天海は神様だからいつまでも年を取らないのではないかと、ゆきは思う。 ゆきは少しずつ年を取っていくから、天海といつか釣り合いが取れなくなるのではないかと思ってしまう。 そうなると切ない。 昔からゆきの願いは、大好きなひとと“共に白髪になるまで”一緒にいること。 だが、天海は神様だから、きっといつまでも若いままだ。 ひとりだけおばあちゃんになっても、天海はゆきを愛してくれるのだろうか。 そんなことを考えると、ゆきは泣きそうになる。 だが、これは天海には秘密だ。 こんなことを心配していると解ったら、きっと切ない気持ちになるだろうから。 ゆきは黙っていようと思うが、最近、そのことばかりに意識がいってしまう。 それはきっと、誕生日が近いからかもしれない。 ゆきが年を重ねても、天海は変わらずに愛して欲しいから。 本当は、天海にも、共に白髪が生えるまで一緒に年を重ねていて欲しい。 わがままなのだろうか。 今日は天海とバースデーデートだ。 最近はすっかりこちらの世界に溶け込んで、天海は人間のように馴染んで生活をしている。 ゆきの誕生日にも、とっておきのバースデーデートを用意してくれている。 ゆきにはそれが嬉しくて、いつも以上にお洒落をしてしまう。 ワンピースを着て、ほんのりと化粧をして、出来る限り美しくする。 ゆきにとってはとっておきのデートであるから。 天海と釣り合うように、いつまでも綺麗でいたいから。 待ち合わせ場所に行くと、天海が堂々とした存在感で、ゆきを待ち構えていた。 ゆきは、天海の美しさに華やいだ気持ちになりながら、天海の元に走ってゆく。 天海をうっとりと見つめている女性はかなり数多くいるが、ゆきの大好きな天海は、ゆきだけを見つめてくれている。 女の子としての優越な気持ちが滲んで、ゆきはつい笑顔になってしまう。 「天海、お待たせ」 「ゆき……」 天海は眩しいぐらいに甘い笑みを浮かべると、ゆきにいきなり白い薔薇の花束を差し出した。 デートの始めからのロマンティックなサプライズに、ゆきはうっとりとせずにはいられない。 白薔薇の花束は、それだけでも充分過ぎるぐらいのバースデープレゼントになる。 「天海、有り難う。綺麗な花束で物凄く気に入ったよ」 「……これだけではありませんよ……。こんなものでは君が好きだという気持ちも、君へのお祝いする気持ちも表現することは出来ないですからね……」 天海は大したことなどないとばかりに言うと、ゆきをエスコートするようにその手をしっかりと取ってくれた。 天海はロマンティック過ぎるところもあるけれども、ゆきにとってはそれがまた嬉しくもある。 ふたりで手を繋いで、のんびりと歩き始める。 「今日の君は本当に美しいですよ」 「有り難うございます」 「……ゆき……」 天海は自分だけを見つめてくれている。 ゆきにはそれだけでも、最高のバースデープレゼントになるのだ。 「天海、有り難う。いきなりでビックリしちゃったけで、物凄く嬉しかったよ。こうして誕生日に天海と一緒にお出かけ出来るのが、私には一番嬉しいから」 「私は、こうして、神としてではなく、君と対等な立場で一緒にいたいですから、とても嬉しいですよ」 「勿論、私だって嬉しいよ。ずっと天海と、こうやって何でもない日常を過ごしたいって思っていたから……」 天海と人間同士というよりは、ごく普通の愛し合う者たちとして、付き合ってみたい。 そのゆきの願いを叶えてくれたのは、天海なのだから。 「今日はドライブ……とやらをして海に行って、その後は……、ゆっくりと食事をして、君の誕生日をお祝いすることにしましょう」 「有り難う、天海、本当に嬉しいよ」 天海のデートは、いつもロマンス小説みたいに素敵で、女の子の夢を叶えてくれるようなものばかりだ。 きっとゆきの気持ちを感じ取ってくれているのだろう。 ゆきは天海の様々な気遣いと愛情に感謝をしながら、そっと寄り添った。 天海は最近、ドライブにハマっているようで、かなり楽しんでいる様子だ。 ドライブにハマっている神様なんて聞いたことがないとゆきは思いながらも、天海のドライブを楽しんだ。 景色を楽しむというよりは、運転をする天海を見て楽しむといった感じだ。 運転している天海は、本当に素敵だと思うから。 「ゆき、先程から私ばかりを見つめていますね? 君は景色を楽しまないのですか?」 「景色も楽しいけれども、天海が運転している姿を見るほうが楽しいよ。私は」 ゆきはニコニコしながら、自分の気持ちを素直に伝える。すると天海は嬉しそうに微笑んでくれる。 「そんなことを言われたら、ずっと君を連れてドライブをしたくなりますよ」 天海の言葉にゆきもつい笑顔になる。 「ですが今日はとっておきの場所にお連れ致しますから、ドライブばかりというわけにはいきませんが」 「天海がいうとっておきの場所も、とても楽しみにしているから」 「はい。期待していて下さいね」 天海が言うのだから、本当にとっておきの場所なのだろう。 ゆきは楽しみでしょうがなくて、ついニンマリと笑ってしまった。 車は海辺の駐車場に停められて、天海はゆきの手を取って、まるで王子様のようにエスコートをしてくれる。 ついうっとりとしながら、ゆきは笑顔になった。 「ゆき、海岸に下りましょうか? ここから見られる夕陽は本当に美しいのですよ」 「はい」 「砂浜は足下がとても悪いですからね。手を離さないようにして下さい」 「有り難う、天海」 天海と離れないように手をしっかりと繋いで、慎重かつゆっくりと砂浜を歩いてゆく。 安定がないところがロマンティックなのではないかと、ゆきはつい思ってしまう。 ふたりに優しい夕陽が差し込んで、ロマンティックなスポットライトになっている。 ゆきにはそれが嬉しくて、つい天海を見つめた。 夕陽のスポットライトを浴びた天海は信じられないぐらいに綺麗で、ゆきはつい息を飲む。 天海はずっと美しいままだろう。 だが、誕生日ごとに年を重ねてゆく自分はどうなのだろうか。 ゆきはそう考えるだけで胸が痛むのを感じた。 ゆきが切ない顔をしたからだろうか。 天海は背後から心ごと包み込むように抱き締めてくれた。 その抱擁の温かさに、ゆきは涙ぐんでしまう。 温かくて優しい天海らしい温もりだ。 「……折角の誕生日だというのに、君はどうしてそんなに切なそうな顔をされるのですか……?私には言えないことでもあるのですか?愛しいひと……」 天海の落ち着いた甘い声がほんの一瞬、揺れる。 ゆきは天海の優しい愛を感じる余りに泣きそうになった。 「大丈夫、天海。ただ、私は誕生日を迎える度に年齢を重ねていくけれど、天海はいつまでも若いままでしょう? だけど、私がおばあちゃんになったら、天海とはバランスが取れなくなるし、年を取っても天海は私を愛してくれるのかなあって……。そう思ったら……」 言っているうちに哀しくて泣きそうになる。 すると天海はしっかりと抱き締めて、キスをくれた。 「私の姿も君と同じように老いたいと思っていますから心配しないで下さい。それに私は君だけを永遠に愛する自信がありますから、心配しないで大丈夫ですから」 天海の言葉にゆきの心は軽くなる。 これからはきっと誕生日が好きになる。 そう思わずにはいられなかった。
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