いつもよりも早く目覚めてしまった。 頭がスッキリしている。 香穂子はベッドの上で思いきり伸びをする。 横には大好きなひと。 大好きなひとと一緒に過ごすことが出来る朝が、香穂子は一番好きだ。 隣にいる吉羅と温もりをシェアをする。 それだけで幸せで幸せでしょうがない。 つい、笑顔が溢れてしまうのだ。 本当に幸せで、満たされていて、今なら何でも出来るのではないかと、錯覚してしまうほどだ。 今日もスッキリと目覚めた。 幸せで満たされているからだろうと、香穂子は思わずにはいられない。 ふたりで朝を迎えるようになって最初の方は、吉羅のほうが早起きのことが多く、いつも無防備な寝顔をたっぷりと見せつけてしまっていた。 出遅れた。 そんな感覚が大きかった。 だが、今は違う。 吉羅も完全に香穂子に気を許してくれているからか、無防備な寝顔を見せてくれるようになった。 香穂子は、吉羅の寝顔を見つめるのが、本当に大好きだ。 少年のように無防備で、香穂子に総てをさらけ出してくれているように思えるから。 香穂子は、吉羅の寝顔を見つめるだけで、夢見心地なぐらいに幸せになれる。 ときめきとドキドキが交差して、とてもすてきな気持ちになるのだ。 男らしいのに、精微なまでに整っていて美しく、更に可愛いところもある。 香穂子にとっては、理想過ぎるひとだ。 素敵すぎて、香穂子は、暴れたくなった。 暫く、吉羅の寝顔を堪能した後、香穂子はベッドから起き上がろうとする。 すると、いきなり隣の吉羅に腕を掴まれる。 「暁彦さんっ!?」 「……まだ、起きるのは早い……」 吉羅は眠そうな色気のある声で呟くと、香穂子を抱き締める。 「……もう少しだけ、寝ていても構わないだろ?」 「頭もスッキリしているので、眠るのは勿体ないって思っているんです」 「起きるほうが、勿体ないよ……。今日は折角の休みなんだからね……」 吉羅は全く起きる気力などないらしい。 更に香穂子を深く抱き締めてくる。 「暁彦さんの大好きな茶粥を作りますから」 「……そんなことで、私は騙されないよ……」 「騙してるわけではないですよ」 いつも大人で頼りになる吉羅ではあるが、たまにこうして少年のような態度を捕る。 大概は寝惚けているときなのだが、香穂子にとっては、それがまた、かわいくてたまらない。 「暁彦さん、起きますよ」 「休みの朝は、君を堪能するって、決めていたはずだが、違うかね?」 いきなり寝惚けモードから、いつもの吉羅モードになったかと思うと、香穂子は組み敷かれる格好になった。 「え!?」 「君を朝から堪能しなければね?」 「ちょ、ちょっと、暁彦さんっ!?」 寝惚けたふりをしていたのだ。 やはり年上の恋人は、一枚も二枚も上手だ。 「折角の休みだからね。茶粥よりも素晴らしいものが、ここにあるのだからね」 「暁彦さんのバカ……」 バカなんて言ったところで、吉羅には通じない事ぐらいは解っている。 香穂子はせめてもの抵抗をするしかなかった。 茶粥を食べながら、香穂子はほんの少し恨めしい眼差しを向ける。 「香穂子、何だねその表情は」 「理由は暁彦さんが一番よく解っていらっしゃると思います」 「そうかな」 「そうですよ」 香穂子が拗ねるように言っても、吉羅はクールに惚けるだけだ。 「休日だけの醍醐味だからね。こうして君と一緒にいられるのはね」 「そうですけれど……」 香穂子もそれを渋々認める。 吉羅と一緒にいられる貴重な時間なのだから。 「香穂子、何か行きたい場所だとか、やりたいこととかがあるのかね?」 吉羅に言われると、これというものがなかなか思いつかない。 香穂子は考えあぐねた末に、のんびりとしたいという思いに行き着いた。 「暁彦さん、ふたりでのんびりと散歩がしたいです。公園でお花を見たり、海を見たり」 「解った。じゃあ、横浜までドライブがてら車を飛ばして行こうか」 「はい!」 結局、ドライブと公園散歩。 これしか思いつかない。 吉羅とふたりでのんびりとしたい。 それだけしかない。 食事の後、直ぐに支度をして、ドライブがてら横浜に向けて、車を走らせる。 やはり休日のドライブは最高だと思う。 「君は横浜が好きだね」 「それはそうですよ。生まれ育った場所ですから」 「そうだね。私にとっても生まれ育った場所だが、余り好きにはなれなかった……」 「……え?」 意外な言葉に、香穂子は息を呑む。 まさか吉羅が、横浜を好きになれないと言うなんて思いもよらなかったのだ。 「だが、今は違う。苦い思い出を君が素晴らしいものに変えてくれたからね」 吉羅は懐かしく何処か優しい眼差しを前に向ける。 その眼差しを見つめていると、切ないのに甘い気持が心に滲んだ。 「今日はのんびりと楽しみましょう」 「そうだね……」 吉羅は柔らかい声で、温かに呟いた。 学院の駐車場に車を置き、ふたりで手を繋いで、臨海公園へと向かう。 素敵なロマンティックが彩られた、鮮やかな時間だと思う。 香穂子は、こうして吉羅とふたりで歩くだけで幸せだと思う。 「ばら園はまだ寂しいですね。また、満開の時に一緒に来ましょうね」 春はもうすぐ。 ばら園の薔薇も、それを敏感に感じ取っているのか、蕾を確実に成長させている。 「そうだね、また、来よう。その前に桜はいかがかね?」 「はい!是非、見たいです!」 吉羅と見る桜は、香穂子には最高に嬉しいものだ。綺麗で輝いていて、そして何処か儚いのが素晴らしい。 「……こうしてばかりいるから、私は横浜に戻ってきたほうが良いのかもしれないね。歩いて来られたら、君とのんびりと出来るしね」 「今よりも会う頻度が多くなりそうで、私は嬉しいですよ」 「そうだね……」 吉羅は、ここまで言ったところで、歩みを止めると、香穂子と向き直った。 「香穂子、横浜に戻って来たら、一緒に暮らさないか?」 吉羅は真っ直ぐ香穂子だけを見つめ、その手をしっかりと握り締めてくれている。 まさか、そんなことを言われるなんて、期待すらしていなかったから、香穂子は泣きそうになった。 「はい、暁彦さん。お願いします」 「有り難う」 喜びに裏打ちされたキスをする。 これからの休日は、よりご機嫌なものになると感じながら。 |