女の子にとってイルミネーションは、心と想い出を彩る宝石のようなもの。 ロマンティックで甘いキラキラしたコンペイトウのようなもの。 だからこそ、大好きなひとと見たいもの。 大好きなひとと見るイルミネーションは最高にロマンティックだから。 こちらの時空のイルミネーションは、文字通り星だ。 千尋がかつて暮らした世界では見えなかった星まで、沢山見られるのは嬉しい。 だが、たまには人工のお星様が恋しくなってしまう。 あの輝きは、あの世界の人々にとってはかけがえのない温かな光だからだ。 今夜も柊とふたりで夜空を眺める。 柊とこうして一緒になってからというもの、毎晩のように美しい星を教えて貰っていた。 「しかし星は奥深いし綺麗だね。本当におっこちてきてしまうぐらいに、沢山の星があって…。とても綺麗だね」 「特に今の時期は、星が最も綺麗な時期ですからね」 「毎日見ていても飽きないよ」 千尋は夜空から柊にゆっくりと視線を戻すと、にっこりと微笑んだ。 「そうですね。ただ、星はとても美しいですが、この時期は寒くなるのが難点ですね」 「そうだね」 千尋は思わず震えながら頷いた。 「寒いですか?」 「ほんの少しだけ。だけど大丈夫だよ」 千尋が洟を啜りながら説得力なく言うと、柊は苦笑いを浮かべた。 「…しょうがありませんね…、あなたは」 呆れるというよりは楽しそうに言うと、柊は千尋をそっと抱き寄せた。 「あ…」 包み込むように優しく柔らかく抱き締められて、千尋は息を弾ませた。 甘くてドキドキが強い抱擁だ。 「…うん、温かいよ…」 「それは良かった…」 柊は笑みを含んだ声で呟くと、千尋を更に抱き締めてくれる。 千尋は柊を抱き返すと、いつまでも甘えるように抱き付いていた。 「柊って温かいね。星を見るのを忘れてしまいそうになるよ」 「それはとても嬉しいことですよ」 「うん、そうだね」 千尋は柊に思い切り甘えながら、広い胸に顔を埋めた。 寒いなか、こうして星を眺めながら柊としっかりと抱き合っていると、ロマンティックなクリスマスを思い出す。 「…もうすぐ、あっちはクリスマスかな…。イルミネーションが綺麗だろうな…」 「…クリスマス…?」 「少しだけ住んでいたところにね、そういう風習があって、本当は神様みたいなひとの誕生日をお祝いするんだけれどね、私がいたところでは、大好きで大切なひとと過ごす日になっていたよ」 「大好きで大切なひとと過ごす日ですか…。それは素敵かもしれませんね」 柊もにっこりと微笑み、千尋を見つめてきた。 「その時にね、お星様と同じぐらいに綺麗に輝く光が、街に溢れるんだ。それがとても綺麗で、私はいつも楽しみにしていたんだよ。私はいつか大好きな男性と見たいと思っていたんだけれど、柊と一緒に見たかったなあって思うよ」 「私もその人工の光をあなたと一緒に見たかったですよ」 千尋は頷くと、更に柊に温もりを求めるように抱き付く。 「凄く嬉しいよ。こうして星を見られるのも。イルミネーションも素敵だけれど、こうやってふたりで温まりながら見るのも素敵」 千尋の言葉に柊はフッと微笑むと、躰を温めるように背後から抱き締めてくれた。 ふたりで暫く寄り添って星を眺める。 イルミネーションは叶わないが、星を見るのもそれ以上にロマンティックだと思った。 ふと柊が千尋の頬に触れてくる。 「冷たくなってきましたね」 「だけど私は充分温かいよ」 「だけど頬はとても冷たいですよ。…そして唇も…」 柊の唇がゆっくりと温かく近付いてくる。 とてもロマンティック。 柊のキスを受けると、先ほどまで冷えて凍りそうだった唇が、蕩けるように温かくなってくる。 唇から全身へと、優しくて情熱的な温もりは、ゆっくりと流れていった。 「…本当に温かいよ…。今が一番温かい…」 「そうですね…。あなたをもう少し温めたいですが…、構いませんか?」 「…うん。もっともっと温めて欲しいよ…」 「はい、喜んで」 柊は千尋の瞼に優しく口付けた後、そのまま抱き上げて寝室へと運んでくれる。 御伽話よりもずっとずっとロマンティック。 千尋はうっとりとした甘い雰囲気に酔いながら、柊の温もりを味わっていた。 イルミネーションがどのようなものなのか。柊には解らない。 ただ千尋を喜ばせたくて、風早に訊いてみることにした。 「イルミネーション…。口で言うのはとても難しいね。赤とか青とか緑とか黄色とかがチカチカ輝いているんだよ。綺麗だけれどね。さては千尋が見たいと行ったのかな? 毎年、千尋と那岐を連れてイルミネーションを見に行っていたからね。だから懐かしいと思ったか…。それとも…」 風早はそこまで言うと、柊をじっと見つめる。 「誰かさんと一緒に行きたいと思ったのかな?」 ちらりと風早にからかうように見つめられて、柊はムッとした。 「…分かりましたよ。どうも有り難うございます」 柊は半ば堅い声で言うと、風早を軽く睨んだ。 風早の元を立ち去った後、柊は考え事をするために畝傍山に登る。 小高い山だから散歩がてらに登るのにはちょうど良い高さなのだ。 「…イルミネーションね…。数多の星ならばいつでもお見せすることは出来るが…そんな色とりどりとなると…」 柊が考え込んでいると、ふと小さな虫を見つける。 その躰は美しく七色に発光しているのが見えた。 「…これか…」 柊は直ぐに起き上がると、急いで畝傍山を下りる。 同じものではないが千尋が喜んでくれると確信していた。 千尋が執務を終えると、柊が迎えに来てくれた。 いつもこうしてお迎えをしてくれるのが、千尋には嬉しくてしょうがない。 柊にこころから愛されていると感じる瞬間でもある。 柊と手を繋いで私室に戻る時間は何よりもかけがえのない時間のように思えてならなかった。 柊がいつもとは違うルートを歩き始め、千尋は驚いてしまう。 「…ねえ、いつもとルートが違うよ、柊」 「あっているんですよ。今夜はね」 柊がフッと綿菓子のような笑みを浮かべる。いつもはどちらかと言えば不敵な笑みが似合う人ではあるが、 千尋の前だけは蕩けるような甘い笑みを浮かべる。それがとっておきのような気がして嬉しかった。 「着いてきて下さい。どうしてもあなたに見せてあげたい風景があるんですよ」 「うん。楽しみにしているよ」 「ええ」 柊を見ていると、本当にスペシャルなことが起こるのではないかと、期待せずにはいられなかった。 暫く歩いて、王宮の裏手にある美しき森へと入っていく。 そこは龍神によって守られている麗しき森だった。 奥の小さな滝の前に来た時、柊に背後から目隠しをされた。 「え…?」 「千尋、そのままゆっくりと歩いて下さい。私が止まって下さいと言うまで」 「はい」 千尋は恐る恐るゆっくりと歩いていく。 この先に何が待っているのだろうか。 「止まって下さい」 柊に言われて立ち止まる。 するとゆっくりと目隠しが外された。 その瞬間、赤や黄色、緑や青といった光を放つ美しき虫の群れがダンスをしている風景が広がる。 余りにも美しくて、千尋は思わず見惚れてしまっていた。 「綺麗…」 「私なりのイルミネーションです。気に入って頂けましたか?」 柊の思いがけないプレゼントに、千尋は嬉しさの余りに泣きそうになった。 「…有り難う…。イルミネーションよりもずっと綺麗だよ。あなたと一緒に見られて、本当に嬉しいよ…。有り難う…」 千尋は涙を瞳に浮かべながら柊を見上げる。 「今までで最高のイルミネーションだよ」 「それは良かった」 柊はホッと微笑むと、千尋の顎を持ち上げる。 「…ご褒美を頂けませんか?」 「うん…」 ふたりの唇が重なる。 幸せな瞬間に、千尋はにっこりと微笑んだ。 |