめてくる。 「すまないね…。私が膝枕をさせたばっかりに…」 「大丈夫ですよ。私、暁彦さんに膝枕をするのがとても好きなんです」 香穂子はにっこりと笑うと、吉羅を無邪気に見上げた。 「脚を伸ばしてじっとしているだ」 「はい」 吉羅の言う通りにしていると、かなり痺れが軽くなっていく。 「随分とましですよ。お気遣い有り難うございます」 香穂子は、足をひょこひょこと動かして、痺れた状態を確かめていた。 「ったく、君はどうしてそんなにも可愛いんだ…」 吉羅は、香穂子を抱き締めると、まるで欲望を見せつけるように深みのあるキスをしてきた。 深くて自分の力ではどうしようも出来ない程のキスをされて、香穂子は今度は別の意味で立ち上がれなくなる。 吉羅にキスをされた後は頭がぼんやりとしてしまい、困ってしまった。 「立てない? まだ?」 「暁彦さんが…こんなキスをするから…」 恨みがましく言うと、吉羅は苦笑いを浮かべていた。 「立ち上がれないようだが、ベッドに運ぼうか?」 「…だ、大丈夫…。ベッドは…。それよりもご飯の支度をしなくっちゃ」 香穂子が焦るように言うと、吉羅は面白がるように微笑むだけだ。 「今日は私が夕飯の準備をしよう。君は座って待っていたまえ」 吉羅は香穂子を軽々と抱き上げると、ダイニングチェアーに座らせてくれた。 「今日はサラダと簡単にパスタで構わないかね。イベリコ豚を使ったハムもあるから、それを前菜に添えたら良いし」 「本当に見ているだけで良いんですか? 暁彦さんは疲れているのに…」 「疲れていないよ。肉体的にもね、もう。君が枕になってくれたお陰で、休息を取ることが出来たしね」 吉羅はカフェエプロンをしながら、機嫌良さそうに言ってくれる。 仕立ての良いカッターシャツに、黒いスラックス。それにカフェエプロンがオプションに着けば、うっとりする程に素敵なシェフの誕生だ。 香穂子は、吉羅が大胆さと繊細さを交互に使いながら作る様子をじっと見ていた。 夕食はとても美味しくて、香穂子は何度も笑みを浮かべた。 食べた後の後片付けも食器荒い乾燥機任せだから楽だ。 こんな休日も楽しいし、充実している。 「こういう休日も良いですね。楽しかったです」 「今日はまだ終わったわけじゃない。お楽しみはこれからだ」 吉羅は静かに甘く呟くと香穂子を抱き上げる。 本当の意味での甘い休日が始まる。 |