何故かクリスマスよりもイヴに盛り上がるのかと、いつも思ってしまう。 クリスマス当日になると、テレビの世界では既にお正月の話題で持ち切りになり、誰もがクリスマスであることを忘れてしまう。 何だか勿体ないと思ってしまう。 こんなにもロマンティックなイベントは他にないのだから。 クリスマスイヴは恋人たちにとってはスペシャルデー。 夢見る年代である千尋も、例外ではない。 雑誌などを読みながら、クリスマスを自分なりにロマンティックに想像していた。 アシュヴィンと過ごす初めてのクリスマス。 ときめかないほうがどうかしている。 この間、“予行演習”はしたが、それ以上のものを期待せずにはいられない。 “予行演習”がロマンティックだっただけに余計だ。 だからこそ、今夜は思い切りお洒落をして、自分で出来る最高のことをしようと千尋は思っていた。 かなり多忙のなかで、アシュヴィンが時間を作ってくれたのだから。 白いシンプルだが品のあるワンピースに、ケープを上から羽織って、千尋は準備を整える。 出掛けるのにはかなり五月蠅い狭井の君ではあるが、相手が“婚約者”である以上は、文句は言わないようだった。 これには千尋も嬉しく思っている。 思わぬ副産物だ。 千尋は、アシュヴィンがたまたま見合い相手であることを感謝しながら、待ち合わせ場所へと向かった。 いつもは特急なんて使用はしないが、今日は特別なクリスマスだから、千尋は特急を使って待ち合わせ場所へと向かった。 普段なら五百円の特急料金はケチるのだが。 約束場所であるクリスマスツリーの前に来ると、幸せな気分になる。 千尋と同じように恋人と待ち合わせをしているカップルが、かなりいて微笑ましいと思った。 暫く、待っていると、時間を知らせるようにチャイムが鳴り響き、ツリーのイルミネーションが豪華に輝く。なんて美しいのだと、思わずにはいられなかった。 夢中になって美し過ぎるクリスマスツリーを見つめていると、不意に視界が塞がれた。 「…クリスマスツリーにばかり目をやっているなんて…やけるな」 大好きな真直ぐとした声に、千尋は驚いてしまう。 「アシュヴィン!」 千尋が驚いてその名前を呼ぶと、フッと笑みを零した。 「…待たせたな」 するりとアシュヴィンの手が離れてしまって、千尋はほんのりと名残惜しい気分になった。 「さて行くか」 「うん!」 アシュヴィンの艶のある魅力的な笑みに、千尋は思わずうっとりとした笑みを浮かべてしまう。 アシュヴィンは千尋の手袋を外すと、直にしっかりと手を繋いでくれる。 ダイレクトなアシュヴィンの温もりは、千尋にほわほわとした掛け替えのない幸せを与えてくれた。 手を繋いで、パーキングまで行き、そこでアシュヴィンの車に乗り込む。 「お前のことだから、夜景が綺麗なレストランでゆったりと食事をしたいだろう?」 「勿論!」 「それに少しばかりのドライブをつけるがどうだ?」 「最高!」 千尋が小さな子供が燥ぐように言うと、アシュヴィンは目を細めて甘く笑った。 アシュヴィンは湾岸線を走り抜けて、夜景を楽しむドライブに連れて行ってくれる。 本当に夢のようなひとときだ。 こんなにも素晴らしいロマンティックがあるなんて、千尋は思ってもみなかった。 サンタクロースは必ずいると思わずにはいられない。 「アシュヴィンは本当にサンタクロースみたいだね」 「お前だけ限定のな」 「嬉しいよ」 アシュヴィンに幸せな笑みを向けると、千尋は本当に幸せな気分になった。 ドライブを楽しんだ後で、レストランへと向かう。 そこは生で素敵なジャズを聞かせてくれるレストランだ。 クリスマススタンダードをしっとりと聴くのは、うっとりとしてしまうほどに素晴らしかった。 勿論、料理も素晴らしい。 千尋はニコニコと笑いながら、本当に幸せな気分で食事を楽しんだ。 「何だかこんなに幸せなで嬉しいプレゼントをいっぱい貰ったのは、初めてだよ。温かいし、ほわほわしている」 「それは良かった」 「本当に幸せだよ。だけど同じものを返すことが出来ないのが辛いところだよ」 「その笑顔で充分に返して貰っているんだ。気にするな」 さらりとそんなことを言われると、嬉しさと恥ずかしさで顔が熱くほてってしまう。 そんな千尋を見て、アシュヴィンは甘く微笑んだ。 「お前は本当に可愛いな」 「やだっ! 恥ずかしい…」 ストレートに言われると本当に恥ずかしくて、胸の鼓動が激しく高鳴る。だが、嬉しくもある。 「千尋、メリークリスマス」 盾に長いジュエリーボックスをアシュヴィンはそっと差し出してくれる。 「有り難う」 アシュヴィンからのプレゼント。 それだけで胸がいっぱいになる。 「…あ。あの…私からも…。メリークリスマスアシュヴィン」 千尋はアシュヴィンに万年筆が入った箱を手渡す。 結局は何も思い付かなくて、万年筆にしたのだ。 「有り難う、千尋」 偶然にもふたりとも同じような大きさの箱だ。 アシュヴィンがどのような反応をしてくれるのか、楽しみなようで緊張する一瞬だ。 「…千尋、箱を開けてみろよ?」 「うん。そうするよ」 どのようなクリスマスプレゼントなのかも知りたい。 逸るこころを何とか抑えながら、千尋はプレゼントを丁寧に開いた。 「…わあ」 クリスマスプレゼントは、山百合をあしらったペンダントだ。 とても清らかな雰囲気を持った美しいペンダント。 嬉しくて、魂の奥底から笑みが零れてきた。 「有り難う! 凄く嬉しいよ…!」 「それは良かった」 アシュヴィンはホッとしたような嬉しそうな笑みを浮かべている。 千尋はそれが嬉しくて、泣きそうになった。 「掛けてやる」 「お願いします」 千尋が素直に言うと、アシュヴィンは頷いて背後に回る。 千尋がペンダントを手渡すと、丁寧に首にかけてくれた。 ペンダントが掛けられた瞬間、胸がキュンと音を立てる。 甘くてとても嬉しい感情に、千尋は鼻の奥がツンとなるのを感じた。 「…有り難う。何だか特別な気分…。大切にするね。ずっとずっと」 千尋が何度もペンダントを見つめながらはにかんだ笑みを浮かべていると、アシュヴィンは「有り難う」と笑顔で呟いてくれた。 「じゃあ今度はアシュヴィンが開けてみて。大したものじゃないから…、本当に…。気に入って貰えるかどうか解らないんだけれどね…」 アシュヴィンはフッと微笑んだ後、やはり丁寧に箱を開ける。 アシュヴィンは万年筆を見るなり、優しくも柔らかな笑みを浮かべた。 「有り難う、千尋。とても嬉しい。たいせつに使わせて貰う。早速、明日から仕事で使わせて貰う」 「有り難う…、こちらこそ」 アシュヴィンが本当に嬉しそうに優しく微笑んでくれたから、千尋はそれだけで嬉しくてしょうがなくなる。 アシュヴィンが喜んでくれたことが、何よりものプレゼントになった。 千尋は本当に今にも泣き出しそうになる。 「アシュヴィンが喜んでくれて嬉しいよ」 「俺もお前が喜んでくれて嬉しい」 ふたりはお互いの気持ちを込めて、そっと見つめあった。 アシュヴィンが、今夜は家まで送ってくれる。 楽しいことはあっという間に過ぎてしまうのだ。 自宅に着き、千尋は名残惜しげにアシュヴィンを見る。 「今夜は有り難う。嬉しかったよ」 「こちらこそ有り難う。千尋、来年は朝まで一緒に過ごそう」 いきなり心臓が飛び出してしまいそうなことを言われて、千尋は真っ赤になる。 「あ、あの…。う、うん…」 千尋は真っ赤になりながら呟くと、逃げるように車から降りた。 部屋に入り、ロマンティックなはにかみの中、来年のクリスマスに想いを馳せていた。 |