吉羅の仕事の関係で、香穂子は一緒に神戸へと向かった。 神南高校と、業務提携の話し合いをするためだ。 お互いに港のある都市部の学校で共通点も多い。 交流面や大学が併設されている星奏にはメリットが多いとのことで、吉羅は積極的に交渉している。 吉羅がビジネスをしている間、香穂子は神戸や比較的近い大阪の観光をすることにした。京都も観光したかったが、今回は距離的な問題もありあきらめたのだ。 香穂子は、神戸のスウィーツ店をチェックしたりして、吉羅とふたりの観光に思いを馳せる。 観光を兼ねて連れて来て貰ったのがとても嬉しかった。 色々と見て回った後、吉羅と待ち合わせの場所に向かった。 これからふたりでロマンティックな観光が出来ると思うだけで嬉しい。 香穂子が到着するのと同時に、吉羅もやってきた。 「お待たせしたね、香穂子」 「暁彦さん」 香穂子がにっこりと微笑みながら手を差し出すと、吉羅はしっかりと手を握ってくれた。 「では行こうか。今日は朝が早かったからね。その分のんびりと出来るね」 「お話は済みましたか?」 「ああ。上手くいった」 「それは良かったです」 香穂子は商談が上手くいったことを嬉しく思いながら、にっこりと微笑んだ。 吉羅とは昨夜遅くに神戸に入った。 遅い時間の新幹線に乗り込んだものだから、ホテルに着いたのは深夜だった。 愛し合うことなく、ふたりはただ抱き合って眠った。 今日と明日はのんびりと過ごすことが出来る。 香穂子にとってはそれが何よりも嬉しかった。 いつも多忙な吉羅だから、こうしてのんびりと旅行をするチャンスなんて滅多にない。 だからこそ今回の神戸旅行は嬉しかった。 「先ずはランチを食べて、その後に異人館を回ろうか。合間に神戸ならではのスウィーツを食べたいものだね」 「はい」 吉羅とは食べ物の趣味が合うから、どこに行っても大丈夫だ。 「暁彦さんは神戸に詳しいですか?」 「余り詳しいとは言えないね。仕事関連で来ることばかりだから。だが、食べ物関係なら、それなりに知っているがね」 「それは頼もしいです」 「まあ余り期待しないでくれよ」 吉羅は苦笑いを浮かべると、香穂子の手をギュッと握り締めた。 吉羅が連れていってくれたのは、落ち着いた雰囲気が素晴らしいステーキ専門のレストランだった。 アンティーク家具に囲まれて、うっとりするような雰囲気だ。 それにくわえて、また料理がシンプルで美味しかった。 香穂子は神戸まで来たかいがあったと思う。 「美味しいです!」 「神戸は牛肉が有名だからね。ここは以前来た時にとても美味しかったからね」 「本当に美味しいです」 「ああ。のんびりと食べようか」 「はい」 美味しい肉を食べると元気になるのが不思議だ。 香穂子はめいいっぱい笑顔になった。 「幸せな気分です」 「だったら、異人館に行って、もっと幸せな気分になろうか。君が好きなね?」 「はい。嬉しいです」 香穂子はどんなにロマンティックな雰囲気を楽しめるのかを楽しみに、ランチを食べていた。 ふたりは異人館が建ち並ぶ坂道へと向かう。 「横浜よりも随分と建物が残っていますね。嬉しいぐらいに」 「ああ。だがこれでも阪神大震災で少なくなったようだよ。横浜も関東大震災でかなり壊れたから残ってはいないがね」 「そうなんですか」 香穂子は美しい異人館を眺めながら、うっとりとする。 横浜で生まれ育ったせいか、このようなロマンティックな建物に憬れるのだ。 異人館の中でも店として運営しているところもある。 その中で、香水の小瓶と香水を調合販売している店を見つけた。 小瓶のデザインがロマン溢れてとても可愛い。 神戸らしいデザインだと、香穂子は思う。その中でも特に気に入ったデザインがあり、香穂子は手に取った。 「この小瓶はとても可愛いですね」 香穂子は薄紅色をした優美なデザインの小瓶に惹かれる。 本当にロマンティックな雰囲気を持っている。 「これにします。これに香水を調合して貰います」 香穂子はうっとりとした気分になると、小瓶を手に取った。 「ではこの小瓶に香水を入れて下さい」 吉羅がさり気なく言うと、香水調合師の女性はにっこりと笑って頷いてくれた。 「有り難うございます」 「ではどのような香りが良いのですか?」 「花の香りが好きなんです。薔薇だとか白百合だとか…」 「ではトップノートが白百合で最後が薔薇という、爽やかな花そのものの香りがする柔らかな香水はいかがですか?」 流石は調合師だ。 香穂子の好みを直ぐに察してくれる。 それは本当に嬉しいことだ。 「はい、有り難うございます。ではそれで、香水を作って頂いても構わないですか?」 「分りました。では、調合しますのでお待ちくださいね」 香穂子はまるで小さな子供のようにわくわくしながら香水が調合される様子を見つめる。 本当に素晴らしい香りで酔い痴れてしまいそうだ。 香穂子は笑顔で吉羅を見上げると、フッと微笑んでくれているのが分る。 「その香りは君にぴったりだろうね。少なくとも私のイメージ通りではあるがね」 「有り難う…。花の香りが本当に好きなんですよ」 香穂子は期待しながら調合が出来るのを待っていた。 「このような香りはいかがでしょうか?」 調合師が差し出してくれた香りは、優しい陽射しを浴びて香り立つ花の匂いがした。 まるで花園にきたような香りだ。 香穂子は嬉しくて、つい笑顔になった。 「有り難うございます。とっても良い香りです。気に入りました」 香穂子は香りを満足そうに嗅ぐ。 「暁彦さんも、嗅いでみて下さい」 「ああ」 どうか吉羅が気に入ってくれますように。 吉羅が気に入ってくれたら、この香りにしようかと思う。 「とても素敵な香りだね。君にぴったりだね。ただ、爽やか過ぎる。これに少し大人の甘さを入れてくれませんか…?」 「はい、畏まりました」 調合師は大人の爽やかさを演出するために、更に調合をしてくれる。 「こちらではいかがでしょうか?」 吉羅とふたりで香水を嗅ぐ。 先ほどよりもグッと大人の女性の香りになった、 少し背伸びをしているようにも思えるが、香穂子にとっては憧れの香りだ。 うっとりとすると言っても過言ではない。 「私はこの香りが君に似合っていると思っているが、香穂子、君はいかがかね?」 「好きな香りです」 「だったら良かった。君がこの香りを気に入っているんだったら、これにしようか」 「はい」 ふたりで意見を出して作った香水。 これ以上の香りは、世界中、何処を探してもない。 香穂子は最高に素敵なプレゼントを貰った気分だった。 「よい香りです。何だかうっとりとしますね」 「そうだね」 「この香水をこちらの瓶に入れて下さい」 「有り難うございます。では直ぐに準備を致しますね」 「お願いします」 香水が小瓶に詰められるのを待ちながら、香穂子は期待で胸をいっぱいにする。 「今、こちらを着けられますか?」 「はい」 お試し用にと、少しだけではあるが分けて貰った。 「私が着けよう」 「あ…」 吉羅が耳の後ろに香水を着けてくれる。 なんてロマンティックなのだろうか。 最高の香水を身に着けて、最高の恋人と過ごす神戸の時間。 「今日は素敵な一日にしよう」 「はい」 ふたりの素晴らしき休日は始まったばかり。 |