今日は成人式。 香穂子もようやく大人の仲間入りになる。 二十歳のバースデーに吉羅と結婚し、独身ではない成人式になる。 それでも吉羅は、両親が喜ぶようにと、今日のために振り袖を用意してくれた。 一度しか着ないのだから必要ないのではないかと吉羅には言ったのだが、それでも押し通されてしまった。 「成人式に振り袖を着るのは一生の想い出になるからね。それに一度ではないと思うよ。娘が出来れば、 振り袖を娘に譲れば良いのだからね」 吉羅にそう言われて、香穂子はようやく後ろめたさを無くした。 成人式の当日、メイクと着付けをして貰うために、横浜の高級ホテルの美容サロンに入った。 前日から泊まり、朝早い準備に備えていたのだ。 勿論、ホテルの写真館で写真を撮ることになっている。 ひとりの写真、吉羅との写真、そして家族との写真だ。 どれも想い出に残ることは間違ない。 こうしてきちんと準備をしてくれる吉羅には、感謝をしてもしきれないと、香穂子は思っていた。 着付けをして貰い、髪とメイクをして貰う。 それだけで本当の意味で大人になったのだと、思わずにはいられない。 支度を終えてロビーに行くと、吉羅が待っていてくれた。 「お待たせしました」 「では、行こうか。皆さんも待っている」 「はい」 横にいる吉羅は素敵過ぎて、ぼんやりと見つめてしまうほどだ。 本当にイングリッシュテーラードのスーツがよく似合う。 じっと見つめるだけで、息が出来ないぐらいにときめいてしまった。 吉羅は香穂子をいつものようにクールなまなざしで見つめると、その手を握り締めてくれた。 吉羅はいつも以上に力を入れて手を引いてくれる。 写真館前のロビーに行くと、香穂子と吉羅の両親が来ていた。 「香穂子、とっても綺麗よ!」 「香穂子ちゃん、本当によく似合って…」 香穂子の母親と吉羅の母親が涙ぐんで見つめてくれる。 香穂子まで嬉しくて涙ぐんでしまった。 「有り難うございます。皆さんのお陰で無事に今日を迎えられました」 香穂子は深々と頭を下げた後、ふたりの母親に笑顔を向けた。 「さて、写真を撮ってしまおうか? 私のお嬢さん」 「はい」 香穂子は吉羅にエスコートをされて写真館に入る。 既に準備がされており、先ずは香穂子がひとりで写る。 愛する家族がこちらを見ているのが嬉しくて、少し照れくさく感じながら、香穂子は笑顔で写真に写った。 続いては吉羅と一緒に撮影する。 ひとりで写るよりは、吉羅と一緒に写るほうが嬉しい。 愛するひとと一緒に成人式の写真を撮れるなんて、こんなにも嬉しいことはなかった。 吉羅との撮影が終わった後は、家族とのポートレートだ。 「…こうして家族みんなで写真に写るのが、嬉しくてしょうがないです」 何よりも家族と写真を撮ることが、本当に嬉しい。 香穂子はふと吉羅を見上げた。 吉羅はきっと両家の両親が喜ぶのを知っているからこそ、こうして振り袖を準備してくれたのだろう。 親たちの喜びようを見ると、それが解る。 吉羅の両親は若くして娘を亡くしている。だからこそ香穂子をとても可愛がってくれていた。 それゆえに、こんなにも喜んで貰えて、嬉しくてしょうがなかった。 撮影を終えた後、吉羅は一連の写真を六セット注文してくれた。 「本当に一緒に写真が撮れて、嬉しかったです」 香穂子が笑顔で言うと、吉羅によく似た父が頷いてくれた。 「今度、みんなで写真を撮るのは、お宮参りの時かもしれないね」 父の指摘に、香穂子は思わず耳まで真っ赤になる。 まだまだだとは思ってはいても、そうなる日は近いのかもしれない。 「そうですね。その時もみんなで笑顔で写真を撮りましょう」 香穂子の言葉に、誰もが頷いたのは言うまでもなかった。 写真館から出ると、和懐石を食べられる有名な和食レストランへと向かう。 座敷に案内されて、わきあいあいとした雰囲気で昼食を取った。 「こうしてお祝いをして下さって有り難うございます。本当に嬉しいです」 香穂子は改めて、吉羅と両親に挨拶をした。 「今日のお祝いに軽くお酒を飲みましょうね」 「有り難うございます」 ほんの軽くお酒を飲みながら、香穂子は幸せな気分で微笑む。 本当に温かで幸せな成人式だった。 食事会の後で、吉羅とふたりで自宅へと向かう。 吉羅は車だったので、酒を口にはしなかった。 「有り難うございました。こんなに素敵な成人式は他にないです」 「両親たちも大層喜んでくれたことだろう」 「それが嬉しかったんです。…暁彦さん、振り袖…有り難うございます。私のためでもあり、お母さんたちやお 父さんたちのためだったんですね…」 「四人とも喜んで貰えて良かった」 吉羅は静かに言うと、口許に笑みを浮かべた。 「今夜はふたりだけで成人のお祝いをしよう…」 「…はい。嬉しいです…」 ふたりきりのお祝いもまたかなりロマンティックなことだろう。 香穂子は想像するだけで幸せを覚えた。 吉羅にプレゼントをして貰ったエメラルドグリーンのドレスを着て、9センチのハイヒールを履いて、香穂子はレストランへと向かう。 昼間の和風とはがらりと変わったスタイルだった。 それもまた嬉しい。 ふたりで歩いて行けるようにと、住居の横にある外資系高級ホテルのレストランへと向かった。 寒くても、吉羅と一緒に歩けば、それだけで温かかった。 レストランはフレンチの名店。 香穂子は嬉しくてしょうがなくて、にっこりと微笑んだ。 吉羅とはシャンパンで乾杯をする。 「成人、おめでとう」 「有り難うございます」 吉羅とこうして乾杯をするのが嬉しくて、香穂子はうっとりとしてしまった。 運ばれてくる食事も美味しくて、食が進む。 「なんだかとても幸せです。本当に嬉しいです」 「私も綺麗な君を堪能することが出来て嬉しい。本当に今日の君は美しい」 吉羅の官能的な声に、香穂子は蕩けてしまいそうになる。 躰が熱くなり、抱き合ってこの熱を取って貰いたいとすら思った。 デザートを食べ終えた後、吉羅は香穂子の手を握り締めてくる。 「今夜はもううちに帰りたくなってしまったよ…。帰ろうか?」 「私も帰りたいです」 香穂子の甘さの含んだ声に、吉羅は頷きながら目を細めた。 ふたりは手を繋いで、コンクリートジャングルの真っ直中にある自宅へとゆっくり帰る。 「本当に美しい女性になったんだね、君は…」 「有り難うございます。少しでも暁彦さんに近付けたら嬉しいです」 「有り難う」 ふたりは自宅に戻るなり、抱き合いながらベッドへと向かう。 「…今夜は君を独占させて貰う」 「…はい…」 ふたりで欲望と愛情を出し合いながら、深く愛し合った。 しっかりと愛を交換しあった後、ふたりはベッドの上で抱き合った。 「今日はとても幸せでした。有り難うございます」 「私もとても幸せだったよ。君を早くに妻にしてしまったから、綺麗な振り袖姿をご両親に見せたかったんだよ」 「有り難うございます。私も両親に、あなたのご両親に見せられて良かったです」 香穂子はここまで言ったところで気分が悪くなり、思わず口を手で覆う。 「大丈夫かね!?」 洗面所に駆け込むと、香穂子は戻してしまった。 まさか。 恐らくはそうだろう。 香穂子は嬉しい予調に笑みが零れた。 吉羅が直ぐに来てくれて、香穂子を抱き寄せる。 「大丈夫か…?」 吉羅が顔を覗きこんでくれ、香穂子はにっこりと笑う。 「お母さんたちの予想は思ったよりも早く叶うみたいですよ」 「え…」 吉羅は直ぐに何かが解ったようで、香穂子を抱き上げる。 「有り難う、香穂子」 吉羅は本当に嬉しそうに言うと、香穂子にキスをする。 これ以上幸せな成人式はないと思わずにはいられなかった。 |