*クリスマスの準備*


 クリスマスの準備は大変だけれど、とても楽しい。
 外のレストランで温かくて美味しい食事、ロマンティックなホテルでの一夜も良いけれど、やはり素敵なのは、ふたりで過ごす温かな夜が一番ロマンティック。

 アシュヴィンと過ごす初めてのクリスマス。
 それだけでかなりテンションが上がってしまう。
 アシュヴィンと本当にロマンティックな夜を過ごせるように、千尋は色々と想いを巡らせる。
 プレゼントはどのようなものが好みだろうか。
 アシュヴィンなら様々な物を持っているだろうから、何をあげて良いのかが解らなかった。

 橿原の家を出て、わざわざ特急を使ってショッピングビルのあるところまで出る。
 ここなら様々なものがあるから、選ぶのには困らない。
「クリスマスプレゼントか…。アシュヴィンは何が欲しいのかな…?」
 ニセ婚約をしてから本気の恋仲になるまで、それほど時間を要さなかった。本格的に付き合い始めてまだ日が浅いから、千尋はアシュヴィンの好みがよく解ってはいなかった。
「…本当に何が良いのかな。繁華街に来ちゃうと物が多過ぎて、余計に何をプレゼントしたら良いのかが、分からなくなってしまうなあ…」
 しみじみと想いながら、千尋は様々な店を見て回る。
 アシュヴィンのことを思い浮かべながらプレゼントを選ぶのはとても楽しい。
 だがベストなものを選ぶのは、なかなか難しかった。
「…かといって手作りも押し付けがましいような気がするんだよね…」
 本当に何を贈れば良いかが解らない。
 千尋は様々な店に入っては唸り続けた。

 アシュヴィンはと言えば、ジュエリーショップに顔を出し、様々なジュエリーを見ていた。
「余りに高いとあいつのことだから戸惑うだろうし…、かといって安いやつもどうかと思うしな…」
 アシュヴィンは千尋の顔を思い浮かべながら、様々なアクセサリーを見る。
 真剣に考えながら女性にプレゼントをするのは、やはり難しい。
 そのような経験がないだけに余計だ。
 千尋に笑って貰えるようなプレゼントがしたい。いつまでも使って貰えるようなプレゼントがしたい。
 自分は本当に何もいらない。ただ千尋の笑顔があれば良かった。
 アシュヴィンは、山百合をあしらったデザインのペンダントにすることにした。
 気品良くダイヤモンドがついていて、千尋にとても似合うような気がする。
 アシュヴィンは直ぐに店員に言うと、プレゼント用に綺麗にラッピングをして貰った。
 プレゼントを持つだけで、こころがほわほわと温かくなる。
 思わず笑みすら浮かべてしまう。
 千尋にプレゼントをするという行為だけで、この上なく幸せな気分になれた。

 千尋は結局、アシュヴィンがよく使うだろう万年筆にすることにした。
 どれもピンと来なかったからだ。
 だが万年筆ならば、ビジネスを手掛けているアシュヴィンも使うだろうと思ったのだ。
 店員にプレゼント包装をして貰っている間、とても幸せな気分になる。
 大好きな男性にプレゼントをするというのは、なんて幸せなのだろうかと千尋は思った。
 プレゼントを片手で丁寧に持つだけで、この上ない幸せを感じる。
 プレゼントは贈るひとまでもを幸せにしてくれるものなのだ。
 プレゼントの本当の意味はそこにあるのだろうと、千尋は思った。
 プレゼントも買えたので、後はのんびりとゆっくりとしようと、ショッピングモールを歩く。
 嬉しいことを抱えていると、それだけで幸せになれた。
 千尋はふと足を止める。
 ショッピングビルの吹き抜け部分にある大きなクリスマスツリーのイルミネーションが、清らかな光を放って美しい。
 思わずそれに見入ってしまう。
 本当になんと美しいのではないかと、思わずにはいられなかった。
 このクリスマスツリーを、アシュヴィンと手を繋いで、並んで見つめられたら良いのにと思わずにはいられない。
 きっと最高にロマンティックだ。想像するだけでうっとりとしてしまう。
 ふたりで過ごす初めてのクリスマス。
 どのようなロマンティックが待っているのか、千尋は楽しみでしょうがなかった。
 何だか無性にアシュヴィンに逢いたくなった。

 アシュヴィンはゆっくりと街を歩きながら、千尋のことを思う。
 ふたりで過ごす初めてのクリスマス。
 どんなに幸せかと想像するだけで、こころが弾んでくる。
 クリスマスに本当に欲しいものは千尋だ。
 だが本当は一年中千尋が欲しいのだ。
 アシュヴィンは自分の溺れぶりに苦笑いをしながら、千尋のことを思う。
 千尋に逢いたくてたまらなくなった。

 千尋がクリスマスツリーの前でずっと見上げていると、ふと温かな気配を背後に感じた。
 この男らしいしっかりとした温かなオーラは、恐らくアシュヴィンのものだ。
 千尋がゆっくりと振り返ると、アシュヴィンが柔らかな笑みを唇にたたえたままで立っていた。
「アシュヴィン!」
 千尋は嬉しさの余りに頬を真っ赤にさせて、その名前を呼ぶ。
「千尋…」
 アシュヴィンに名前を呼ばれるだけで、千尋はこのまま蕩けてしまいそうになるほどの笑みを浮かべた。

 どうしても千尋に逢いたかったのだ。
 千尋が行きそうなところを何とかピックアップした。
 恐らくは橿原市から比較的に近い、ショッピングビルへと向かった。

 ショッピングビルに向かうと、千尋の姿を直ぐに見つけることが出来た。
 吹き抜けにおいてクリスマスツリーの前でじっと見つめている姿を見つけた。
 ツリーを見上げている千尋は、本当に愛らしくて美しかった。
 アシュヴィンは思わず見とれてしまう。
 千尋を本当の意味で独占してしまいたいと思って、アシュヴィンはゆっくりと近付いていった。

「アシュヴィン!」
 千尋が声をかけると、アシュヴィンは薄い笑みを浮かべた。
「買い物か?」
「まあそんなところかな。アシュヴィンもそうなの?」
「まあそんなところだ」
 アシュヴィンは、千尋の横に真直ぐ立って見つめてくる。
 熱いまなざしで見つめてくれた。

「もうすぐクリスマスだね」
 千尋がしみじみと頷くと、アシュヴィンも頷き返してくれた。
「アシュヴィン、偶然かもしれないけれど、こうやって一緒にクリスマスツリーを見ることが出来るのがとても幸せだよ」
 アシュヴィンとふたりでクリスマスツリーを見るのがこんなにも幸せで嬉しいものであるかを、千尋は今まで知らなかった。つい笑顔が零れてしまう。
「…俺もクリスマスツリーがこんなに良いのにものだなんて、思ってもみなかった…」
 アシュヴィンも情緒が溢れた優しい声で呟くと、千尋の手をギュッと握り締めてくれた。
「クリスマスって一年間しっかりと頑張ったっていうご褒美かもしれないね」
「そうだな」
 顔を見合わせて笑った後、ふたりは甘くて幸せな気持ちを共有する。
「な、このままクリスマスの予行演習をしないか?」
「予行演習?」
 アシュヴィンの言葉に、千尋はにっこりと微笑む。
「クリスマス当日を、より素晴らしい日にするために、リハーサルは必要だろう?」
「そうだね。リハーサルは必要だね」
 千尋はなんてロマンティックな予行演習なのだろうかと思いながら、ただにっこりと微笑んだ。
「行くか」
「うん」
 ふたりはお互いの想いを共有するかのようにしっかりと手を握りあうと、緩やかに歩いていく。
 クリスマスシーズンは恋人たちのシーズン。
 そう確信しながら。


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