天海はかなりモテる。 だが、その意識は本人には全くない。 それが不思議なぐらいだ。 綺麗で魅惑的なオッドアイ、整いすぎている美貌。 どこを取っても、麗しく思える。 そして艶やかな声。 落ち着いた甘い声と美しい容姿に、誰もがうっとりとしてしまう。 ゆきは、完璧過ぎる容姿の恋人を持つと、あらゆる面で、やきもきせずにはいられなくなるのだと思ってしまう。 今日も天海と待ち合わせをして、水族館へと出かける約束をしている。 ゆきにとっては、待望のデートだ。 ゆきは楽しみでしょうがなくて、ついうきうきとスキップすらしてしまいたくなる。 天海と釣り合うようにと、お洒落も一生懸命頑張った。 天海は何を着ても完璧だけれども、ゆきはお洒落で誤魔化さなければと、思わずにはいられない。 誰もがゆきを値踏みするように見つめるから。 ゆきにとってそれは切なくて辛いことなのだが。 今日も約束通りの時間に、待ち合わせの場所に向かう。 すると、天海が既に待ってくれていた。 天海の前を通る誰もが、うっとりとするような眼差しを向けている。 恋人であるゆきですらも、天海を見つめるたびに、毎回、ドキドキしてしまうのだから。 ゆきが天海の前に近づくと、大人の女性が近寄って何かを話しているのが見えた。 仕事がよく出来そうな、大人の女性だ。 天海に何かメモのようなものを渡すと、女性は立ち去っていった。 ナンパだろうか。 ほんのりと嫉妬を感じずにはいられない。。 ゆきが近づくと、天海は甘い笑顔を、真っ直ぐ向けてくれた。 「天海、お待たせ」 「時間にピッタリですよ、ゆき。私は君を待たせたくはなかったですから、ひとあしさきに来ました」 「ありがとう、天海」 ゆきが天海に笑顔を向けると、更に蕩けるような笑みをこちらに向けてくれた。 「ゆき、水族館に参りましょうか。とても楽しみですよ」 天海はゆきだけを見詰めると、その手をしっかりと取ってくれた。 本当にゆきだけを見つめてくれている。 ゆきにとってはロマンティックな眼差しだった。 たっぷりとロマンスを感じずにはいられない。 ふたりで恋人繋ぎをしながら、水族館に向かって歩き出す。 「ね、天海、さっき、女の人が天海に話しかけていたけれど、あれはなんだったの?」 「……ああ、あれは事務所に遊びに来ませんかって言われて、何か連絡先が書かれたメモを頂きました」 天海はゆきにメモを差し出してくれる。だがそれは、メモではなくて、名刺だった。 しかも有名モデルプロダクションの。 ナンパではなく、正真正銘のスカウトだったのだ。 確かに、天海のようなミステリアスで完璧な容姿なら、モデルには向いているだろう。 どこのプロダクションも、欲しいと思う逸材には違いない。 ゆきがスカウトならば、確実にスカウトしているだろうから。 「スゴいね、有名モデルプロダクションからのお誘いなんて」 ゆきが笑顔で天海に言うと、逆に溜め息を吐かれてしまった。 「どうしたの、天海」 「モデルとやらは、人前にその身をさらして、服を見せびらかして、笑顔になる職業なのでしょう? 私は嫌です」 天海はうんざりとしたように呟く。日頃から、容姿を強く誉められるのを、嫌がっているようだ。 だから、この話題には触れないでおこうと思った。 「不特定多数の誰かにじろじろと見られるのは嫌なんですよ……。見られるのなら、君だけで良い」 天海は、甘いストレートな言葉を、ゆきにダイレクトに投げ掛けた。 嬉しいストライクが投げられて、ゆきは嬉しくてつい耳まで真っ赤にしてしまった。 ゆきが余りにも真っ赤になっているからか、天海は不思議そうにゆきを見つめた。 「どうされたのですか?ゆき」 あんなにも嬉しくて甘い言葉を囁いたご本人は、全く自覚などないようだった。 「……だって、天海が……」 「私が?」 「……あんなに嬉しくて、恥ずかしい言葉をくれたから……」 ゆきが真っ赤になりながら言うと、天海はフッと微笑んだ。 「……君は本当にお可愛らしい……」 天海はゆきだけを熱く見つめると、恋人繋ぎで絡んだ指先に力を込めた。 こうしてロマンティックにドキドキしながら歩くだけでも、とっておきのデートになる。 大して展示内容は変わっていないのに、ついヘビーローテーションで、水族館に来てしまう。 水族館と植物園、動物園に公園。 これが特にふたりが気に入っていて、ヘビーローテーションになりがちなデートスポットではある。 自然と生きているものがいる場所が、特に気に入っている。 だが、本当は場所なんて関係ないのかもしれないと、ゆきは思う。 天海と一緒にいられて、生きているものに触れられたら、それだけで構わないのかもしれない。 ゆきはそんなことを考えてしまう。 何度も、何度も、ふたりで訪れているから、そんなにも変わり映えはしないのだけれど、天海と一緒にいるだけで、いつも新鮮な、発見があるのだ。 ゆきは、天海と一緒にいるだけで、楽しいのは、きっと大好きなひとが魔法をかけてくれているからではないかと、思わずにはいられなかった。 幸せな魔法に、いつまでもかかっていたい。 天海の素敵な魔法ならば、一生かかっていても、構わない。 ゆきはうっとりと天海を見上げた。 「君は水族館が好きですね」 「海に漂っているのって、なんだかロマンティックだから」 「君は“ロマンティック”とやらが、大好きですね……」 「はい……」 だけど、一番ロマンティックなのは天海だと、心のなかで思う。 だが、恥ずかしくてしょうがない。 ゆきはつい俯いてしまう。 「どうされたのですか?」 「なんでもありません」 恥ずかしくて、ゆきは天海をまともに見ることが出来なかった。 「こうして恥ずかしそうにしていると、何かあるのかと思ってしまいますよ」 天海はゆきを甘く追い詰めるように呟く。 天海に艶のある眼差しで追い詰められると、ゆきは負けてしまう。 威力があると分かっていてやるのだ。 それが天海には解っているのだ。 ズルいし、少し悔しい。 「……だって……」 ゆきは真っ赤になりながら、上目遣いで天海を見上げる。 とっておきのことを伝えたいときは、どうしてこんなにも緊張してしまうのだろうか。 唇が震える。 ゆきは思わず咳払いをした。 「……天海、耳を貸して?」 「はい」 天海はゆきの背の高さにあわせて屈んでくれると、耳を貸してくれる。 これならロマンティックに話が出来る。 「……天海、あなたが一番ロマンティックだよ……」 ゆきが囁くと、天海はフッと幸せそうに笑う。 天海はゆきを引き寄せると、そのまま頬にキスをくれた。 とっておきの甘いキスを。
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