ようやく愛するひとの温もりに触れることが出来た。 本当は、天海のそばにいられるのならば、永遠の暗闇に漂っていても構わないと思っていた。 だが、ゆきのことを想い、天海は時空の狭間の神様として、ゆきを現代へと返してしまったのだ。 だが、寂しかったのも束の間で、天海がこの世界にやってきてくれた。 ゆきの人生の長さは、神様である天海からすれば、ほんのひととき。 だからこそ“ほんのひととき”の間、天海はこの世界にやってきてくれたのだ。 泣きたくなるぐらいに嬉しくて、今は幸せだ。 今日はふたりで手を繋いでデートをする。 手を繋ぎたくても、抱き締めたくても、出来なかった。 だが今は天海の温もりもその存在もリアルに感じられる。 ゆきにはそれが嬉しい。 手を離したくなくて、今日もしっかりと繋ぎ合わせて、水族館にやってきた。 本当は場所なんて何処でも良い。天海を感じられるのであれば、何処だって良かった。 ふたりでしっかりと手を繋いで水槽の中を見つめる。 鰯が群れをなして泳いでいる様子は、うっとりとするほどに綺麗だった。 「天海、綺麗だね。お魚って」 「そうですね……。限りある命を、生きているからこそ幸せなんでしょうね……」 ふと天海が背後から包み込んでくれる。 柔らかく抱き締められて、その温もりに思わず感嘆の溜め息を吐かずにはいられなかった。 背中に天海の温もりを感じて、ゆきは思わず吐息を漏らした。 天海を直ぐ近くに感じられる。 愛するひとは神様だから、時々、本当は赦されない恋なのではないかと、ゆきは思う。 こうしていることは罪なのではないかと。 だが、天海のリアルな温もりを感じると、そんなことは杞憂に過ぎないのだということを、思わずにはいられなくなる。 そばにいるだけで幸せなのだから、赦される、赦されないは関係ないのではないかと思った。 幸せなドキドキに、ゆきは真っ赤になりながらも、天海の抱擁にその身を任せた。 「……ゆき、愛していますよ」 突然囁かれた甘い愛の言葉に、ゆきの脈拍が激しくダンスをした。 「……何をそんなに固くなって真っ赤になっているんですか……?」 くすりと艶やかに微笑まれて、ゆきの心臓は持たないのではないかと思った。 「……天海っ」 「恥ずかしいのですか……?」 完全にからかわれている。 ゆきはどうやっても天海に対抗する術が見つけられなくて、ドキドキモジモジするしかなかった。 「……本当に君は可愛いらしいですね……」 くすくすと甘く笑われて、ゆきは天海の腕の中で小さくなった。 余りに小さくなっているからか、天海は更にギュッと抱き締めてきた。 「……ここでこうするのは恥ずかしい……んですけれど……」 ゆきは顔から火が出ているのではないかと自分で思うぐらいに真っ赤になりながら言う。 ほんの少しだけ、天海に抗おうとして躰を動かせば、余計に抱き締める腕に力を入れられてしまった。 「神である私に抗おうなんて無駄ですよ?」 からかうように言われて、ゆきは窒息してしまうのではないかと思うぐらいに、息苦しくなった。 「……天海、都合が良い時だけ神様なんだね」 「そうですよ。私に相応しいとは……思いませんか?」 天海の言葉に、ゆきは抵抗出来ないと躰から力を抜いた。 結局のところ、ゆきは天海のことが大好きだから、甘い行為を抗うことなんて、そもそも出来ないとのだ。 「そうです良い子ですね、ゆきは」 天海な耳元と魅惑的な吐息を漏らしたまま、ただじっと抱き締めている。 こうしてリアルに愛するひとを感じられるのは、ゆきにとっては幸せなことだ。 望んでも手に入れることが難しかったものを、ようやく手に入れられたのだから。 「天海、まだまだ水族館は楽しいものがいっぱいだよ。先に行こう」 「しょうがありませんね。君が望まれるのならば、仕方がありません」 天海は渋々ゆきから抱擁を解くと、名残惜しいとばかりの表情をした。 抱擁はなくなったけれども、このまま温もりを感じていたい。 ゆきがそっと天海の手に自分の小さな手を絡ませると、天海もまたしっかりと手を握り締めてくれた。 「こうして天海としっかり手を繋いでいると何だかホッとするの。ふたりには強い絆があることを、確認することが出来るから」 「ええ……。私もそう思いますよ」 天海は頷くと、ゆきの手の甲を愛しげに柔らかく撫で付けてくる。 幸せだ。 甘くてくすぐったい笑顔が心に滲んで、ゆきは更に笑顔を綻ばせた。 「天海、ジンベイザメが優雅に泳いでいるよ!」 ゆきが巨大水槽の前で賑やかにしているのを、天海は優しいまなざしで見守ってくれている。 なんてホッとして温かな瞬間なのだろうか。 そばに天海がいる。 それだけでゆきは幸せだった。 ロマンティックと甘味が詰まった水族館デートは終わり、ふたりは海岸を歩いた。 手を繋いで海岸を歩く。 きっと普通の恋人同士ならば当たり前のこと。 だが天海とゆきにとっては、それこそが最上級の幸せであるということが、充分過ぎるぐらいに解っていた。 「夕陽が落ちてゆくね。天海とこうして手を繋ぎながら一緒に夕陽が見られるのがとても幸せ」 ゆきは夕陽に浴びた顔を真っ直ぐ天海に向けた。 「……私も幸せですよ。私は君と一緒にこうして温もりを共有することが出来からこそ幸せだと思っています。君は私に、愛する者と共有出来る温もりの素晴らしさを教えて貰いましたから」 天海は不意にゆきの華奢な躰を抱きすくめてきた。 「こうして抱き合って温もりを共有することが何よりも幸せなのだということを、教えてくれたのはあなたですから」 「天海……。あなたも私に教えてくれたんだよ、色々なことを。愛することの本当の意味や、あなたの愛の大きさを……」 ゆきは真っ直ぐ天海を見る。 すると天海はゆきの瞳を見つめて、ゆっくりと顔を近付けてくる。 天海のように整った顔立ちが近付いてくるだけで、心臓がどうかしてしまいそうだ。 綺麗過ぎる顔立ちというのは、かなり心臓に悪いと、ゆきは感じずにはいられなかった。 「そんな潤んだ瞳を見せて、君は罪深い子ですね……。そんな瞳は、私以外に見せてはいけませんよ……」 妖しく甘く、そして何処か情熱的に、天海は囁いてくる。 天海の声は艶やか過ぎて、本当に心臓に悪いと、ゆきは思わずにはいられなかった。 「……ゆき……、ずっとそばにいますよ。あなたが望む限り……」 「天海」 ふたりの唇がしっとりと重なっていく。 ゆきは唇と抱擁を通じて滲む天海の熱に愛情を感じる。 永遠に一緒にいたい。 天海にとっては、ゆきの永遠なんて、あっという間だろう。 だがそれでも最後までそばにいたいと思う。 愛するひとが神様であろうとも、そうでなくても、そんなことはゆきには全く関係ない。 あいするひとだけだ。 それだけの事実しかゆきにはない。 キスの後、ゆきははにかみながら、天海を真っ直ぐ見つめる。 「……大好きだよ、天海。ずっとずっと一緒にいてね」 「勿論ですよ、あなたが望む限り……。私の愛しいひと……」 愛しい子ではなく、愛しいひと。 それは神様ではなく、ひとりの男性として、天海がゆきを愛してくれている証。 言葉の甘い重みに、ゆきはただ「お願いします」と、愛を込めて囁いた。
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