春の鈍色で透き通った光のせいなのだろうか。 最近、香穂子が透明感を増して、綺麗になっているような気がする。 こうして同じベッドで抱き合って眠っていても、目が放せないほどに美しい。 こんなにも綺麗な女性はいないのではないかと、吉羅は心から思わずにはいられない。 見ていても飽きない。 付き合い始めて随分経つし、つい十日前に結婚したばかりだ。 自分のものであるのに、離れてしまうのではないかと不安になる。 それは香穂子にどうしようもないほどに恋してしまっているからだろう。 吉羅はそう思わずにはいられなかった。 香穂子の寝顔を見ているだけで、本当に癒される。 こんなにも温かな気分は他にはない。 柔らかで満たされた気分だ。 吉羅がじっと見つめているのに気付いたのか、香穂子がゆっくりと目を開けた。 目を開ける瞬間すらも見逃したくはなくて、ついじっと見つめてしまっていた。 「…あ…」 香穂子はぼんやりとした瞳を吉羅に向けると、少し頬を赤らめた。 「…見ていたんですか…?」 本当に恥ずかしくてしょうがないのか、香穂子は視線を伏せる。 その仕草がどれほど色っぽいのか、恐らく本人は気付いてはいないだろう。 「…顔が浮腫んでいるから…恥ずかしいです…」 顔を隠してしまうと、香穂子は小さな子供のように首を何度も横に振った。 本当に恥ずかしがっているが、それがとても綺麗だ。 ブラインドから僅かに入ってくる春の光が、本当に香穂子には似合っていて、吉羅はうっとりと見とれてしまっていた。 本当に結婚式直前あたりから、香穂子はより美しくなっている。 肌なんて透き通っているのではないかと思った。 「…香穂子…」 名前を呼ぶと、香穂子は顔を隠すのを止める。 本当にきれいだ。 肌なんて滑らかで、いつまでも触れていたいと思うほどだ。 吉羅が香穂子の頬を触れると、本当に心地良さそうにするものだから、余計に触れたくなってしまった。 「…暁彦さん…、こうしてのんびりするのも幸せですね…」 「…そうだね…。昨日、新婚旅行から帰ってきたばかりだからね。疲れを癒さなければならないね」 「そうですね…。明日からお互いに仕事が入っていますからね」 香穂子はくすりと笑うと、吉羅にそっと抱き着いてきた。 香穂子は存在だけで甘い媚薬だ。 欲しくなってしまう。 吉羅は、香穂子を抱き締めると、そのまま愛し始める。 こんなにも甘く堕落した幸せな朝はないと思いながら。 食事は結局ブランチになる。 近くに出かけても良かったのだが、香穂子がどうしても作りたいと言ったので、作って貰うことにした。 明日からはお互いに忙しくてそういうわけにはいかなくなるだろうから。 香穂子は、吉羅に感化されたからか、納豆と山芋のオムレツや、温野菜がたっぷりのサラダ、それにじゃこと梅干しがふんだんに入った中華粥、更には魚貝たっぷりのマリネを作ってくれた。 どれも健康に良いものばかりだ。 体調を整えなければならないから、ちょうど良かった。 デザートはグレープフルーツだ。 香穂子はいつもとは違うリズムで食事をしている。 それが吉羅には気になってしょうがなかった。 「…香穂子、具合でも悪いのかね?」 「…そんなことはないと思うんですけれど、少し怠いんです…。元気は元気なんですけれどね!」 香穂子は笑顔で答えるが、顔色は良くない。 正確には良くないというよりは、透明で清らか過ぎて白いのだ。 「だが、その顔色では心配だけれどね」 「…暁彦さん…。有り難うございます。本当に大丈夫なんですよ。頑張れますから」 「君は頑張り過ぎるところがあるからね」 苦言を呈すると、香穂子は複雑な困り顔になる。 「…大丈夫ですよ。だけど有り難うございます。心配して下さって」 香穂子は本当に感謝しているとばかりに笑みを零すと、吉羅に甘えるように抱き着いた。 「有り難うございます」 「ああ」 吉羅は愛しくて、香穂子をそっと抱き締めた。 「…暁彦さん、大好きです」 香穂子の柔らかな声に、吉羅は幸せな気分になりフッと微笑んだ。 ブランチを食べ終わり、ふたりで手を繋いで外を歩いていく。 ちょうど桜の美しい季節だ。 香穂子とふたりで見る桜は、やはり格別だと思った。 「もっと遠出をしたかったのだが、すまなかったね」 「今は何処に行っても凄いひとですから、近場が一番良いんですよ」 「それはそうだね」 「それに今は桜が最高に綺麗な時期ですからね。こうやって近くをお散歩していたいです」 「…そうだね…」 吉羅は香穂子とふたりで、こうして歩くことが出来るのが、何よりも嬉しかった。 桜色の光に輝く香穂子を横目で見ると、本当に美しいと思う。 綺麗でしょうがない。 先ほどよりも更に透明感が増しているような気がした。 「綺麗ですね…、本当に…」 「そうだね…」 吉羅は香穂子と視線を合わせると、同じ目線で桜を見つめた。 「…本当に綺麗ですね…」 香穂子は深呼吸をすると、不意に口許を押さえる。 「…暁彦さん…、少し気分が悪いので…、家に帰りたいです…」 香穂子は力なく言うと、吉羅に儚げに笑う。 何も気分が悪い時まで笑わなくても良いのにと、吉羅は思わずにはいられなかった。 「…大丈夫かね!?」 「家までは持ちますから…」 「…ああ…」 吉羅は香穂子を支えると、不安な気持ちで家へと戻った。 香穂子は家に戻ると、ひとしきり戻した。 その後は落ち着いたのか、少し横になっている。 「…ここのところ、ずっとハードスケジュールだったからね。疲れたのかもしれないね」 「そうですね…。だけど…」 香穂子はふと何かを思い出したように言うと、吉羅を見た。 「…暁彦さん、気分が少し良くなったので、買い物に行きたいのですが、連れていって貰っても構いませんか?」 「…構わないが…、本当に大丈夫なのかね!?」 「大丈夫ですよ。本当に…。有り難うございます」 香穂子はにっこりと笑うと支度をしにいってしまう。これには吉羅も逆らえなくて、香穂子に従った。 近くのショッピングモールで買い物を手早く済ませた後、ふたりは家に戻る。 その間、香穂子の気分は悪くはならなかった。 家に帰ると、香穂子はまたトイレに行ってしまった。 気分がかなり悪いのだろうと、吉羅が心配していると、今度は本当に幸せそうに出て来た。 「暁彦さん…病気じゃないようです…。お腹に赤ちゃんがいるみたいです」 香穂子の言葉に、吉羅は驚いて息を呑む。次の瞬間、嬉しさが込み上げてきて、香穂子を思わず抱き上げた。 「有り難う…」 「こちらこそ有り難う、暁彦さん」 香穂子に透明感のある微笑みを向けられると、吉羅は嬉しくなる。 香穂子が透明感がある理由が、ようやく解ったような気がした。 子供がいたからだ。 吉羅は本当に嬉しくて、香穂子を柔らかく抱き締めた。 翌日、ふたりは病院に行き、妊娠していることをきちんと確認をする。 香穂子の美しさに息を呑みながら、吉羅はずっと見つめる。 香穂子もまた、柔らかな笑みをくれる。 子供が出来ようと、何が起きようと、吉羅は香穂子を愛することを止められないだろうと思う。 子供が出来れば、益々香穂子が愛しく感じられるだろう。 幸せな幸せな愛の奇跡に、吉羅は甘い想いを抱かずにはいられなかった。 |