天海がゆきの世界で生きてくれるようになってから、本当に楽しい日々が続いている。 楽しくて素晴らしい日々だ。 ゆきは、そんな毎日を充実して生きている。 出来る限りふたりでいる時間を作って楽しんでいる。 だが、天海は綺麗だからか、とても女の子たちにモテるのだ。 綺麗で優しい。 それだけで女の子たちは、うっとりとしてしまう。 天海はごく自然にそれをしているのだから、余計に悩ましい。 自分だけを見つめてくれているのは分かっている。 愛されていることも。 女の子たちに優しいのは、天海の慈愛の大きさであることも分かってはいる。 けれどもゆきにとっては、それがまた複雑な気持ちにさせる。 自分だけを見つめていて欲しい。 そんなことを不意に考えてしまう。 ワガママな感情であることは、分かっている。 だが、恋する女の子は余裕なんてないのだ。 それを分かって欲しいと、ゆきは思ってしまう。 今日はデート。 綺麗で素敵な天海と釣り合うようにと、ゆきは細心の注意を払って、おしゃれをする。 天海が美しくて完璧であるからか、ゆきへの女の子たちの目は厳しかったりするのだ。 だからこそ、天海とのデートは何処も手を抜くなんてことが出来なかった。 きちんと支度をして、ゆきはギリギリで約束の場所へと向かう。 既に天海は待ってくれているだろう。 ゆきは足早に約束の場所へと向かった。 約束の場所に到着すると、天海が既に約束の場所にいた。 「……天海……」 声をかけようとして、ゆきは引っ込める。 天海が女性を抱き起こしてあげている様子が見えた。 綺麗な女性だ。 じっと見つめていると、抱き起こしている間、女性はじっと天海を見つめていた。 本当にうっとりとするような瞳だ。 抱き起こされたのに、女性はまだ天海を見つめたままで、逆に手をギュッと握りしめている。 その様子を見ていると、女性は一目で天海に惚れてしまっているのが分かる。 天海は女性にはあくまで柔らかく対応している。 その様子に、ゆきは泣きそうになった。 天海はあくまで、優しさからそうしているのだろうが、女性はそうではない。 それが余計にゆきを、苦しくさせる。 天海が浮気をしたわけではないのに、そうされてしまったかのような気持ちになってしまう。 なんて独占欲が強くて、嫉妬深いんだろうか。 ゆきは自分で自分が嫌になってしまう。 しかも、女性は天海の手をなかなか離さない。 離して欲しい。 そう懇願するように思っても、なかなか女性は離してはくれなかった。 天海のような男性に助けられると、誰もがドラマティックでロマンティックだと思うかもしれない。 同時に、これは運命かもしれにいと。 ゆきにとっては、胸が痛い感情に違いはなかった。 こんなにも息苦しい感情なんて他にない。 ゆきはそう思いながら、じっと様子を見ることしか出来なかった。 やがて、天海がゆきに気づいたようで、やんわりと女性に断りを入れると、優しい笑みをたたえて、ゆきに向かってやってきた。 「ゆき、お待たせ致しました。あなたがお越しになっていることは気配で感じましたが、何分、お困りのご婦人がいらっしゃったので……」 天海はいつも以上に優しい笑みを浮かべてくれる。だが、ゆきは泣きそうになる。 「……天海、私に気づいていたんだったら、どうしてすぐに声をかけてくれなかったの!?」 天海は親切心でやっただけなのだから、お門違いなことぐらいは分かっている。 だが、恋する女の子としたら、誰よりも優先して欲しいと思った。 「天海、私がいるのに、どうして他の女性を優先したの!?」 こんなことを言えば、天海に嫌われてしまうことぐらい分かっている。 だが、苦しいぐらいに募った恋心が、ゆきを、更に嫉妬へと追い込んでしまう。 日頃のことがあるのかもしれない。 だが、ゆきにとっては、天海を独占したい気持ちを、これ以上我慢できなかった。 頬に冷たいものが伝う。 最初は自分自身の涙だと思った。 だが、空からも雨が落ちてきた。 ワガママだから、頭を冷やしなさい。 天からはそう言われているのかもしれない。 ゆきは空を見上げると、深呼吸をした。 落ち着こう。 落ち着かなければならない。 「……天海、今日のデートは中止にしよう?私、頭を冷やさないと」 ゆきはぼんやりと呟いた後に、天海から離れようとした。 たが、いきなり天海に腕を捕まれてしまう。 「……ゆき、せっかく会えたのに、私があなたを返すはずがないでしょう……。来なさい」 天海は強引にゆきを引っ張ると、この世界で天海が棲みかにしている洋館へと連れて行かれる。 雨に濡れるのも構わずに。 体があめに濡れてすっかり冷えきってしまったところで、ようやく天海の家に着いた。 家に入るなり、バスタオルを手渡される。 「風邪を引きますから、これで身体を拭きなさい。御風呂を準備しましたから、ゆっくりつかって、落ち着きなさい」 天海に諭すように言われて、ゆきはただ頷くことしか出来なかった。 言われた通りにお風呂に入る。 浴槽に身体を預けると、少しずつ落ち着いてきた。 やはり今日はかなりワガママで、天海を困らせてしまった。 ゆきは反省をしながら、お湯のなかで溜め息を吐いた。 様々な思いをして結ばれたひとだから、ゆきにとっては好きで、好きで、しょうがないひと。 愛しくてしょうがない。 だから独り占めしたいだなんて、本当に子供じみている。 嫉妬の余りに大好きなひとに八つ当たりをしてしまうなんて、終わっている。 きちんと謝らないといけない。 ゆきはどうしたら謝ることが出来るだろうかと、そればかりを考えてしまう。 謝りたい。 そんなことをぼんやりと考えていると、浴室のドアが開く音がした。 振り返るとそこには、天海がいた。 あまりのことでゆきは驚いてしまい、浴槽の中で身体を小さくさせる。 すると、天海はゆきの後ろ側の浴槽に入ってきた。 ギュッと背中から抱き締められると、胸がいっぱいになる。 そのまま天海はゆきの唇を奪ってきた。 ゆきが一番大切なのだと教えるように、ソフトに何度もキスをしてゆく。 涙が出るぐらいに幸せだ。 キスをするたびにゆきの心が蕩けて解れていった。 今なら素直になれる。 「……ごめんね、天海……」 ゆきの謝罪に天海は抱き締めて応えてくれる。 「……愛していますよ、ゆき……」
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