クリスマスの準備は大変だけれど、とても楽しい。 外のレストランで温かくて美味しい食事、ロマンティックなホテルでの一夜も良いけれど、やはり素敵なのは、ふたりで過ごす温かな夜が一番ロマンティック。 千尋は、この橿原宮でもクリスマスの真似ごとが出来ないものかと考えていた。 こんなにもロマンティックなイベントは他にないのだから。 特に柊と一緒に過ごせば、この上なくロマンティックになるに違いないと思う。 だが、橿原宮でクリスマスをするなんて、難しい。 「せめて樅の木っぽい木があれば良いんだけれどね…」 畝傍山を登って散策をしても良いが、なかなか難しいだろう。 それにクリスマスらしい飾をどうすれば良いだろうか。 千尋はそのようなことを考えてしまう。 千尋が、クリスマスツリーのことばかりを考えていると、不意に声を掛けられた。 「…我が君、如何されましたか?」 「柊…!?」 よく通る柊の声に、千尋は驚いて飛び上がってしまう。 「な、何だ、柊いたんだ…」 焦りながら言うと、柊が薄く笑いながら千尋を見つめてくる。 「何か一生懸命考え込んでいらっしゃいましたが、何か懸案でもあるのですか…?」 柊は幾分か心配そうな表情を浮かべていた。 政のことだと思っていたのだろう。 千尋は慌てて笑顔になると、柊を見た。 「ち、違うんだよ。政のことじゃないんだ。そのプライベートというか…、あの…、私個人のことなんだよ…」 千尋はどう説明をして良いのかが分からなくて、しどろもどろに答えた。 すると柊は余計に心配そうな表情を浮かべる。 「…それは益々心配です…。何をそんなにお悩みになっているのですか…?」 柊は本当にこころから心配してくれている。それはとても感じているから、隠し立てをすることは難しい。 本当は、ナイショにしてツリーを見て驚かせたいのだが、柊を心配させるわけにはいかない。 「…あのね…実は…木を探しているの…」 「木…ですか…?」 柊は驚いたように千尋を見ている。まさかそのような答えが聞こえてくるとは、思わなかったのだろう。 「クリスマスツリーっていって、とっても素敵なものがあるの。木に様々な装飾を施すんだよ。その木になるようなタイプの木を探しているんだ」 「そうですか…」 深刻な悩みなどではないと分かると、柊はホッとしたように溜め息を吐いた。 「その木はどのような木なのですか…?」 「高さは私の胸ぐらいでね、緑色をしていて、装飾がしやすいような枝振りになっているんだよ。“樅の木”っていうんだけれど、流石にこちらにはないかなあって、思っていたんだよ」 「そうですか…」 柊は溜め息を吐くと、じっと考え込む。恐らくは同じような木を、記憶の中で探してくれているのだろう。 「まだ子どもの木が良いんですね? 宮殿の庭にそれと似たような木を植えて、装飾するのが良いんじゃないでしょうか?」 「そうだね! それが良いね! 木を植え替えるだけだから、木にも優しいし…」 千尋は、柊の提案に手を叩きながら喜ぶと、満面の笑みを浮かべた。 「あなたはそうやって笑っていたほうが良いですよ…。私はあなたの笑顔が一番好きですから」 柊に笑みを浮かべられながら「好き」だなんて言われたら、心臓がマラソンをしているぐらいに早い鼓動を刻む。 恥ずかしいのに嬉しくて、千尋ははにかんだ笑みを浮かべた。 「…あ、有り難う…。樅の木みたいな木を探さないとだめだね。なかなか良いものが見つからないんだよ」 「だったら、私も協力しますから、一緒に探しましょう」 「どうも有り難う! 本当に嬉しいよ!」 柊と一緒ならば百人力だ。きっと良い木が探せるに違いないと、千尋は思った。 「だったら柊宜しくね。私、一生懸命頑張って探すから、協力してね」 「勿論ですよ、我が君…。あなたに協力をします」 柊はスッと千尋に向かって真直ぐに手を差し出してくれる。 それが嬉しくて、千尋は子どものような愛くるしい笑みを向けた。 「最高の木を探しましょう、我が君」 「うん。有り難う。頑張ろうね」 柊と一緒に探せば、クリスマスツリーに手頃な木は直ぐに探すことが出来るだろう。 千尋はにっこりと微笑むと、ほくそ笑んだ。 柊とふたりで、ひんやりとする畝傍山へと入る。 ここはいつも空気が澄んでいて清々しい。 千尋はお腹からたっぷりと息を吸い込むと、柊ににっこりと微笑みかけた。 「この山の空気はとても美味しいよね。大好きなんだ、こんな風景」 「私もこの土地の空気は嫌いではありません」 ふたりで顔を見合わせてゆったりと微笑みあう。こんなにも幸せに笑えることが千尋には嬉しくてしょうがなかった。 ふたりでああでもない、こうでもないと言いながら、手頃な木を探していく。 千尋の胸ぐらいの高さで、しかも飾り付けが出来るものというのは。なかなかない。 「手頃なものがなかなかないね」 「…そうですね。ですがきっと見つかると思いますよ?」 「だよね」 千尋は神妙に頷いた後でで、更に捜索を続けた。 「千尋、あちらに手頃な木がありますよ」 「本当に!?」 千尋が飛び上がって喜ぶと、柊はにっこりと微笑む。こうして温かくて優しいまなざしに見守られているだけで、本当に幸せな気分になった。 「あちらの木ですよ」 「あ! 本当だ!」 千尋が出した条件通りに、胸ぐらいの高さで、しかも飾り付けが出来るような枝振りだ。 「有り難う…、柊…。物凄く嬉しいよ…」 「それは良かったです。では早速、掘り出しましょうか」 「そうだね」 ふたりがかりでやれば、直ぐに木を掘り出すことが出来た。 汗をかいたが、それはとても幸せな汗だった。 「…有り難う…。木を綺麗に飾って、クリスマスの日にはふたりで見ようね」 「そうですね。クリスマスという催しは随分と素敵なものなのですね…」 「うん。とてもロマンティックなんだよ。…毎年、柊と一緒にクリスマスツリーを眺めることが出来たら、これほど嬉しいことはないよ」 「はい。これからもふたりで一緒に眺めましょう」 ふたりで顔を見合わせて頷き合う。こんなにも幸せなクリスマス準備は他にないと思った。 橿原宮に帰り、柊とふたりで私室の庭に樹を植えた。 それだけでロマンティックなクリスマス空間が誕生する。 「後はここにね、願い事を込めて色々な飾りを付けていくんだよ」 「じゃあ飾りを作らなければなりませんね。私も手伝いますよ」 「有り難う。柊が手伝ってくれたら、本当に百人力だよ」 千尋がにっこりと笑うと、柊も満たされた瞳を見つめてくれる。 それがとても嬉しかった。 柊と小さな飾りを作るのは、本当に幸せなことだった。 作っている間も、ずっと笑顔になった。 それは恋をしているが故のマジックなのだろう。 沢山の小さな飾りを作った後、ふたりは互いに満たされた想いで顔を見合わせる。 「後は飾り付けをするだけだよ。物凄く嬉しい」 「そうですね」 ふたりで庭にあるツリーに、飾り付けを施していく。何処か七夕に似ているような気がした。 飾り付けを終えると、本当に可愛いクリスマスツリーもどきが姿を現す。 「毎年、こうやってふたりでクリスマスツリーを眺めていたいね」 「そうですね。毎年、見ていきましょう」 柊はフッと微笑むと、千尋を抱き寄せて、唇を近付けてくる。 甘いキスをしながら千尋は思う。 ねぇ柊、クリスマスツリーの前でキスをすると幸せになれるんだよ。 これからもずっと幸せであることを確信しながら、千尋はキスを受けとった。 |